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翼のない俺たちに幸せの粉を‼︎  作者: 織部りお
第3章 初恋が魅せたもの

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37話 優しい天使の魔法


「エフィルロ! しっかりしてください!」


 声が聞こえる。エルシオの声だ。私は何をしているんだろう。

 頭の中では、エルシオの声をかき消すように、ウリエルの言葉が絶えず反響している。


 『エルシオの記憶を全て消しなさい』


 そうだ、私は、エルシオの記憶を消さなければいけないのだ。

 それはなぜか。簡単だ。それがウリエルの望みだからだ。


 記憶を消す。記憶を消す。記憶を消す。記憶をけす。

 私は自分に課せられた使命を果たすために、エルシオに向けて手を伸ばす。

 

「おい! エルシオはどこだ! 目の前から姿を消したぞ。ゲートを使った素振りもない」


「どういうことですか?」



ーーーーーあれ? エルシオがいない。これじゃ、魔法をかけられない。



「この魔法は……ふざけるなよ。なぜお前がそちら側についている。それに、人間もいるな」


 ミカエルが睨む方向。私もそちらへ視線を向けるが、誰もいない。

 この感覚を、以前も体験したことがある。姿は見えないが、気配は間違いなくそこにある。だが、気配は薄い。すぐにわからなくなる。確かにそこにあった気配は、意識しようとすればするほど消えていく。

 そうだ。これは、シルエトの魔法。


「ウリエル、少し下がれ。面倒な魔法だ。いつどこから斬られるかわからん」


 ウリエルは私の元から離れ、ミカエルの側へ合流した。気配に集中し、2人とも身構えている。

 その時、私の両肩に誰かが触れた。肉眼では確認できないものの、正面に誰かがいる。


「あー、姿を消せる魔法ですか。自身だけでなく、他人も消せる。あら、エフィルロも消えましたね」


「……2人とも消えたか。やってくれたなシルエト」



ーーーーーー消えている? 私も……?

 


 変わった匂いがした。これは人間の匂い。

 懐かしい匂いだ。

 この匂いの主は。

 姿が、頭の中に浮かぶ。あなたは、私の。

 

 会いたかった。私はあなたに。

 大切だった。だから、あなたの願いを。


 パッと、私の頭から彼は姿を消した。



「フェーズ2。すぐに終わるんじゃなかったのか?」



 私にしか聞こえないように、小声で目の前の誰かは呟いた。

 聞き慣れた声だ。

 私が、今誰よりも幸せにしたい人間が、目の前にいる。


 片山楓。あなたが願いを、想いを、希望を、感謝を、余すことなく与えたいと願った人間。


 その声を聞いた瞬間。私の中で響いていたウリエルの声が消えた。何を言われていたのかは覚えていない。でも、とてもひどいことをしようとしていた。それだけはわかる。

 ウリエルの目を見てしまった。覚えているのはそこまでだ。危ないところだった。なぜか魔力も回復している。きっとウリエルの仕業だろう。私に魔法を使わせようとしたに違いない。


 でもなぜ、ウリエルの魔法が解けたのだろうか。この魔法は、ウリエルの意思でしか解除できないはずだ。

 楓のおかげなのだろうか。きっとそうだろう。そう直感で感じた。楓の手が触れた瞬間、私の中にあるウリエルの魔法が消えた気がしたのだ。


 いや、今はそんなことはいい。

 シルエトがなぜ私たちを助けてくれているのか、そんなことも今はいい。

 楓たちがきてくれたことで、状況は変わった。

 肩から伝わる温もりが、私の心まで伝わる。楓の暖かさが、私の目を熱くする。



「……ありがとう、楓」

 


 姿が消えていてよかった。

 私は、涙を見られるのが嫌いだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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 シルエトは、姿を消す魔法を使える。そしてそれは、自分以外にも使用可能だ。所有物も魔法も見えなくなるらしい。なんとも便利な魔法だ。

 エフィルロとエルシオの元へたどり着いた時、俺たちの姿を、そして、2人の姿も消す。そうすれば、たとえ大天使でも肉眼で捉えることは不可能。気配は感じられるが、どこにいるか、何をしているのかはほとんどわからない。

 姿さえ見えなければゲートを使って逃げ切ることができる。相手目線、突然気配が消えたことになる。


 ただ、この魔法には欠点がある。

 まず1つ目は「姿を消すためには、その相手に触れる必要がある」ということだ。ただし、シルエトの魔法で姿が消えている者であれば、この魔法はウイルスのように伝染させていくことが可能。

 だから、姿を消した俺たちは二手に別れ、俺はエフィルロ。シルエトはエルシオに触れる。上手くいけば、それで全員の姿を消せる。


 これが、ここに来る直前にシルエトが俺に話した作戦だ。


 ここまでは計画どおり。俺はエフィルロに触れた。エルシオも消えていると言うことは、作戦は成功しているのだろう。

 あとは、ゲートを使って逃げるだけだ。


「ミカエル。エフィルロの盲信が消えました。魔法を解かれたようです」


「分が悪いな。エフィルロが魔法を使えるとなれば、我々に勝機はない。姿の見えないエルシオも面倒だ」


 俺たちよりも先に、ミカエルはゲートを開いた。もしかしたら、今の俺たちなら彼らをも上回るのかもしれない。


「いいのか? あいつら見逃しても」


 俺は隣にいるフィロへ問う。


「当たり前よ。シルエトの魔法にも限界があるはず。いつまでも姿は消していられない。それに私の魔法も今のあの2人にどこまで通用するか……」

 

「今のって? 強くなってるってことか?」


「そう。おそらく粉の影響ね。力を得ることが幸せであるなら、おそらく力量も魔力も増加している。私の魔法は相手の実力。主に魔力の量によって私の魔力消費量が変わる。つまり、相手が強ければ強いほど、私の魔法でできることは限られていくの」


 幸せの粉が、まるでドーピング剤のように使われている。本来は、人間を幸せにするための粉だ。その使い方で合っているはずがない。

 

「でもエルシオは、そんなミカエルとほぼ互角に渡り合ってた。すごいことよ」


 俺たちが話していた、その時だった。


「まだ気配はあるな。聞こえているだろう、堕天使ども」


 剣の炎はすでに消え、夜の冷気が草原を満たしている。だがその瞳だけは、なお燃えていた。

 見えてはいない。それでも、この場の存在たちへ向けて、確かに刃が突きつけられた。

 息をするたびに痛みを感じるほど、空気は張り詰めている。


「我々は貴様らの反逆を許さない。次に会うときは、貴様らが死ぬときだ。全勢力をあげて、処刑する」


 ミカエルはそう言って、ウリエルと共に姿を消した。それでもなお、空気は重たく沈んでいる。

 首元に剣先が当てられている。そんな感覚だ。

 

 シルエトの魔力が限界を迎え、俺たちの姿が見えるようになったのは、その直後だった。


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