45話 交渉・2
「ふむ、交渉だと?」
興味を持ってくれたらしい。
フェールラーベンさんは、戦闘態勢をとりながらも、僕の話に耳を傾けてくれる。
ここが勝負どころだ。
慎重に、それでいて大胆に。
決して選択を間違えないように、交渉を進めないと。
「どういう内容なのかな?」
「僕たちを見逃してくれませんか?」
「ふむ。対価は?」
「バッジ10枚」
考えるように、フェールラーベンさんの言葉が止まる。
「今後もずっと、なんてことを言うつもりはありません。この一回きりで構いません。それで、バッジが10枚手に入る。悪くないと思いませんか?」
「ここで、君たち全員を打ち倒して、バッジを全部手に入れた方がいいと思うが?」
「そうですね。でも、その場合は全力で抵抗します」
「それは、私の望む展開だな。つまらない戦いになんて興味はない。君たち全員とならば、楽しい試合ができそうだ」
「でも、今は勝ち負けがメインではなくて、バッジを集めることがメインのはず。戦いに時間をとられて、時間切れ、なんてこともありますよ?」
「時間切れになる前に、私が君たち全員を打倒する、という可能性もあるわけだが?」
「それはないかと(・・・・・・・)」
僕は、あえて言い切った。
フェールラーベンさんが、僕のとことん強気な態度に、面白そうな顔をする。
第一印象で、この人は勝負の内容よりも、より楽しいことに興味を持つ……って判断したんだけど、どうやら、それは正解みたいだ。
僕の話に興味を持ち、戦闘を始めない。
このまま、うまい具合に話を進めることができれば……
「つまり、君たちは私を倒す、もしくは引き分けにもっていく自信があるわけだ。自分で言うのもなんだが、私は強いぞ?」
「でしょうね。まともにやったら勝てない。でも、それは今の話ですよ」
「ほう?」
「今は無理でも、選抜戦ならどうなるかわからない。僕たち、それくらいの可能性を秘めていると思いますよ。まあ、自分で言うのもなんですけどね」
「そうだな。否定はしない……が、そんな厄介な相手なら、今のうちに潰しておいた方がいいと思わないか?」
「普通の人なら、そう思うでしょうね」
「つまり、私は普通の人ではないと?」
「どうでしょう」
フェールラーベンさんは、考えるようにあごに手をやる。
迷っている。
僕の言葉を吟味している。
このまま、うまくいってほしいんだけど……
そんな簡単にいかないのが、現実というものだ。
「君の言う通りなら、そうだな。私なら、交渉を受け入れるだろう」
「なら……」
「しかし、本当に、期待できるほどに成長するのか? その保証はないね、残念ながら」
「保証ならありますよ」
本当は、そんなものあるわけないんだけど……
あえて、言い切る。
フェールラーベンさんは、面白そうな顔をした。
「どんな保証かな? 紙に書いて、誓ってくれるのかな?」
「まさか。そんなもの意味ないでしょう? だから、僕の力を見せようと思います」
「ふむ?」
「僕は、学院に入学して、まだ日が浅い。そんな僕が、それなりの力を見せたら? これからの成長に期待できると思いません?」
「君とクロラインの試合は見せてもらったが……そこそこ、そそられるくらいだな。私を期待させるには足りない。あれ以上があると?」
「ありますよ」
キティ先生の試験で使った、結界を打ち壊した魔法。
僕には、まだアレがある。
学院全体に結界が張られていても……たぶん、アレを使えば、結界は壊れる。
こんなところで使えば、とんでもないことになるけど……
他に方法はなさそうだ。
できることなら、僕の言葉を信じてもらい、使う前に退いてほしいんだけど……
「……いいだろう」
願いが通じたらしく、フェールラーベンさんは戦闘の構えを解いた。
「ここで君たちを打ち倒して、予選突破の可能性を下げて……本当に予選に落ちたりしたら、つまらなくなりそうだ。それよりは、今後の楽しみになることに期待したいかな」
「じゃあ、交渉は成立ということでいいんですか?」
「ああ。受け入れよう」
「ありがとうございます。なら、こちらを」
バッジを10枚出して、フェールラーベンさんに渡した。
「うむ。確かに10枚いただいた」
「じゃあ、僕たちは……」
「いや、私が立ち去ろう」
くるりと、フェールラーベンさんは背を向けた。
「今後のことを、落ち着いて話し合いたいだろう? 私が去る、という方が合理的だ。ああ、安心してほしい。もちろん、後で再び訪れたりしないし、仲間やその他の生徒にこの場所を教えることもしない」
「わかりました。では、それで」
「期待しているよ。予選で落ちたりして、私をがっかりさせないでくれよ?」
楽しそうに言って、フェールラーベンさんはこの場を離れた。
――――――――――
「ふう……」
フェールラーベンさんの気配が……すごい濃厚な魔力をまとっているから、僕でもわかるくらいの威圧感があるんだよね……完全に消えたところで、吐息をこぼした。
なんとか、しのぐことができた。
あれが、序列一位か……
セリカだけじゃなくて、あんな人がいるなんて。
この学院、とんでもないなあ。
「みんな、ごめん」
みんなの方を見て、頭を下げる。
「僕の勝手な判断で、バッジを10枚も失って……」
「そんな。頭を上げてください、ユウキさま」
「そーよ。先輩を相手にしてたら、それこそ、全滅してたかもしれないんだし……ユウキはうまくやった方ね」
みんなのフォローがうれしい。
ただ、フロムソフトさんは……
「……」
何も言わず、微妙な顔をしていた。
理解はできる。
でも、心は納得していない。
……そんな感じかな?
でも、それも仕方ない。
順調に進んでいたのに、いきなり、10枚もバッジを失うことになったんだ。
信用を失うのは当然だし、怒られても仕方ない。
「ごめん」
「……ん。仕方ない」
もう一度謝ると、フロムソフトさんは小さく頷いて、同意してくれた。
「相手は序列一位。勝てるとは思わない……が、これからどうする?」
「まだ、10枚残ってる。巻き返しは、十分に可能だと思う。当初の予定通り、攻勢に出よう。ただ、無理はいけないから、慎重に……それでいいかな?」
「はい」
「ええ」
リリィとセリカが頷いてくれた。
少し遅れて、フロムソフトさんもコクリと頷く。
「あーあー、ただいまを持って、一戦目は終了なのじゃ。この後は、普通に授業が行われるから、予選参加者は教室に戻るように」
放送が流れて、一戦目の終了が告げられた。
「っと……一戦目は終わりか」
「次は、時間的に考えて放課後ね」
「がんばりましょう」
放課後は、巻き返しを図らないとな……なにか、良い案を考えておいた方がよさそうだ。
みんなと相談してみるのもいいかもしれない。
あんなことがあったけれど、みんなは落ち込んでいない。
むしろ、これからだと、意気込んでいる。
「……」
みんながやる気を見せる中、フロムソフトさんは静寂を保っていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この作品、投稿して二ヶ月くらいでしょうか?
そろそろ区切りをつけたいものの、どこで区切ればいいのやら。
なかなか難しいです。
次は、6日の更新になります。




