パート 漆
目の前で起きた光景が、信じられなかった。
死んだと思ったあの大きなサソリが一瞬だけ動いたような気がして、けれどそれは錯覚だと思ってしまって。
そうしたら、野中君が私を庇ってサソリの攻撃を受けて……!
「野中君!」
叫んだ時には、もう遅かった。サソリは野中君を刺した後に横に大きく尻尾を動かして、野中君はそのまま崖に落ちていってしまった。
急いで助けようとしたら、トイナさんに腕を掴まれた。
「待て、斉藤! 野中を助けにお前まで落ちたら死ぬぞ!」
「でも……!」
「それより今は、あいつをなんとかしないといけないだろが!」
トイナさんが言ったあいつは、ぼろぼろになりながらも未だに立ちあがって野中君を殺したサソリだ。
私とトイナさんだけでも太刀打ち出来なかった。野中君がいたから、さっきは倒す事が出来た。
いつもの私だったら、倒せる訳がないとか、絶対に勝てないとか思ってたんだと思う。
でも、今の私はそんな事考えていなかった。
「……ねえシャイン。シャインって、私が強い想いをすれば、シャインもそれに応えてくれるんだよね」
『ああ』
「じゃあ……こいつ、倒そう」
『……心得た』
ゆっくりとシャインを抜いて、野中君を倒せて喜んでいるのか大きな奇声をあげているサソリと向き合う。さっき戦った時はあんなに怖かったのに、そんな恐怖心すら今の私にはなかった。
ただ、このサソリを叩きのめしたい。
そんな気持ちで一杯だった。
「絶対に、許さない……!」
私の想いに答えて、どんどんシャインの刀身が輝き始めた。それを見たサソリが驚いたのか、私が行動を起こそうとする前に尻尾と鋏で同時に攻撃をしてきた。
それよりも前に、剣を上に構えて振り下ろす――!
「はあああぁぁぁぁぁっ!!」
振り下ろした瞬間、光の束のようなものがサソリの体を貫いた。振り下ろした軌跡に沿って出てきた光の束は、真っすぐにサソリの体を真ん中から真っ二つに切り裂いていた。
血を噴き出しながら今度こそ死んだサソリは、二つに分かれながら崖に落ちていった。
けれども、達成感はまったくと言っていいほど無かった。
「……斉藤」
「う……うう……っ!」
私はシャインを地面に落として、膝をついて泣いていた。
どうしてもっと早く気付けなかったんだろうか。なんで錯覚だと思ってしまったんだろうか。
どうして、野中君みたいに強くなかったんだろうか。
考えれば考えるだけ、後悔は押し寄せてくる。
もっと私が強かったら、野中君を助ける事も出来たのに……!
トイナさんが泣いている私に近づいてきて、優しく私を抱いた。
「……斉藤のせいじゃない。本来なら私達で倒すべきモンスターを、手伝ってもらった私が悪いんだ」
「い、いえ……そんなこと……!」
「君はまだ強くなれる。それこそ私よりも。だから、野中の分まで君が彼らを守るんだ」
「うう……野中君……!」
トイナさんに抱かれながら、私は大声で泣いた。




