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76/114

76 先祖 7

売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。

そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。

旅も佳境に入り、ノブは神蒼玉(ゴッドサファイア)を残したレイシェルの先祖・ダイザックの記録を上映する。

その途中、新たな敵が襲ってきたが、一行はそれさえも撃破した――。

 クラゲ艦Cオーウォーのブリッジに再び集まる一行。

 無論、復帰したオウキもその中にいる。


「ほう‥‥これが伝説の騎士ダイザックか。想像とは少々違うが、まぁ良い面構えだ」

 再開された映像を見てどこか感心したようなオウキ。

 物語は当時の魔王軍幹部との戦いが映されているが――


『地獄に行っても覚えとけえ! これが豊臣(とよとみ)大作(だいさく)の根性じゃあ!』

 騎士ダイザックはボロボロのデブ虎機で敵に自爆特攻していた。

「またか。でもどうせ死んでないんだろ」

 ジルコニアがレイシェルの頭に乗って呆れる。


 幹部が爆炎に消えた所で、ノブが映像を操作しだした。

 いくつもの場面が流れては消えていく。どうやら早送りしているようだが――

「中断されたが、最終章だけは見せておけと師匠に言われてな」

 場面を転換させながら言うノブの横で、ジルコニアを頭に乗せたまま溜息をつくレイシェル。

「はいはい、頼みますわ。何が出てももう受入れますわよ」


 そして映し出されたのは、寂れた寒村近くの半ば崩れ落ちた屋敷だった。

 先刻の上映でも何度か出て来た場所である。

 それは240年前のクイン公爵家邸だった。


「ん? 魔王との決戦編じゃねーのか」

 訝しむゴーズ。

 それにノブが答える。

「いや、その後‥‥いわばエピローグにあたる部分だ」



 隙間にあてた継ぎがあちこちにある部屋で、奇麗に洗濯はされていても粗末なドレスを纏い、クイン家の子女が立っていた。

 左腕が無く、顔の左半分は火傷で潰れた少女が。

 うつむき加減に、目の前の相手から視線を逸らして。

『本当に戻ってきたのね』


 相手は頷く。

 体も装備も傷だらけのダイザックだ。

『当たり前じゃろうが。ワシが死ぬと思ってたんかい』


『そういう意味じゃなくて‥‥私の所に』

 とても言い辛そうに少女は言った。

 憮然と、乱暴に、ダイザックは言った。

『なんじゃ。お前、ワシが望むなら嫁になると言ったじゃろうが』


『それは‥‥私にできる事ならどんな事でもすると言ったら、貴方が、ならば自分の嫁になれと言ったらなるのか‥‥と言ったから‥‥』

 とても言い辛そうに少女は言った。

 憮然と、乱暴に、ダイザックは言った。

『おう。じゃあ決まりじゃろうが』


『あれ、本気だったの?』

 とても言い辛そうに少女は言った。

 けれどそこで、ようやく視線を目の前に男へ向ける。

 憮然と、乱暴に、全く変わらぬ態度で、ダイザックは言った。

『今さらなんじゃい』


 とても言い辛そうに少女は言った。

『都へ行けば、もっとずっといい条件の女性がいくらでもいるのに。今の貴方なら、誰だって‥‥』



「この時、クイン家は潰れかけていたからな。生き残りは一人だけ、傷を治す金も無い。王家が手放した神蒼玉(ゴッドサファイア)を偶然手に入れ、それを見どころのある勇者へ渡すためだけに生き延びていたそうだ。然るべき人物を見つけるまではと秘密にして抱え、誰にも頼らずにな」

 ノブが解説すると、ジルコニアがレイシェルの頭の上に寝そべったままで呆れる。

「お嬢の実家、240年前から似たような事してんな」


 レイシェルは何も言わなかった。

 映像をじっと、真摯に見つめている。

 その映像の中で先祖が――男の方が怒鳴った。



『いい加減にせいや!』

 そう怒鳴ってダイザックは少女の右手を掴む。

 反射的に少女は払おうとするが、しっかり握ってそうさせなかった。

『脱げば男は玉と棒だけ! 女は乳と尻だけ! それだけじゃあ! ガワについてる条件なんぞ知るか!』



「何を言っているんだ‥‥?」

 首を傾げるオーガーハーフエルフのエリカ。

 滅茶苦茶な暴言だし、何の理屈にもなっていない。


 だが映像の向こうで、男は240年前に無茶苦茶な事を言い続けていた。



 男は少女の手を離さず、むしろ引きよるように引っ張った。

 少女の顔を、真剣に覗き込む。

 醜い火傷と美しい地顔の両方が、男の瞳に映っていた。

『どうにもならず終わる時でも、誰にも頼らずでかい使命を一人で抱える。そんなクソド根性見せやがって。ワシにはお前より欲しい女はおらん』


 男は荷物を床に投げ捨てた。女の手は離さないまま。

 埃っぽい床を軋ませ、武器と背嚢が落ちた。

 片方の手も空いたから――男は少女の体を抱え、抱き寄せた。

 

『お前が言った通り、ワシはケダモノやからな。ブン殴って追っ払う以外、断る方法は無いぞ』

 少女を抱いたまま話さず、男は言う。

 もう怒鳴ってはいなかった。

 静かに、囁いていた。

 

『本当に、バカね‥‥』

 少女の声も、静かだった。

 互いに届きさえすればいいのだから。それでいいのだ。



 映像は消えた。ノブは水晶玉を仕舞う。

 見終わったゴーズは欠伸(あくび)を一つかますとノブに訊いた。

「これが一番大事な所なのか? 魔王との決戦とか、神蒼玉(ゴッドサファイア)を勇者から託されるとか、公爵家サマを再興するとかよりも」

「師匠はそう言っていた。途中をはしょってもここは見せろ、とな」

 そう答えながらも、ノブの視線はレイシェルへと向いていた。


 そして――彼女は頷いた。

「ええ、わかりますわ」

「本当か?」

 驚いてエリカが訊くが、それでもなおレイシェルは頷く。


(今まで、私は自分の家系に誇りを持ち、由緒と伝統と高貴な血筋のある、この世で最も貴重な物だと信じていましたけれど‥‥)

 自分の先祖がどんな人物で、何を考えて生きたのか。そしてなぜ結ばれたのか。

 それがあってこその今であり、自分なのだと。それを知って。

 レイシェルは思っていた。

(そうじゃなかったけれど。間違ってはいませんでしたわ)

設定解説


・ダイザック=クイン

旧名は豊臣(とよとみ)大作(だいさく)。クイン家の令嬢を娶る際に、公爵家存続のため婿養子入りして改名した。


19世紀末ごろ、日本の大阪の限りなく最底辺に近い下町に生まれ育つ。

食う寝る呑むを好み、短気で喧嘩っ早く乱暴で学も無い男で、弱者が強者気取りに虐げられているのを見ると片っ端からブン殴っていた動物同然の男だった。

地元の893を叩きのめして屋敷に火をつけたせいで指名手配寸前まで行くが、ちょうど日露戦争が始まるタイミングだったので兵士に志願して大陸にバックレた。

御国のために玉砕してやろうと意気込むも、腰抜け上司の迷采配のせいで地元馬賊・ロシア軍相手に三つ巴の泥縄戦線へ突っ込むハメになる。

それでも景気よく討ち死にしてやろうと特攻をかけるも、走り出した途端にインタセクシルへ召喚されてしまった。


召喚された目の前でオークが女を襲っていたので状況確認の前に殴り殺し、到着して三分で魔王軍と戦う事が決定する。

壊滅状態のスイデン国で魔王軍へのゲリラと化し、米を奪っては敵の武器庫に火をつける毎日を送るうち、何の因果か勇者グロムディと出会う。

正義という奇麗事のために命をかけ続ける勇者の真剣な馬鹿さ加減に惚れ込み、最後まで横に立って協力し続けた。


魔王を打倒後、道中で知りあって惚れたクイン家公爵令嬢と結婚。

八児の父となる。

嫁さんが賢い人だったので、平和になりさえすれば領地はそこそこ問題なく経営でき、クイン家は時間をかけて復興。孫の代あたりでスイデン国で指折りの大貴族となる。

ダイザック本人は晩年まで領地内に現れた魔物を誰が止めようと駆除してまわっていたが、愛妻に先立たれ、ヤケ酒を四六時中呑み続けるようになって一年後に死亡。

享年99歳。

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