19 宿泊 4
やっと今年の仕事も終わった。
明日は飯と便所以外は布団から出ない強い決意をもって臨みたい。
今の時代、布団の中だろうが30も執筆も映画やアニメの鑑賞もできる。
できぬのはDDのガシャで有益なアイテムを引き当てる事のみ。
だがその前にレイシェルとノブの戦いは続く。
呻き声とともに立ち上がった敵兵は叫ぶ。
「レイシェル! 不意打ちとか汚ねぇぞ!」
彼を見てレイシェルは仰天した。
「貴方はグスタ! どうして魔王軍に!?」
かつてガデア魔法騎士団の団員同士であり、互いに見知った仲である。
レイシェルをなじったその男――元魔法騎士団員グスタは、立ち上がって両手剣を抜き、怒りに叫んだ。
「お前のせいだろ! 魔王軍がお前を探して、ガデア魔法騎士団はコノナ国もろとも潰されたんだよ!」
「そ、そんな!?」
かつて身を寄せていた国の、所属していた騎士団。その壊滅を告げられ、レイシェルは動揺せざるを得ない。
「大剣使い揃いのベヒモス隊の、俺はエースだったのに……舎弟も女も何人もいたのに……部隊が……俺の部隊が潰されちまった。許さねぇ!」
グスタは剣を構えた。怒りに燃える目でレイシェルを睨みつけながら。
だがその視線を遮るように、ノブが割り込んだ。
「その怒り、なぜ魔王軍にぶつけない?」
言われたグスタは一瞬言葉につまる。だがすぐに青筋を立てて怒鳴った。
「てめぇは! あれと戦ってねぇくせに!」
その脳裏に浮かんでいるのは、魔王軍……というより、それを率いるたった一人の男。
陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズ。
ノブは「やれやれ……」と溜息をつく。
「怖気づいたならどこかに逃げればいいだろう。かつての仲間へ八つ当たりしにくるぐらいなら」
「うるせぇ! 死ねや!」
最早話す事は無いと、グスタは大きな剣を振り上げて跳び込んできた。
ノブの頭を叩き割らんと、真っすぐに!
「ノブ!」
レイシェルが叫び、慌てて間に入ろうとした。
グスタは騎士団きっての剛剣を誇り、幾多の敵を打ち倒してきた。
それをレイシェルも見ているが故に。
だが彼女の横を風が駆け抜けた。
そして、グスタの2m近い体が近くの木箱に叩きつけられる!
ノブが蹴り足をゆっくり下ろした。
その頭上でジルコニアが笑っている。
「お前の剣よりノブのカラテの方が遥かに高レベルみたいだな」
元騎士団エースの一人がもつ技量、両手剣のリーチ、そこから繰り出される一撃。
それを掻い潜ってカウンターキックで迎え打った。
ただそれだけの一撃である……実現は困難どころでは無い筈だが。
「ま、魔術師じゃねぇのか!?」
蹴られた胸を押さえて咳き込みながら、それでもグスタは立ち上がる。
鎧がなければ骨をやられていただろう――その感触に戦慄しながら。
「まぁ魔術師系クラスではある。だがカラテスキルを学んではいけないという法も無い。僕は格闘技でも最強の霊能者だ」
そう言うノブのカラテの構えから、グスタは隙を全く見つけられなかった。
ジルコニアがほくそ笑む。
「そいつが本職のニンジャかモンクならお前の首は刎ねられてたぞ」
「ち、力ならこちらが上よ!」
そう怒鳴ってグスタが剣を構え、大声で呪文を唱えた。
「【大地の領域、第二の段位。刃は硬くしなやかに輝く。輝きは武器の力となる】――ハード・ブレード!」
両手剣が金色の光を帯びた。それは弾性と剛性を増す魔法の輝きだ。
魔法戦士グスタの使う魔術は武器を強化する付与魔法。彼の戦法はあくまで両手剣が主であり、魔法はそれの補助にすぎない。
その剣は今や甲冑さえも切り裂く必殺の威力をもっていた。
だがノブは指を軽くふる。宙に散る青い光。
それが消えた途端、グスタが剣を落しそうになった。よろめきながら「重い!?」と呻く。
【ウィークン】――敵の筋肉と神経に作用し、力を入れられなくする呪文。対象の膂力は大きく衰える。
剣を持つだけで四苦八苦するグスタに、ノブの冷たい声が刺さる。
「力もお前が下になったな」
グスタの額を大粒の汗が流れた。
だが、倉庫の外から振動と大きな足音が響いてきた。
素早く【ウィザードアイ】で外の様子を映し出すノブ。
「ほう? 増援か」
月明りの下、数体のケイオス・ウォリアーが迫っていた。
「へ、へへ……まだ俺にツキはあるようだな!」
叫んでケイオス・ウォリアーの一機へ駆け寄るグスタ。
「いいだろう。付き合ってやる」
そう呟き、ノブは身を翻した。外に置いてある自機へ向かう気だ。
機体に乗ろうとするグスタを仕留める事も不可能ではない。
だがそこで僅かでも時間をかけて、増援の敵機に踏みつぶされては意味が無い。
ノブはそう判断したのだ。
「私も……戦いますわ」
レイシェルもノブとともに倉庫の出口へ向かう。
「無理すんなよ?」
揶揄するような、しかしいつもと違いどこか優し気なジルコニアの声。
だがレイシェルはきっぱりと言い放った。
「戦います!」
レイシェルに並走し、ほんの少しの間、その横顔を眺めて――ノブは頷く。
「わかった。頼もう」
設定解説
・不意打ちとか汚ねぇぞ
本人は寝込みを襲う気満々だった。
斥候に偵察させて泊っている場所を確認してから大勢+ケイオス・ウォリアーで襲うという、別におかしい所の無い戦法ではあった。
あんまりエリート魔法戦士らしくない戦い方ではあるが、彼も後が無いので必死なのだ。




