第6話:歪な婚姻生活の幕開け
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最強の鬼人・ガルドに敗北し、その「妻」として絶対服従の婚姻を強制された由香。命を奪われる代わりに連れ去られた先で彼女を待ち受けていたのは、意外すぎるほどの静寂でした。
歪な関係から始まる二人の同居生活、その最初の波乱を描く第6話をお楽しみください!
黒い鎖に引かれるまま連れてこられたのは、地獄の最深部にそびえ立つ、煤けた黒曜石の城だった。
周囲に他の鬼人たちの姿はなく、ただ冷たい風だけが吹き抜けている。
由香は、もっとこう……虐げられ、奴隷のようにこき使われるか、あるいは慰み者にされるものだとばかり思っていた。現世の人間社会も、そしてこの地獄の荒野も、弱者には暴力と搾取しか与えなかったからだ。
しかし、ガルドが由香を放り投げたのは、城の一角にある、驚くほど静かで何もない広間だった。
「……ここが、お前の部屋だ」
ガルドは冷徹な声でそれだけ告げると、振り返ることもなく重厚な扉の向こうへと去っていった。
一人残された由香は、床に座り込んだまま呆然と周囲を見回す。
鎖はすでに解かれていた。逃げ出そうと思えば、あの荒野へ戻ることもできるかもしれない。だが、戻ったところで、あの下級の怪物どもの餌食になるか、再び別の強者に拾われるだけだ。そもそも、ガルドの圧倒的な力を思い出せば、逃げ出すことなど無謀な足掻きにすぎない。
「……何のつもりだ、あいつ……」
警戒心を解かぬまま、由香は膝を抱えた。
夜が訪れることのない地獄で、ただ静寂だけが部屋を支配している。衣食住の保証された「鬼族」の最上層。その中でもガルドの城は、異様なほどに満たされていた。食事として差し出されたのは、泥水ではなく、奇妙に澄んだ冷水と、木の実のような未知の保存食だった。
それから数日間、ガルドが由香の前に姿を現すことはほとんどなかった。
命令されることもなければ、暴力を振るわれることもない。ただ「妻」という名目の、透明な檻に入れられたような日々。
(私をどうしたいの……? いつ牙を剥いてくる気だ?)
由香の心臓は常に緊張で張り詰めていた。人間だった頃、優しくされた直後に裏切られたり、突然理不尽な暴力を振るわれたりしたトラウマが、彼女の全身の毛穴を逆立てている。信じられるのは自分だけ。誰かに依存すれば、その瞬間につけ込まれて踏みにじられる。
だから由香は、ガルドから与えられた食事に手をつけず、床の上で丸くなりながら、いつ襲われてもいいように研ぎ澄まされた刃のような意識を保ち続けた。
だがある日、城の中を少しだけ探った由香は、ガルドという男の意外な一面に触れることになる。
誰もいないはずの書庫のような一室。そこには、この地獄の歴史や、鬼人たちの過去を記した無数の古い石板が並んでいた。そして、その中央の机で、ガルドが一人、険しい顔で地図を睨みつけていたのだ。
物音に気づいたガルドが、ふと顔を上げる。その赤い瞳は、荒野で見せた絶対的な覇気とは違い、どこか底知れない疲労と孤独の色を帯びていた。
「……勝手に動き回るなと言ったはずだ」
ガルドの低い声が響くが、そこに殺気はなかった。
由香は冷ややかな目を向けたまま、挑発するように唇を歪める。
「牢屋に入れられた犬が、どこまでが自分の縄張りか確かめて何が悪いのさ。……ねえ、何であんたは私を殺さなかった? 妻なんて面倒な真似をして、何のつもり?」
ガルドはしばらく黙り込み、それから小さく息を吐いた。
「……妻か。単なる気まぐれだ。この地獄の底で、お前のような澱んだ目をしている奴を、少しだけ面白く思ったまでだ」
ふざけた理由だった。だが、その言葉の裏にある乾いた響きに、由香はかつての自分と同じ匂いを感じ取り、わずかに眉をひそめた。
歪な婚姻生活の裏で、二人の運命の歯車は、音を立てずに噛み合い始めていた。
第6話「歪な婚姻生活の幕開け」をお読みいただき、ありがとうございます!
ガルドの城に連れてこられた由香の、予想外に静かな生活と、二人の間の微かな変化を描きました。心に深いトゲを持った少女と、圧倒的な力を持ちながらも孤独を纏う鬼人。この二人がどう歩み寄っていくのか、今後の展開にご注目ください!
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それでは、第7話でお会いしましょう!




