90 師匠 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに封印の地へ到着した。
ノブの兄弟子を名乗る老魔術師・マスタージェイドをも撃退した一行。
彼らはノブの師匠、世界有数の大賢者トカマァクの居住地へ向かった――。
格納庫へ艦を収納し、主だった面々は奥へ招待された。
ノブの案内で地下通路を歩き、ついた場所は大きな部屋。
不思議な部屋だった。
調度品の類は一切なく、色とりどりの水晶玉があちこちに浮かんで制止している。球同士は細い棒で連結され、分子モデルか何かのようだ。
その部屋の中央で、大賢者トカマァクは待っていた。
『これは皆さんようこそ。弟子がお世話になっております。私がノブの師にして養父、賢者のトカマァクです』
大賢者はペコリとお辞儀をした。
「あ‥‥はい‥‥」
頭を下げるレイシェル。
それを見た大賢者の声に喜びが混じった。
『初めましてレイシェルさん。うむ、芯のしっかりしてそうなお嬢さんですね。我が友ダイサクの面影もあります』
「ありますの!?」
レイシェルの脳裏に、以前映像で見た先祖の顔が浮かぶ。
短気な猿のようで、自分に似ているとあまり思いたくないが‥‥。
「なぁ。疑問はそこじゃなくてさ‥‥」
オーガーハーフエルフのエリカが口を挟んだ。
トカマァクは触手で器用に腕組みする。
『私も賢者を名乗る身。魔術師系クラスのジョブ名ではありますが、貴女の疑問を察する事ぐらいはできます。これから造る黄金級機がいかなる機体なのか。そこですね?』
「確かにそれも疑問ではある」
オウキが頷いた。
プルプル、と触手の先を軽く振る大賢者。
『いくつかプランは考えていますが、エストックナイトのアッパーバージョンにするのが一番確実でしょうね。ケイオスレベル9に達した彼女なら、その力を完全に発揮してくれるでしょう』
「9レベルないと発揮できないの?」
今度の疑問はリュウラからだ。
『はい。黄金級機は通常武器でケイオス7、強めの武器で8、最強武器やMAP兵器に9必要な事が珍しくありません。ケイオス6以下だと歩く事しかできないのですよ』
大賢者が言うと、近くの水晶玉のいくつかが、黄金に輝く装甲を鎧のように纏った機体を映し出した。
それが歴史に現れた黄金級機の数々である事を一行は察する。
「そ、そうだったんですの‥‥」
初めて知る事にレイシェルは驚きつつ、納得もした。
なぜクイン家が魂の召喚などを代々行っていたのか。黄金級機の操縦者となれる者を、常に用意するためだったのだ。
「なぁ。疑問はそこじゃなくてさ‥‥」
オーガーハーフエルフのエリカが口を挟んだ。
トカマァクは何本もある節足を器用に絡ませ、空気椅子で足組する。
『ふむ。ならば貴女の疑問は‥‥完成した後どうすべきか。そこですね?』
「確かにそれも疑問ではある」
オウキが頷いた。
組んでいた節足を再び解き、左右にうろうろしながら考える大賢者。
『私のオススメは首都へ行く事です。海戦大隊を倒した勇者達はたいした物ですが、先ほど言ったケイオスレベルの問題から、彼らにも黄金級機はまだ使えないでしょう。そこへ機体まで用意してから顔を出せば‥‥』
『この上なく心強い援軍になれますね』
近くの水晶玉をモニター代わりに、格納庫にいるドリルライガーが納得したように言った。
巨大な眼球の瞼がたわむ。大賢者が笑ったのだ。
『そう。そして一旦冷遇した手前、返って誰も何も文句は言えなくなります。現王でさえ愛想笑いする事は必至でしょうね。ぜひタメグチでえらそうに話してやりなさい』
「うん、それはいい」
頷くリュウラ。
以前、勇者達がそうした手柄を笠にきて横柄な態度をとる事を懸念していた彼女だが、自分達がやるぶんには構わないらしい。
「え? いい事ですの‥‥?」
レイシェルはちょっと考えが違うようで、怪訝な顔で眉を顰めていたが。
「なぁ。疑問はそこじゃなくてさ‥‥」
オーガーハーフエルフのエリカが口を挟んだ。
『ふむ。ならば貴女の疑問は‥‥スイデン国をコメツキバッタにした後、魔王軍へどう攻め込むか。そこですね?』
「確かにそれも疑問ではある」
オウキが頷いた。
「違うって! あんたの格好だよ! 本当に大賢者トカマァクなんだよな!? なんでそんな体になってんだよ!」
エリカは我慢できなくなって叫んだ。
『ああ、そんな事ですか。まぁ魔法職の肉体は脆いものなので、老いも考えて人工物に魂を移しただけです。ケイオス・ウォリアーの作成には問題無いので、気にしなくていいですよ』
事もなげに言う大賢者。
頭ほどの金属の箱についた、巨大なガラス細工の眼球でぱちくり瞬きしながら。
その箱の横から生えた何本もの触手を波打たせながら。
箱の底面から生えた何本もの節足で立ちながら。
触手と節足の生えた一つ眼の箱。
それが大賢者トカマァクの、今の体だった。
『なら安心ですね』
モニター越しに言うドリルライガー。
モニターの横でファティマンのシランガナーも頷く。
「あ‥‥安心なのか?」
エリカは納得していないようだった。
だがそんな事は気にせず、モニターを見ながら大賢者も頷く。
『ええ、安心です。それでは今から設計する系の仕事がありますので、お話などはまた明日にでも』
だがノブが待ったをかけた。
「我が師よ。聞きたい事があります」
『どうしました?』
問い返す大賢者に、ノブは普段あまり見せない、緊張した面持ちで言う。
「魔王軍親衛隊マスタージェイドと名乗る男が、私の兄弟子だと称しました。彼について、ご存じでしょうか」
『ほう‥‥マスタージェイド、ですか』
大賢者は触手で腕組みした。
そして言う。
『誰ですそれ?』
設定解説
・現王でさえ愛想笑いする事は必至でしょうね。ぜひタメグチでえらそうに話してやりなさい
実はトカマァクはスイデン国に特別な感情は持っていない。
元々外国からきた人間だったので、彼にとっては故郷でもなんでもない。現住所もスイデン国のちょっと外である。
親友の子孫・クイン家と、親友の残した秘宝・神蒼玉だけは命ある限り管理し続けるつもりではあるが、それは別にどこかの国のためではないのだ。
よって親友達の遺言どおり、クイン家に絶対の危機が迫る日まで勇者グロムディの残した神蒼玉の在り処は誰にも教えなかった。
何度も魔王の侵攻があったが、有能な弟子を人側に派遣してやったのだから十分手助けしてやったとは本人の考え。




