第二章 第18話:深淵の罠と怒りの王
第二章第18話をご覧いただきありがとうございます。
最下層の過激派たちが仕掛けた禁忌の呪術により、突如として空間の影へと引きずり込まれてしまった由香。愛する妻と腹の子を奪われ、深層の王・ガルドの怒りが限界を超える緊迫のエピソードです。怒涛の展開をお楽しみください!
ゴウンッ、と空間が歪む嫌な音が城の執務室を満たした。
ガルドが伸ばした指先は、由香の衣服の裾をかすめただけで、冷徹な影の壁によって遮断された。
「由香――っ!!」
ガルドの喉から絞り出されたのは、恐怖ではなく、地獄の底を揺るがすほどの圧倒的な殺意と怒りの咆哮だった。
彼の全身から噴き出した魔力は、城の黒曜石の壁さえもミシミシと悲鳴を上げさせるほどすさまじく、周囲の空間を文字通りねじ曲げていく。
最下層の反逆者たちが命を削って発動させた禁忌の空間転移呪術は、ガルドの魔力すら一瞬の隙を突いて完全に分断してしまった。
光が収まったとき、執務室の床に広がっていた黒い影の沼は跡形もなく消え失せ、そこに由香の姿はもういなかった。
「……よくも、私から……我が妻を奪い去ったな」
ガルドの瞳に宿る赤い光は、もはや理性ある者のそれではなく、すべてを焼き尽くす修羅のそれだった。彼の足元が恐怖で崩れ落ちそうになる家臣たちの存在など目に入らず、ガルドは一歩を踏み出すだけで、城の天井をぶち抜き、上空の赤黒い夜空へと飛び出した。
一方その頃――。
空間の歪みに飲まれた由香は、激しいめまいと重力からの解放感の中で、冷たい石造りの薄暗い広間に放り出されていた。
「っ……! うそでしょ、これ……最下層の古巣の連中が使ってた、古い隠れ家ってわけ?」
由香はすぐに体制を立て直し、地面を蹴って立ち上がった。お腹の子を守るように片手を当てながら、その瞳には冷ややかな闘志が宿る。妊娠しているとはいえ、彼女はただ守られるだけの存在ではない。
現世の絶望と、この地獄の死闘を生き抜いてきた元・人間である。舐められたまま大人しく人質になる気など毛頭なかった。
「おい、隠れてないで出てきなさいよ! 人質なんて卑劣な手を使わなきゃ私を連れてこられないなんて、最下層の雑魚どももいよいよ落ちぶれたもんだね!」
由香の挑発的な声が、薄暗い洞窟のような空間に響き渡る。
すると、その暗がりの奥から、おぞましい笑い声とともに、数人の過激派の鬼人たちが姿を現した。その中心に立つのは、かつてガルドの統治に最後まで逆らい、最下層の泥沼へと逃げ延びた古参の頭目・ギルバートだった。
「ほう……。さすがは深層の王を骨抜きにした人間の雌だ。その状況で一歩も引かぬか」
ギルバートは醜悪に顔を歪め、ねっとりとした視線を由香のふくらみかけた腹へと向けた。
「だが、強がるのもそこまでだ。その腹のガキさえ人質に取れば、あの傲慢なガルドとて我々の言いなりになる。深層の新しい秩序とやらは、今日で終わりだ!」
ギルバートが手回しの部下たちに合図を送ると、周囲の闇から無数の影の鎖が這い出し、由香の四肢を縛り上げようと一斉に飛びかかってきた。
由香は舌打ちをし、魔力の刃を鋭く輝かせて迎え撃とうとした――その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地獄全体の空気が、まるですべて凍りついたかのようにピタリと静止した。
いや、静止したのではない。あまりにも巨大すぎる「怒りの覇気」が、この空間全体の物理法則をねじ伏せ、気圧を限界まで押し下げていたのだ。
「なっ……なんだ、この魔力は……っ!?」
ギルバートをはじめとする過激派の鬼人たちが、恐怖に顔を引きつらせて天井を見上げる。
天井の岩盤が、まるで紙細工のように内側から爆散した。
舞い散る黒曜石の破片と粉塵の向こうから、漆黒の外套を纏った絶対的な王が、静かに、しかし地獄の死神のごとく舞い降りてきた。
ガルドの赤い瞳が、洞窟の中にいるすべての反逆者たちを冷酷にとらえた。
「我が妻と、我が子に触れたこと……」
ガルドの低く、底冷えするような声が、洞窟内の全員の心臓を直接掴み上げる。
「その罪、万死に値すると思え」
圧倒的な怒りを纏った最強の王の降臨により、最下層の過激派たちの野望は、一瞬にして絶望へと変わろうとしていた。
第二章第18話「深淵の罠と怒りの王」をお読みいただき、ありがとうございます!
最下層の過激派に拉致された由香の凛とした強さと、妻と子を狙われた怒りで理性を飛ばしたガルドの圧倒的な降臨を描きました。敵の罠を粉砕するガルドの無慈悲な反撃が始まる次回、ぜひご期待ください!
そして次回、第19話では、ガルドの怒りが最下層の反逆者たちを容赦なく叩きのめす、圧倒的なカタルシス溢れるバトル展開に突入します……!
「由香ちゃんが囚われても全然怯えてなくて最高にカッコいい!」「ガルドのブチギレ具合がたまらん、次話の無双を早く読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、いいねをよろしくお願いいたします!
それでは、第19話でお会いしましょう!




