恐ろしい予感と体温
ほどなくして森を抜け、一行は宮殿を取り囲む防壁に到達した。
(マイヤは……アーネストが連れてきてくれたのね)
視界が広がったこの機会にと、セリスはラムウィンドスに抱えられたままの位置から素早く周囲を見回して全体の把握に努める。
離宮からセリスについてきたのはマイヤひとりで、アーネストの馬に乗せられていた。離宮暮らしということもあり、セリス同様男性と接する機会がほとんどなかったマイヤは男性と触れ合う距離に身を縮こまらせて緊張している様子である。
しかし、アーネストが何か気持ちを和ませるようなことを囁いたのか、ほっとしたように口元をほころばせて顔を上げていた。
その様子を見て、セリスは複雑な感情を抱く。
この先何が待ち構えているかわからないので、本当はそばに誰かを置いておくのは不安でもあるのだ。なにしろ、出鼻をくじくどころか、あわよくばゼファードともども殺してしまいたいと言わんばかりにライオンを差し向けられたばかりだ。主である自分がマイヤをどうやって守るのか、いまはまだ想像もつかない。
その一方で、離宮に残してきたところで安全とも言えないことをセリスはすでにはっきりと予感していた。
いまや離宮に秘されてきた姫君はいなくなり、その人となりや容貌という機密事項を知ってしまった兵士やメイドたちだけが残されることとなったのだ。
……無事でいられるのだろうか? と、嫌なことを考えてしまい、セリスは身を震わせる。
「寒いのか」
体が触れ合っているせいで、すぐにラムウィンドスに伝わってしまう。ごまかす言葉も浮かばずに、セリスは正直に告げた。
「いいえ。何か恐ろしいものが私の感情を撫でていき、驚いただけです」
「恐ろしいもの……さて。ライオン狩りすら興味本位で覗きに来た姫は、いったい何を恐れるのか」
低く、抑揚の乏しい声で呟きながらラムウィンドウはセリスを抱え直して囁いてきた。
「門番がいる。ひとまずその顔は見せないほうがいいだろう」
「なぜですか」
「隠さずに通ってしまえば、姫の顔はすぐに皆の知るところとなる。仮に国王陛下が姫のお披露目を予定しているのであれば、城内でみだりに素顔をさらすのは好まないと考えられる」
「お披露目というのは」
それは何かと詳しく聞く前に「ヴェールに代わるものを何も用意していなかった」と言うラムウィンドスに頭を掴まれて胸に顔を押し付けるようにされてしまう。
乾いた薬草のような苦みのある香りが彼の胸元から漂ってきて、鼻孔をくすぐった。
ついで、額に感じるラムウィンドスの引き締まった体の硬さや熱を意識してしまい、セリスはひそかに大いに動揺した。




