Ep1:―理―世界線ブラックホール
世は間もなくして崩壊した。この空間は新天地パヘクワードの残骸で構成され、この世界の空間を漂っていて、闇のダーク・オブ・ホールの次元干渉により宇宙間の通信が困難となっている。エイドカントリーズの研究施設も役目を終えたような形で既に存在しない。また、宇宙を漂っていたジグルだが、闇の存在である魔王によって救われた。その為、インシュビーとは対なる存在となり、人間として新たな空間へと向かう。無論、記憶も保持されたままで時間と共にパヘクワードとザモース・エンプスティ、ジパン・バルラーでの出来事を安易に宇宙間に浮かべることが出来た。これも空間の中で為される業だろう――として。
「儚いな・・・」
辺りは小さな光線状の連なりと交差によって空間内を抵抗する。連なる光線と爆発により、ジグルのその身は飛ばされそうになる。惑星間での艦隊戦争が起きる頃、ブラックホールが突如形成され、すべての存在が変容を遂げ消滅したのだった。それでも尚、ジグルは辺りを見回すが、どうやらインシュビー・ツインも消滅したらしい事を確認できた。これも闇の魔王の取り計らいか、彼はどうもインシュビー・ツインを取り込んでいる為に、深い洞察と執念を受継いだようである。スタヴァーは別の世界線に推移している為に、結局のところ虹の存在は闇の力では押し測れなかった。
知り得もしなかった空間。知れる内に集まる情報源。これまでの成果が根絶やしにされる様な気のするジグル。自らを愛し、自らを呪う。何故に英知を得ようとも物事を形成するほどの理を保つことが出来なかったのか。それはインシュビーという光の呪いが常に付きまとっていたからである。時を測ると共に、ジグルの身に起きた現象を推測すると、新星なる新たな場所へ紡がれる。
「不思議な、時間だね・・・」
そこには“愛撫”という出来事すら存在しない。蒼暗い空間の中には家族も同期も居なければ、兵士も議員も大臣も、そして阻止する“仲間”すら存在していなかった。ジグルは自身で突き動かしたダーク・オブ・ホールの現象を糸の屑としてしまい、闇の干渉を受けてその身を戻したものの、繋がりを持てなかった。
閃光と共に促される空間爆発。ジグルは自身の体、意志、記憶、魂が散るような感覚を覚え、その身を闇に任せてゆく。
「この空間、息が出来るんだ?」
かつて新天地計画を遂行しようとした。確かにこの空間なら、あらゆる生命の枯渇を防ぐ事さえ出来ていた。だが、ジグルにとってここは自らの居場所かどうか、今少し考える必要があると思った。パヘクワードで放った自らが「魔王」という言葉。偽りはなく、本当だと言ってくれる者など闇の住人だけで、その言葉のありがたみを感じる事など、この空間では無理か・・・と脳裏を触る。再構成、再構築、再生をしたものの、結局は闇に依存しなければ形成すら不可能だと知って、早く自らの居場所を求めるよう、体を動かすのだが、まるで河の中の魚のように動かさなくては、前に進む事すら出来なかった。推進力は闇の波動たる、魔道であり、中に眠る光の中の闇によるエネルギーが空圧と内圧で働かせている。ジグルは推進しながら、自らの座標を測り、長い時を掛けて惑星から惑星へと向かうのだった。それにしても、魔王の力が魔王を引き付けるとは思いも寄らなかった収穫だと自画自賛するのに、いつまで経っても人類らしき存在は爆発先からしか見測れなかった。
「これが宇宙、これが闘いなのかい?」
理は『お前の選択が間違っていない内は闘いは産まれ続ける』とこだまする。次第にジグルはその現象に飽きや嫌気を差しながら、宇宙に居ない筈の神にこう尋ねる。
「神よ、マーズよ。フォレスは元気かい?」
かつてミヘル・アントレアという存在が居た。だが、その以前はミヘル・ブレトーナだった。今度のミヘルは何だ?と尋ねるが、居ない筈の神はこうジグルに告げる。
―――次元フォレスからの宇宙間バーストが全てを生んだ。ミヘルもその一つだ。大いなる意志はお前にこの窮屈な空間を与えた。まずは、自らを改めよ。支配する内は自らの支配に泳がされるだろう。そして、早く気付くがよい。畏怖なる意志と魂が次代の世界線を支配する前に、お前自身が質すのだ。
だが、自らを省みず、何者にも謝らず生きて来たジグルにとってその様な説教じみた意見は脳裏にも、意志にも、魂の欠片にも通じては居なかった。神の声さえ通じなかった、とジグルは諦め、代わりに神に対して“理”と名付ける。
「では、理よ。我が向かうべき所を教えてくれ」
コトワリはこう告げる。
―――虹をも犯した危険生物、ウィナートの末裔、ジグルよ。その名を捨てて闇の住人ジグルとして生きるのなら、新たなる道を授けよう。
“シュン”
ジグルの前に闇色の光が産まれ出でる。そして、腕の様な形状の杖らしきものを奮い、闇の住人とするジグル自身を異なる世界へと転移させた。転移中のジグルの中に意志と記憶があり、魂が言葉を連ねるが、そこには誰も居ないため、ジグルはコトワリに尋ねるのを止めてそのまま転移先に向かう事になる。
―――着いた。ジグルよ、ここが闇の地上だ。新たなる生まれに歓喜するがよい。
コトワリはそう言って、辺りにも人類の棲むであろう惑星を杖で指しながら、ジグルの闇を強くそして、柔らかく取り去った。だが、内なる闇だけは取り除くことは出来ず、そのままジグルを生かす事にする。
「おぉ、理よ、ありがとう!」
ジグルは初めての感謝の言葉を述べ、周辺の様子を闇の力で飛び回り、察知可能なエネルギーを探す。ジグルの闇の力は一つの金貨と魔核鉱石の技術を知る頭脳だけで構成されている。インシュビーはそのきっかけを拵えたに過ぎなかった。ジグル自身がそういった経緯を探る内に、数多のエネルギーを感知する。
「この空間に人類たる存在が居るのかな~?降りてみよう」
“シュ、スタ”
丁度、降り立った右側に数多の存在を見つける。一人はこの地を歩き、一人はこの地を追い掛ける。他の存在は幾つかの住処に群がっている様だと感知する。そう、ここは砂漠に近く、周辺に山らしいものはクレーター位しか在り得ず、その周辺に森林らしきものが見つかる。
そう、水源がここに有る。
ジグルは一人の少年らしき人物に発見され、ジグルも一人の少年に尋ねる。ここは何処か、とか、他にも人類が居るのか、と。だが、少年は人類と言わず、闇の住人と答える。そしてここは一つの捻じりの中に存在しているとも答える。
そして、ジグルは一つの住処に招かれて、その集落らしき場所へと向かう。
空間の中では一度、魔王に助けられ、自らも魔王である事を伏せるが、その集落では包み隠す事が出来ない、と一つの大人が話す。
「なぜ、僕の正体を知っている?」
「ここはブラックホール。お前の存在・正体など薄い衣にしか過ぎんよ」
――と。
「君達は何者だい?」
「闇の住人とだけ名乗っておこう」
正体を明かされ、行き場を失ったジグル。暫くは闇の住人としてこの地に滞在する事にした。コトワリから告げられたように新たな道を見つけるようにして、周囲との共存を求められる只のジグルであった。




