30話 そして……
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
<セリカ視点>
決闘を終えたあたしは、寮に戻り、シャワールームに移動した。
服を脱いで、ノズルを捻り、シャワーを浴びる。
「んっ」
ちょっと熱すぎるくらいのシャワーが、とても心地良い。体に蓄積した疲労を取り除いてくれるみたい。
このまま、しばらくの間……
「……負けた、か」
思い返すのは、決闘のこと。
必ず勝てると思っていた、なんておこがましいことを言うつもりはない。でも、それなりに勝算はあった。
相手は古代魔法を使えるだけで、入学して間もない素人。対する私は、日々努力と研鑽を重ねて、自己を高めることに注力してきた。
あたしの勝利は約束されたようなものだ。負ける要素なんてどこにもない。
それなのに……あたしは負けた。
でも、どうしてかしら?
不思議と悔しくない。
それどころか、とても満たされたような、充実感がある。
全力を出すことができて、そして、気持ちよく戦うことができて……それは、あいつが相手だから?
「シドー……ユウキ……」
あたしに黒星をつけた男。
どこにでもいるみたいで、でも、他の男とは違う『なにか』を感じる。
それがなんなのか、今はまだ、うまく言葉にできないけど……
……すごく気になる。
――――――――――
<ユウキ視点>
クロラインさんとの決闘の翌日……僕は、ロボットのようにぎこちない動きで、カクカクと歩きながら登校していた。
「ユウキさま、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……ただの筋肉痛だから」
昨日、後先考えないで、全力で動いたからなあ……それなりに体に負担がかかっていたらしい。体の節々が痛い。
一回、決闘をしただけでこんな風になってしまうなんて、まだまだ鍛え方が足りないのかもしれない。
うーん、学院に入って間もないし、仕方ないのかな? でも、これじゃあ他の人に追いつけないかもしれないし、自主練をした方がいいのかもしれない。
「あまり辛いようでしたら、保健室に行くことをお勧めしますが……」
「平気平気、なんとかなるよ。それに、今後もこういうことは起きそうだから、今のうちに慣れておかないと」
「無理はしないでくださいね」
「うん。心配してくれてありがとう」
ビリビリとした痛みを我慢しながら、学院に移動した。
室内用の靴に履き替えて、教室に向かう。
そして、扉を開けると……
「おっ、ユウキが来たぞ!」
「おつかれさま、ユウキくん」
「昨日の決闘、私も見ていたよ! クロラインさんに勝っちゃうなんて、すごいねっ」
わーっ、とクラスメイトが押しかけてきた。
突然の展開に目を丸くしてしまう。これはどういうこと?
「みなさん、ユウキさまの活躍を見て、興奮しているみたいですね」
「そういうこと。いやー、あれを見て、私、ユウキくんのファンになったんだ」
「私も私もー」
「最後の大逆転、見ていて鳥肌が立っちゃった」
「えっと……あ、ありがとう」
あれこれと声をかけられて、改めて、クロラインさんに勝ったんだなあ、という実感が湧いてきた。
確かな一歩を踏み出すことができて、それが自信に繋がる。
この調子なら、さらに上を目指すことができるかもしれない……なんて、そんなことまで考えてしまうのは自惚れかな?
「あっ……」
教室の扉が開いて、クロラインさんが現れた。
勝者と敗者。その微妙な関係に、どう口を挟んでいいかわからない様子で、クラスメイトたちは戸惑うように視線を揺らした。
僕も似たような感じで、声をかけることができない。
そんな風に、次の行動に迷っていると、クロラインさんはズンズンとこちらに歩み寄ってきた。
ピタリと目の前で止まり、じーっと見つめてくる。
「え、えっと……?」
「……おはよう」
「あ、うん。おはよう」
「……」
なぜか睨まれる。
と思ったら、今度は苦い顔をして……続けて、もどかしそうな顔をして、コロコロと表情が変わる。
どうしたんだろう? 昨日の決闘の影響で調子が悪い、とか?
「大丈夫? なんか様子がおかしいけど」
「な、なんでもないわっ」
顔を近づけると、その分、後ろに下がってしまう。
「クロラインさん?」
「……セリカ」
「え?」
「その、セリカでいいわ。これからは、そう呼んで」
「いいの?」
「ダメなら、こんなこと言わないわ。察しなさいよ」
「あ、うん。じゃあ、セリカさん」
「さん、はいらないわ。そんな風に呼ばれると、くすぐったいから」
「じゃあ……セリカ?」
「ええ、それでいいわ」
どういう心境の変化なんだろう?
あっ、昨日のことが関係しているのかな? 友だちになろう、ってお願いしたから……それに応えてくれているのかもしれない。
だとしたら、うれしいんだけど……その辺り、どうなのかな?
「ねえ、セリカ。昨日のことなんだけど……」
「か、勘違いしないでくれる!?」
「えっ?」
「名前で呼ぶことは許したけど、馴れ合うつもりはないから」
ビシッと指を突きつけられる。
「昨日は負けた。そのことは、素直に認めるわ……でも、次も勝てると思わないことね。もう一度、勝負をしたら……その時は、あたしが勝つわ!」
「それは……うん。僕だって、次も負けるつもりはないよ」
「ふーん、言うじゃない。いつになるかわからないけど、その時を楽しみにしているわ。見てなさい、ユウキ(・・・)!」
力強く言い放ち、クロラインさん……じゃなくて、セリカは自分の席に戻った。
今のは宣戦布告、なのかな?
それとも、ライバル宣言?
どちらにしても、友だち、っていう感じじゃないよね。
「うーん……やっぱり、勝者の特権で友だちになって、なんてお願いしても、無理なのかな? 友だちになるどころか、余計に嫌われたような……?」
「ふふっ、そのようなことはありませんよ」
近くで話を聞いていたリリィが、フォローするように言う。
「二人は、もう友だちになっているかと」
「そうかな? その割に、当たりがきついような……」
「まあ、クロラインさんは素直な方ではありませんからね。あれが、クロラインさんなりの親愛の示し方なんでしょう。不器用な方です」
いわゆる、ツンデレっていうヤツ?
リアルでそんな人がいるなんて……さすが異世界!
……異世界は関係ないか。
「クロラインさんの最後の台詞を思い返してください。それが、全てを物語っていますよ」
「最後の台詞……」
頭の中でセリカの台詞を再生する。
『ふーん、言うじゃない。いつになるかわからないけど、その時を楽しみにしているわ。見てなさい、ユウキ(・・・)!』
「……あっ」
僕の名前を呼んで……
「……」
思わずセリカの方を見ると、顔が赤くなっているのが見えた。
「ね? 不器用な方でしょう?」
「そうだね」
リリィと一緒になって、小さく笑うのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回で、一区切りつきました。
いうなれば、第一章完、というところでしょうか。
これからもお付き合いいただければ幸いです。
よろしくおねがいします。




