63 潜伏 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
道中で数々の仲間を加える二人だが、最強の敵、黄金級機が現れた上、敵同士の内輪もめまで始まった。
絶体絶命の危機から行方をなんとか脱出した一行。救助した元敵将軍の案内で次に行くのは――?
レイシェルはまた前世の夢を見ていた。
いつものように、とりとめのない異世界の光景。
何人もの「王子様」が――星の海で力を合わせて戦っていた。
巨大なロボットに乗って。光の剣で斬りあい、光線と弾丸が互いを狙いあう。
そして‥‥それに指示を出すのは、自分になる少女。
しかし慣れない戦場での命令は的確ではなく‥‥どころか的外れな事ばかりだ。
「王子様」達の機体が、次々と敵の攻撃に倒れていく‥‥!
(え? え? え? 私は前世で一体何してたんですの? どういう事?)
混乱の中で目覚めるレイシェル。
そもそも別世界からこのインタセクシルへ生まれ変わる事など無い筈なのに、なぜこんな夢を見続けているのだろうか。
目覚めたのは昨日と同じ、寺院の一室。
艦を修理するため、そのままもう一泊したのである。
「問題無い所までは終わったよ。これでいつでも行けるな!」
朝食――個人別の木のお膳に乗った、米・味噌汁・菜葉・焼き魚――の席でオーガーハーフエルフのエリカは元気にそう言った。
「案内できる基地が一つあるとゴーズも言っていた。ここから封印の地へ行く道を、少し寄り道した所だ。基地というよりは資材倉庫で、戦力と呼べるほどの部隊はいないという事だが‥‥」
魚から器用に骨を取りながら告げるノブ。
その肩で、切り分けられた梨をかじりながらジルコニアが言う。
「信用できるかどうか、だよなー」
それに関して、レイシェルは判断しかねる。ゴーズは騙し討ちをするタイプには見えないが、それを確信する材料は無い。
だがエリカは気楽な物だった。
「行けばわかるじゃん?」
横でファティマンのシランガナーが、何も食べずに正座して頷いていた。
「まぁ行ってみるか。僕の呪文でも嘘の反応は出なかったし、今のゴーズに罠を張る事ができるとも考え難い」
それがノブの決定だった。
立ち去る前に、一行は礼を言うため寺院の長老と会う。
質素な法衣を纏い、目が皺に埋もれた、どれほどの歳なのか想像もつかない老人――それが闘臨寺の長老であった。
「行くか、ノブよ。マスタージェイドの事はわからず、すまなんだ」
(敵親衛隊の老人ですわね。でもなぜ、その情報を彼に訊いたのかしら?)
不思議に思うレイシェル。
だがノブは長老に頭を下げる。
「いえ、師匠に聞いて見ます」
「うむ。この時にここへ来たのは偶然だが、偶然もまた天の意思。そこのお嬢さんに伝えておくといいだろう」
(私に? 何を‥‥)
レイシェルの疑問が増えたが、ノブは長老に一礼し、背を向ける。
修行僧と忍者が並び、ノブ達を見送る。
この寺院を立ち去る時が来た。
――山間を進むクラゲ艦・Cオーウォー。寺院を離れるにつれて山は低くなり、平地が増えていく――
レイシェルとノブはブリッジにいた。
捕虜である筈のジェネラルゴーズも、マントを羽織って腕組みし、艦のクルーに煙たそうな目で見られながら。
オーガーハーフエルフのエリカもそんな一人だったが、気を取り直し、ノブに訊く。
「あの寺院の世話になれて助かったよ。長老さんがノブの友達なのか?」
「あの人も大賢者トカマァクの弟子だ。僕の兄弟子にあたり、三代前の勇者の修業相手を務められた方なんだ。僕もカラテの修業に何度かお邪魔した」
頷き答えるノブ。そう言ってからレイシェルの方へ目を向ける。
「レイシェル殿。君に教えておこうと思う。神蒼玉を手に入れたら直帰せず寄る所があるかもしれないと言ったが‥‥それがこの国。あの寺院だ」
確かに、旅を始めた頃にレイシェルはそれを聞いた。
「言ってましたわね。場合によっては、と。あそこで何をするんですの?」
返答は意外な内容だった。
「神蒼玉をあのミノー国の物にする可能性もあったんだ。いや、今もある」
レイシェルは「えっ!?」と驚きの声をあげる。
「ほう。お嬢ちゃんはスイデン国の公爵令嬢さんだろうに。国宝を他所の国へ持って行っていいのか?」
意外な話を聞き、ゴーズも口を挟む。
それにも答えるノブ。
「クイン家の神蒼玉は国の物じゃない。わざわざ国境間の空白地帯に封印してあるのもそれが理由だ。あくまでクイン家の物なんだ」
その言葉はゴーズというより、レイシェルに向けられているようだった。
「レイシェル殿。君がスイデン国に渡したいなら、それでいい。だがあの国に戻る気が無ければ、その時はミノー国に‥‥闘臨寺に預けるよう推薦しろと、そう師匠に言われている」
ノブにそう言われても、レイシェルはすぐに答えられない。
(伝説の秘宝がクイン家の所有物扱い? いくらなんでも、それは‥‥)
同じ事を思ったらしく、エリカがノブに訊く。
「スイデン国はそれでいいのか?」
ノブは軽く肩を竦めた。
「さあな。だが黄金級機を造って魔王軍に対抗するのがスイデン国でなければならない理由は無い。そして神蒼玉を持って移住すれば、どこの国だろうとクイン家を丸ごと受け入れてくれるだろう」
「なあ、お嬢。クイン家はスイデン国に見捨てられかけてるよな? 好きにしていいんだぜ」
ノブの肩でニンマリ笑うジルコニア。
それはレイシェルにとって、妖精というより小悪魔に見えた。
少しの間、考え、悩む。しかしレイシェルにはその場で答えを出す事はできなかった。
「今は‥‥神蒼玉を、手に入れる事が肝心ですわ」
それだけ言うのが精一杯だった。
モニターの一つが点灯し、倉庫のドリルライガーが映る。
『そのためにも先を急ぎましょう』
その言葉には、いつになく急いているような雰囲気があった。
「そうだな。倉庫へ向かうとしよう」
ノブは頷き、艦の進路へ、モニターへ目を向ける。
ジェネラルゴーズの教えた倉庫へと。
そこで何をするのか、ノブの頭には既に計画があった。
設定解説
・捕虜である筈のジェネラルゴーズも、マントを羽織って腕組みし、艦のクルーに煙たそうな目で見られながら~
彼に贖罪の意など全く無い。改心など全くしていない。
自分が犯してきた罪に関しては「だからどうした。俺の首が欲しければ相手をしてやるぜ」が彼の言い分。
ただレイシェル達に「負けた」手前、借りを返そうと情報提供しているだけである。




