70 先祖 1
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
道中で数々の仲間を加える二人は戦力を増強。新たな力で追っ手を完全に打ち砕いた。
そして旅はなおも続く――。
改めて一行は封印の地を目指し、旅を再開した。
寄り道になったとはいえ、ミノーの山奥からならそれほど遠くはない。
だが既に苦戦していた。
険しい山の間、僅かな灌木が生えるだけの岸壁の間を、クラゲ艦がぶつからないように通るのに。
山頂より高く浮いては強風により移動に支障が出るし、遥か下は大きな急流の川。丁度良い高度を維持するためには、岸壁の間をぶつからないように上手く進まねばならない。
ふらふらと揺れる艦の中、艦長席でオーガーハーフエルフのエリカが冷や汗を流しながら必死で操縦している。
「くうー、操艦てなんでこんな難しいんだ」
周囲の座席にいるエルフ作業員達も、そのサポートに必死だ。
宙を羽ばたきながら、その頭上を舞うジルコニア。
「メカいじりする職業なのになんか不器用だな」
「全然違う仕事だろ・・・・メカニックが全員エリートパイロットになれるわけじゃないんだって」
そう言い返しながらも、エリカの目は前方のモニターを見たままだ。ジルコニアの方を見る余裕さえ無かった。
そんな必死なエリカに、無神経にも声をかけるゴーズ。
「で、エリートメカニックのお嬢さんよ。俺の機体はどうなった?」
「自分で壊しただろ!」
操縦に必死で、エリカの声は怒鳴るかのようだ。
だがゴーズは涼しい顔だ。おどけるように肩を竦める。
「使えるようにはしてくれてねぇのか」
「一応、仲間に頼んだけど。おっちゃんが力いっぱい動かしたら青銅級機は壊れるって!」
エリカの言う通り、格納庫ではエルフ作業員達がモヒカンに汗水たらして修理している筈なのだ。
壊れた量産型機、かつてオウキが自腹で購入したBソードアーミーを。
彼らもまさか、ゴーズが乗って力を籠めただけで機体の各部がショートして火を吹くなどと思わなかった。
いくら異界流が高かろうが、そんな事は起こらない筈なのだが‥‥。
「クソ。グスタとかいう奴に白銀級機を持っていかせたのは大間違いだったぜ」
笑みが消え、ゴーズはイライラと頭を掻く。
実は魔王軍時代、白銀級機なら乗れる事をゴーズは実証済みなのである。
まぁ機体を持っていかれてから言った所で後の祭りでしかないが。
唸るゴーズはおいといて、ジルコニアはレイシェルの元へ飛んで行った。
「なあ、お嬢。そろそろ封印の地が近いわけだが」
「ええ、わかっていますわ」
頷くレイシェル。そんな彼女にジルコニアは訊く。
「お嬢は先祖の騎士ダイザックの事をもっと知りたくねーか?」
「え?」
突然の質問にレイシェルは戸惑った。
家系で最も偉大な先祖の事なら、子供の頃に家庭教師から嫌でも教えられる。もちろんレイシェルは嫌どころか目を輝かせて聞いていたのだが。
「ふむ。そろそろいいか」
ノブはそう呟き、レイシェルに話した。
「僕は我が師、賢者トカマァクに当時の映像記録を託されている。封印の目の前に来たら、見るかどうかレイシェル殿に訊くように言われた」
「え? なんでですの?」
レイシェルには意味がわからない。
賢者トカマァクは先祖ダイザックと共に戦った仲間である。彼なら記録を持っていてもおかしくはない。
だがなぜ今なのか?
レイシェルが混乱していると、ゴーズが口を挟んだ。
「なんでえ。有るなら最初に見せればいいじゃねぇか。なんで勿体ぶるんだ」
しかしノブは頭をふる。
「当時の記録は240年の時を経た今の伝承と異なる点も多い。初対面の僕が見せれば、今の時代に残る歴史との違いで嘘つき呼ばわりされたかもしれなかった。だから信用を得てからだったんだ。師匠は言っていた。隠された事実とゲテモノ料理は心の準備がない者に押し付けるな、と」
隠された事実!
賢者トカマァクなら当時の事実を見て来たのだろうが‥‥
「あの‥‥そんなにおかしな真実なんですの?」
自分の知る歴史を否定されるという事だろうか?
レイシェルを不安が襲った。
ノブは、明確に頷いた。
「はっきり言うが、そうだ。世間では騎士の鑑、理想であり手本だと言われている。だが‥‥」
「え? 本当はモヒカンの野盗なのか?」
驚くエリカ。
「違う」
それはノブが否定した。
「じゃあ女か! あちこちデカくて強い女が好みだぜ」
声を弾ませるゴーズ。
「違う。性癖はどうでもいい」
それもノブは否定した。
『メカ生命体なのですか?』
モニター越しに格納庫から訊くドリルライガー。モニターの側でファイティマンのシランガナーが無意味にポージングした。
「違う。それじゃ人間と子孫を残せないだろう」
もちろんノブは否定した。
「お前らワザと言ってねーか?」
ジルコニアはちょっと苛立った。
「じゃあなんですの?」
不安たっぷりにレイシェルが訊く。
神妙な顔でノブが答えた。
「かなりの荒武者だぞ。パワーに手足が生えているような男だ」
「ええ‥‥」
受け入れ難いレイシェル。
理想の騎士だと、強さと高潔さと教養を全て最高に持ち合わせる、彼女の兄のような人だと今まで信じて来たのだが‥‥。
「いいじゃねぇか! よし、最強騎士の伝記を見せてくれや」
一方、ゴーズは楽しそうだ。
「うん、見たいな!」
エリカも楽しそうだ。
『要は心の強さと優しさですからね。見せていただきたい』
ドリルライガーも、ちょっと違うが賛成だ。シランガナーもモニターの横で頷いている。
彼らの期待を前に、レイシェルは溜息をついた。
「わかりました。私も興味がありますわ」
まぁ彼女の言う興味とは、最も偉大な先祖の真実に対してであり、他の三人とは確実に違う物であろうが。
「よし、では上映する」
ノブはそう言うとマントの陰から水晶玉を取り出した。
特別な物らしく、表面には呪術的な文字が描かれている。
ノブは魔力を集中し――青い煌めきが球の周囲を舞い――球が近くの空間へ、映像を出現させた。
設定解説
・要は心の強さと優しさですからね
レイシェルから見た兄・ケイドはこれに当て嵌まっていた。
家族を愛し、高貴な地位を敬い、悪の魔王軍と戦い続ける騎士であった。
妹と顔を会わせる度に、優しく微笑んで近況を聞いてきた。
ただ平民は動く背景だとしか思っておらず、教養の無い者と魔物モドキは臭い煙だと認識していた男でもある。
まぁ価値観は多様なのだ。




