65 潜伏 4
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
道中で数々の仲間を加える二人だが、最強の敵、黄金級機が現れた上、敵同士の内輪もめまで始まった。
絶体絶命の危機から行方をなんとか脱出した一行。救助した元敵将軍の案内で敵の倉庫へ着いたが――?
改造作業は進んでいるようだが、やはり一日やそこらで終わる物でもない。
その間レイシェルは飯当番を続け、おかげでご飯を鍋で奇麗に炊ける所までスキルが上がったが、それでもなお完成まで後一歩という所だった。
割烹着姿でエルフ作業員達の茶碗に飯をよそって手渡していくレイシェル。
だが途中、お盆を持ってくる作業員の中に半魚人どもが混じっている事に――飯を渡してから――気づく。
「え? 彼らは一体何なんですの?」
半魚人どもの背を眺めて呆然と呟いた。
それを聞いたゴーズが、作業員どもにおかずの皿を渡しながら答える。
「捕虜だ。ブッ殺しても良かったが、人手が欲しいようだから働かせてある」
ギルマンどもは魔王軍の印が刻まれた武具を装備していたので、その身元は明らかだった。
だが川の中から倉庫を窺っていた所を、魚を獲りにきたゴーズに見つかり、全員叩きのめされてしまったのである。
「ま、まぁ‥‥逃がしてもこの場所を報告されて、敵が攻めてくるでしょうしね」
一応のフォローをしておくレイシェル。
だが作業員に皿を渡しながら、ゴーズはどうでも良さそうに言った。
「殺しても捕まえてもいずれは攻めてくるだろうぜ。偵察部隊を複数の方向に向かわせて、戻ってこない奴らの方へ探りにいく。ウチのよくやる捜索方法だ」
偵察隊に見つかった以上、居る場所を変えないと敵本隊との遭遇は避けられないのだ。
その事に気づきハッとするレイシェル。
「え? じゃあここに敵が来ますの?」
「そりゃ来るだろ」
やっぱりどうでも良さそうに応えるゴーズ。
それを見計らったかのように、見張りの声が聞こえた。
「魔王軍がいやがったぜー!」
倉庫とはいえ壁で囲まれ、見張り櫓もある。簡単な砦と言ってもいいかもしれない。
その櫓に昇り、レイシェルは周囲を窺った。
「あそこら辺ですぜ」
見張りのモヒカンエルフが指さすのは山の麓の森。確かに木立の間を動く兵士の影が見える。こちらが気づいている事はわかっているだろうが、そいつらは倉庫への距離を徐々に詰めて来ていた。
一緒に昇ったゴーズもその兵士達を見る。
「お、生身の偵察部隊か。て事は、ケイオス・ウォリアーは大した数持ってきてねぇんだろうな」
だから先ず何かを仕掛けてくるのは兵士達の筈だ。
「それならノブやライガーには新武装の完成に専念してもらって、私達で対処すべきですわね」
提案するレイシェル。
作業は終わりかけていると聞いてはいるが、だからこそ邪魔しない方が良いと思える。
それに敵斥候に見つかっているという事は、本隊のケイオス・ウォリアー部隊もすぐ近くにいるという事だ。だから猶更、新兵器とやらは急いだ方がいいだろう。
そんなレイシェルの考えにゴーズも同意した。
「そうだな。じゃ行くか」
行って身を翻し、櫓を降りる。
「え?」
驚き戸惑うレイシェル。
その態度がゴーズには不思議に思えたようだ。
「どうかしたか?」
「いえ、別に‥‥」
そう言いながらも、レイシェルにはやはり意外だった。
(こちらについて戦いますの? マスタージェイドに裏切られただけで、魔王軍をやめたわけではない筈ですわよね‥‥)
しかしこの状況で加勢してくれるのがありがたいのも確かだ。
下手な事は言わず、レイシェルも櫓を降りる。自分も戦うために。
――程なく、倉庫から迎撃部隊が出た。レイシェルとゴーズ、エルフ作業員の半数が――
割烹着から着替え(当たり前だ)、レイシェルは門を背に森へ向かい身構える。
森の中の兵士達もゆっくり姿を現した。やはり魔王軍の鎧を纏った下級の魔物――ゴブリンやオーク達――だ。だがそれらを率いる、オーガーやダークエルフの小隊長も何体か混じっている。
レイシェルやエルフ作業員の横をジェネラルゴーズが通った。無造作に森へと向かう。
(もしかしたら兵士達も大隊長の姿を見て引き上げるかもしれませんわね)
そう期待したが――
森から矢と攻撃魔法が降って来た。
ゴーズへと向かって。
「ええ!? なんでですの!?」
びっくりするレイシェル。
ゴーズがいる事を予想している者――マスタージェイドが向かわせた部隊なのだから、まぁ当然なのである。
しかし矢も魔法もゴーズには当たらなかった。
その体から噴き出る、宇宙のごとく煌めくオーラが全て弾き返したのだ。
そしてゴーズは叫ぶ。
「ストロンガーホーン!」
黄金の衝撃波が爆発した。
ゴーズの両腕から放たれたその一撃は、視界の中の森を軽々と吹き飛ばしたのだ。
光が収まった、数秒の後。
森の境界線は倉庫から何メートルも遠ざかっていた。
ゴーズの最大奥義により木々が吹き飛ばされたために。
無論、そんな所にいた兵士達も跡形もなく吹き飛ばされている。
(あれ、彼自身の技だったんですのね‥‥)
そう思いながら、何をする暇も無かったレイシェルはエルフ達とともにただ立ち尽くすばかりだ。
だがその時。
吹き飛ばされた木々の下から、勢いよくトロールの巨体が跳び出した!
特にタフな兵士が一体、かろうじて生き延びたのである。
凶暴な鬼は完全に怒り狂い、巨大な鈍器を振り回して襲い掛かってきた。
慌てて動こうととするレイシェル。
だが彼女が動く前に、さらなる異変が起きた!
トロールの顔色が紫色に変わり、倒れて動かなくなったのである。
剣を手に呆然とするレイシェル。
「お前かよ」
振り向いたゴーズが呆れたように言うが、その視線の先にいるのは‥‥ノブだった。
【デス・パルス】――強烈な精神波によって敵の心臓に衝撃を与え、その動きを止める即死魔法。
「敵が来たなら教えてもらいたかったが」
根を詰めていたからか、いまいち精彩の無い顔で言うノブ。
それを見ると、レイシェルは素直に「うん」と言えなかった。
「だって、ライガーの新武装を造っていたんでしょう?」
それを聞いたノブは「ほう」と呟く。
「だから気を利かせてくれたのか。なら感謝しておこう。丁度今終わった所だ」
――ノブとレイシェルがそんな話をしている頃――
倉庫を目指して飛ぶ大きな影があった。
その中で二人の男が話している‥‥別々の場所で、通信機越しに。
『再度、チャンスを与えてやったのだ。しくじるなよ、若造』
年老いた男のしわがれ声。
それに『チッ』と舌打ちする、若い男の粗暴な声。
『与えてくれたのはアンタじゃねぇだろ。まぁ言われなくても、俺はやるかやられるかで勝負させてもらうさ。今度こそ‥‥な』
設定解説
・魚を獲りにきたゴーズに見つかり~
おかず担当はゴーズである。
食材はだいたい倉庫と艦の備蓄を使っているが、新鮮な物を使おうとゴーズが思いついたら適当に近くへ獲りにいく。
川の中へ潜って必殺技をぶっぱすれば、水飛沫とともに大量の魚が打ち上げられるので、作業員に行き渡る量には十分だ。
生態系や環境への影響は元々気にするつもりもない。
また肉が欲しい時は山をうろついて適当な野獣系モンスターをブッ殺して持って帰る。
なお料理は切って塩ふって焼くだけである。
他の料理方法を本人ができないので仕方が無い。
食べるモヒカンエルフどもも気にしないから文句も出ない。
レイシェルだけが内心不満を持ってはいるが、彼女は米を煮るだけで手一杯なので文句をつける事もできないのだ。




