77 暗躍 10
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
旅も佳境に入り、ノブは神蒼玉を残したレイシェルの先祖・ダイザックの記録を上映する。
その途中、新たな敵が襲ってきたが、一行はそれさえも撃破した。
しかし――。
暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。
尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。
これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。
だがこの砦には、まだ住人がいるのだ。
騎士団を制圧した魔王軍が、新たな拠点として使っていたが故に。
しかしその住人達は動揺の直中にあった。
無敵を誇る彼らの大隊長が軍勢を引き連れて出撃し、戻ってこない。それから何日が経っただろうか。
隊長自身は気まぐれな所もあり、予定が変わるのは珍しくはない。
だがそれならそれで遣いの者が戻って来る。
何の音沙汰もないなどとはこれが始めてだった。
大隊長下の親衛隊、彼らの反応は様々だった。
砦で待機する者達がいる。不透明な状況に苛々する者もあれば、仕事をサボって遊び呆ける者もある。
ゴブリンやオークなどの下級の魔物は、命令がこないままなので好き勝手にしている。
寝て動かない物、倉庫の中を食べ漁る物。砦から勝手に出撃する物までいた。もちろん略奪のため人里へ行くのだが、半分ぐらいは防衛の兵に倒されて戻ってこない。
砦は今、無法地帯であった。
そんな中、独りだけ明確な目的を持つ者があった。
帰還したマスタージェイドである。
そんな彼に注意を払う者はいない。彼に何か訊きに来る者もいない。
そもそも彼の事を覚えている者など、今の砦に何人いる事か。
マスタージェイドは自室にも居なかった。
彼が幾日も立て籠もっているのは――格納庫。
ケイオス・ウォリアーの整備や修理の設備を備え、他の区画とはシャッターで隔絶できる一画である。
「できましたできましたできました。これで完成ですねウヒヒヒヒ。」
そう喚くのは、前屈みの小男、整備員のカスモドだ。
薄汚れた作業服、手には工具箱。ニタニタ笑い、口の端から涎を垂らし、ぎょろつかせた目玉の焦点は左右で違う方向を見ている。
その足元にはポーションの空瓶が散乱していて――何らかの、あまりよろしくない薬品を飲みまくっている事は想像に難くない。
そのすぐ側で、緑のローブに身を包む老人が黙って頷いた。
マスタージェイドである――が、以前とは違う。背筋が伸び、肩は幅広くがっしりと頑丈で、双眸はぎらぎらと輝いている。
容姿こそ同じだが、内なる精気は明らかに異なっていた。
二人の前あるのは、壁際のハンガーに立つ人造巨人ケイオス・ウォリアー。
たった今完成したばかりの、ワンオフカスタムメイドの新型である。
黒いボディを覆う赤い装甲。
コートのような、マントのようなカバーが肩からかけられている。
顔は‥‥緑の結晶が、宝石のような塊がそのまま頭部になっている。その頭部には黒い板が何枚も並んで差し込まれており、格子状になっていた。
「ウンセプトトリウム・ディケィ・ウィザード‥‥」
マスタージェイドが、新たなケイオス・ウォリアーを見上げながら静かに呟く。
マスタージェイドのマントの下で、何かが輝いた。
隙間から光が漏れる。
新たなケイオス・ウォリアーの、宝石のような頭部が輝いた。
マスタージェイドの輝きに呼応して。
正気を失ったカスモドの、耳障りで甲高い笑い声が倉庫の中に響き渡る。
誕生したのだ。
神蒼玉の持ち主のための、新たな機体が。
レイシェルもノブも知らない。
最大の敵がついに動き出す事を。
戦いの旅はなおも続く・・・・!




