魔法使いとデート
今回のターゲットがようやく決まりました。風間雄弘さん、どうやら一人暮らしのフリーターみたいです。彼の何に私の不幸感知アンテナが引っかかったのかわかりませんが、目をつけた以上逃がすわけにはいきません。何が何でも契約して――って言いたいとこですが、正直あんまり無理強いするのは好きじゃないんですよね。現状維持のままでいいならそれで構いませんけど、もしかしたらこの先近い未来に何か起こる可能性だってあります。なので一ヶ月の時間をもらったのは幸いでした。
とりあえず今日から彼の家にお邪魔することになったんですが、いいんでしょうか? 最近の流れだと割と問題になるような……。
まあ、何かあったらそのときに考えればいいわけで、今は寝る場所を提供していただけるだけでよしとしましょう。雄弘お兄さんと私、ねずみの宗次郎さん。あわせて二人と一匹の共同生活が始まります。
楽しい毎日になるといいなあ。
「遊園地に行こう」
「唐突だな、おい」
居候生活を始めてから二週間が経ちました。
お兄さんは朝早くから暗くなるまでバイトに励んでいます。その間私はお掃除したり洗濯したりご飯作ったりと、新妻よろしく家事にいそしむ毎日。アパートのお隣さんにも最初は不審がられてたんですが、軽く言いくるめ……もとい誠意ある説得で、無事姪っ子という立場に落ち着きました。
お兄さんは後から聞いて呆れてましたけど。
さて、今日はお兄さんのバイトがお休みの日です。なので、ちょっとお出かけしようと誘ってるんですが……。
「お兄さん、今日バイトお休みでしょ? 私とデートしようよ」
「確かにバイトは休みだけど、色々と家のことしなきゃ……」
ところがどっこい、家の中にすることは何もありません。普段の努力のたまものです。
「私が毎日やってるから、何も溜まってないじゃない」
「そういやそうだな」
「だから遊びに行こうよー」
「デートから遊びになったな。ま、いいか。準備するから待ってろ」
おお? もっと苦戦するかと思いきや、お兄さん意外と素直に応じてくれましたね。ありがたやありがたや。
「わあい、お兄さん大好き!」
「こら、ひっつくな。着替えられないだろ。甘えてくれるのは嬉しいんだけど、もう少し節度を持ちなさい」
嬉しさのあまりできる限りの愛情表現でお兄さんに抱きついたんですが、怒られてしまいました。
……お兄さん、マジメだなあ。
というわけで、やってきました遊園地。実は私、遊園地初体験です。
「さて、ちょっと贅沢してフリーパス買ったからな。好きなのいくらでも乗っていいぞ」
「あの、お兄さん」
「ん? なんだい?」
「私お金持ってないわけじゃないから、自分の分ぐらいは……」
「遠慮しなくていいって。だいたい海ちゃんがデートって言ったんじゃないか。俺が出さないでどうするんだよ。ほら、せっかくだからどんどん行こう。最初は何に乗りたい?」
ううう、そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな。
……うん、ここはありがたくおごられよう。恩返しはまた別のことでやればいっか。
「んーと、コーヒーカップがいいな」
「よし、じゃあまずはそれ行こうか」
意気揚々と私を従えてコーヒーカップに向かったお兄さんでしたが……。
「うおぉぉ……酔った……」
めちゃくちゃダメージ受けてました。
「もー、だらしないなあ。あんなに楽しかったのに」
「……私も、少し気分が……」
と、鞄の中からも苦しそうな声が。まさか宗次郎さんも?
「海ちゃん、回しすぎ。どんな腕力してるんだ……」
お兄さん、今の発言はペナルティだよ。
「女の子に対してなんたる言い草。罰として次はジェットコースターね」
もうガンガン行っちゃうんだから!
「いやー、意外と楽しかったなジェットコースター」
…………。
「うぉぉぉ……」
今度は私がノックアウトですよ……あんなに速いなんて思わなかった。
「なんだよ、自分から誘っておいて」
お兄さんは苦笑いしてるけど、こっちはそれどころじゃありません。なんというか、まだ振り回されてる感じがしてふわふわしてます。
「白状すると私、遊園地初めてで……宗次郎さんも……」
鞄から宗次郎さんを出して肩に乗せようとしますが、なんだかふらふらしてうまくバランスが取れないみたいです。私の服の袖にしがみついてるのが精一杯。
「毛むくじゃらなのに、なぜか顔色悪い気がするな。大丈夫か?」
宗次郎さんをのぞき込んで不思議そうな顔をするお兄さん。心配してるのか微妙なところです。
「……案ずるな」
「つ、次は気を取り直してお化け屋敷行ってみよー! 定番だって言うし!」
「構わないけど、海ちゃん、ちびるなよ」
「そっ、そんなことしないもん! お兄さんのデリカシーなし!」
「うううぅぅ、怖かったよぅ……」
怖かった! すっごく怖かった! もう二度とお化け屋敷には入らない!
「崩壊寸前だな。泣き出さなかったのは評価してやろう」
お兄さんがそんなこと言ってるけど、全然嬉しくありません。宗次郎さんは途中から完全に鞄の中に引っ込んで顔も出さないし。時々ビクってしてた気はするけど、単に私の悲鳴にびっくりしてただけのような……。
「だいたい君、魔法使いなんだろう? 悪いやつと戦ったりとか、悪霊たいさーん、とかはやらないのか?」
むう、お兄さん、なにやら魔法使いを勘違いしているご様子。
「悪霊退散は巫女さんとかでしょ。私たちはそんなんじゃなくて、人を幸せにするお手伝いをしてるの」
「その言い方も、すごく抽象的だよな」
そう言われるとそうなんだけど、確かに分かりづらいかなあ。
そもそも『人を幸せにする』って表現自体がアレだしね。
「うーん、そうだね。直接目に見えるものじゃないから……」
「ま、別にいいけどな。ビーム出したりとかそんな派手なのはなさそうだし」
ビームって……お兄さん……。
「お兄さん、アニメの見過ぎだよ」
「魔法使いにそんなツッコミもらいたくないわい!」
「そんなことよりお兄さん、次行こうよ次!」
フリーパス持ってるんだから、じゃんじゃん攻めないとソンですよ! お兄さんの手を掴んで次のアトラクションを目指します。
「私、ゴーカート乗ってみたい! お兄さん、競争しよう!」
「わかったわかった、そんなに引っ張るなって!」
なんかテンション上がってきました。今日は一日遊び倒しちゃいましょう!




