閑話 ダイエットその2
「くがぁーー、すぴすぴすぴぃーーー。
くがぁーーー、すぴすぴすぴぃーーーー」
ララウがうちにやってきてから、一ヶ月が経とうとしていた。
世界樹の杖事件も解決し、ホッとしたのも束の間。
ララウこと惰竜が、更に惰眠を貪るように。
「もう‥‥食えないのらーー‥‥むにゃむにゃ」
「コイツ‥‥‥」
ソファーでゴロンと寝ているララウ。
この惰竜。最近、太ってきた。特に腹が! それはもう、ぽっこりと出ている。
「このままではダメだ。‥‥やはり、何処に捨てるか」
「何を言ってるんです店長!」
「しかしだなリィーサ。この現状を見ろ。このままでは、なんでも屋にとっても、ララウにとってもよくない!」
「そうかもしれませんが・・・・。だからって捨てちゃダメですよ! 最後まで責任を持って飼わないと!」
「飼わないとって・・・・リィーサの中でララウはペット扱いなのか?」
「い、いえ、そう言う意味では無くてですね。ララウちゃんは友達ですし、可愛いですし。その、こうなんと言うか・・・・・・・」
「正直、ペットみたいなもんだろ? と言うか、そうでも思わなと俺は、今日までやり切れなかったんだけど?」
「・・・・・・うー、言い返せません」
二人で、腹を出して寝るララウを見つめた。そして、互いに視線を合わせ、頷いた。
どうにかしなければ、俺とリィーサはそう考えて、実行に移す事にした。ララウの更生・・・・いや、調教か?
まあ、どちらでもいい。もう・・・・甘やかすのはやめだ!
「ふがっ? んーー、腹が減ったのぉー。ん? あれ? えっ?
動けん? ・・・・なんじゃこりゃあーーーー!!!」
「やっと起きたか」
ララウは目覚めた。鎖でぐるぐる巻きにされた状態で。
と言うか、なんで起きない? あんだけ『ジャラジャラ」と音してのに。野生の勘が、無くなってるんじゃないか?
「のぉあーーー! 何の真似じゃあーー!!」
「何の真似って、ララウがぐうたらしてるからに決まってるだろ!
食っちゃ寝ぇの生活しやがって、店の物を勝手に食うし、家の物を壊すし、他にも色々と・・・・この大迷惑トカゲ!」
「貴様! エルー! トカゲと言うたな! 誇り高き古竜たる我をトカゲと!」
「あー、言った。・・・・あー、ララウとトカゲを比べるのは、トカゲに失礼だったな。空飛ぶ爬虫類に訂正してやる」
「むむむっ! 爬虫類? 意味は分からんが、何やら腹たつ言葉!
エル! もう許さん! ぬぉぉぉぉーーー!!」
ララウは鎖を引き千切りろうと、力を込める。しかし・・・・。
「ぬ! なんじゃこの鎖! 我の力にビクともせぬ!」
「当然だ。ララウを縛るのに、ただの鎖を使う訳ないだろ。
その鎖には、魔鋼とミスリル。それに、アダマンタイトを加えた特別製の合金鎖だ! ララウの、それも人型の力では無理だ」
「ならば、元の姿になれば! ふん! ・・・・ふん!
・・・・ふん! ・・・・何故だ! 何故元に戻れぬ!」
ララウは人化の魔法を解いて、元の竜の姿に戻ろうとするが戻れず。「どうなっているのだ!」と頭を抱えていた。
「ララウが元に姿に戻り、鎖から抜け出す可能性を、俺が考えてない訳ないだろ。その鎖には、竜封じの魔法を付与してある。古竜の力すら封じる力だ。おかげで、いい素材を大量に使った。感謝しろ!!」
「ふざけるな! 何が感謝じゃ! おい! リィーサ!
其方もエルに何とか言うのじゃ!」
俺の後ろに控えていたリィーサに、ララウは助けを求めた。
「えーと、ララウちゃん? ごめん! このままだと、ララウちゃんがダメな人に・・・・」
「人じゃなくて、竜だけどな。ダメ竜か・・・・史上初じゃないか?
ダメ竜と呼ばれる古竜は」
俺はララウを見下ろしながら、そう言った。さすがのララウも、
その言葉には何かくるものがあったらしく。
「ぬっ、ダメ竜。古竜初の・・・・ダメ竜」
ダメ竜に、かなりこたえたようだ。
見かねたリィーサが「ララウちゃん。頑張ろう! ダメ竜になっちゃダメだよ」とララウに説いた。
「うぅー、リィーサ。分かった、分かったのだ!」
「ララウちゃん!」
「明日! 明日から頑張る! ・・・・何を頑張ればいいかは知らんが」
「「・・・・・・・・」」
「リィーサ、やっぱり捨ててこよう」
「なっ! エル! ちょっと待て!」
俺の本気の目に、ララウが慌て出す。
「店長、ダメですって! それに、ララウちゃんを捨てたら、他に迷惑がかかりますよ」
「俺にかからないなら別に構わん」
「店長!」
正直、ララウが他所に迷惑かけようが知らん! 俺に平和が訪れるなら、悪魔だって魂を売り渡す! ・・・・いや、売り渡すとかダメだな。本当に悪魔が来ても困るし。異世界だから、本当に来かねないし。
「ぬう! 我にどうしよと言うのじゃ!」
「あー、そうだな。取り敢えず、ダイエットからかな?
ララウ。お前、自分で気づいてない様だけど。デブ竜になってるぞ」
「何を言っておるか! 我は太ってなどおらん! そもそも、竜の姿より食ってないのに太るか!」
何故か、太ったと認めないララウ。
いやいや、お前の腹を見ろ! 縛った鎖から、肉がはみ出てるだろ!
そう言うが「太ってない」と、言い張るララウ。
「えーと・・・・店長、取り敢えず鎖を外してあげましょうよ」
「リィーサ! よく言った!」
「おい、リィーサ。ララウはまったく反省してないんだぞ?」
「そうかもしれませんが、さすがに鎖でグルグル巻きは・・・・。
見た目的にもちょっと・・・・」
「見た目ねぇー」
・・・・うん。可愛い少女を鎖でぐるぐる巻き。危ない光景だな。
人に見られたら、間違いなく衛兵を呼ばれるな。
「確かにそうだな。しかし、ララウを今、自由にするのは・・・・。
あっ、そうだ。アレだ!」
「ちょっと待ってて」と言い残し、作業場に向かう。あるアイテムを取ってくるためだ。
「お待たせ!」
「店長それは! 首輪?」
俺が取って来たは首輪だ。勿論、ただの首輪じゃない。
鎖に付与してある、竜封じの力を付与してある。鎖より、その力は数段落ちるけど。
「なっ! そんな物を我につける気か!」
「はい、大人しくしてろよー」
「むがーー! こら! やめるのだ!」
「よし、これでオッケイ。ほれ、鎖外してやる」
『ジャラジャラ』と鎖を外し、ララウを解放してやる。するとララウは「ぬっふー! この時を待っておった!
我をコケにした恨み! 決して許さじ! とう!!」
『ぼん』と白煙が部屋に広がる。恐らく、人化を解いたのであろう。鎖より、竜封じの力は数段落ちるので、竜の姿に戻る事は出来るようだ。ただし・・・・。
煙が晴れると、床の上にちょこんと立つチッコイ竜が居た。
「ララウちゃん? えっ? ララウちゃん?
可愛いーーーー!!!」と、リィーサは小さな古竜ララウにときめいたようだ。チビゴンと成り果てたララウにタックルし、ギューッと抱きしめ、頬擦りをして堪能し始めた。
「ララウちゃん! ララウちゃん! ララウちゃん!」
「ぬぉー! や、やめよリィーサ! うなぁーーー!!!」
俺はその光景を・・・・ただ見ていた。
「あーえーと、リィーサ? そろそろ離しやれ」とリィーサに促す。さすがに、揉みくちゃにされるララウに同情してしまった。
「ぬう、酷い目にあったのだ」
「ご、ごめん。ララウちゃん」
「・・・・・・・・なあ、ララウ? そのまま飛んでみてくれ」
「ぬう? なんで?」
「いいから飛べ」
「むう、分かった。ふん! ふんふんふん!」
「「・・・・・・・・」」
「むふー! ふん! ふんふんふんふん!」
「「・・・・・・・・」」
「むがーー! ふん! ふんふんふんふんふん!!」
ララウは飛ぼうと、翼を目一杯動かす。しかし、床から三十センチと上がらない。それを何度も何度も繰り返し、そして・・・・。
「・・・・エル。我、太ったかも」と、現実を認めた。
「取り敢えず、今日から食事制限な」
「・・・・うむ」と悲しそうに肩を落とすララウ。
「飛べない竜など竜では無い」と涙を零すしまつ。
「ララウちゃん大丈夫。エル店長のダイエット食品が有れば、元に戻れるから。私もララウちゃんのお手伝いするからね!」
「うぅ、リィーサ」
リィーサに慰められ、少しは元気が出た様子のララウ。
「後、今日は一緒に寝よう。勿論、その姿でね」
「それは勘弁してほしい・・・・」
「今日くらいいいだろララウ。うん、これを罰にしよう」
「ままま、待て! エル!」
「わーーーい! ララウちゃんと一緒ーー!!」
「うぎゃーーー!!!」
この後、ララウは自堕落な生活をやめた。食事制限に運動と、規則正しい生活を心がけ、ダイエットに成功する。因みに首輪は、反省した様なので、次の日には外してやった。しかしその後、リィーサが何かにつけて、ララウに首輪をつけようと画策するようになった。
リィーサと一緒に寝たララウによると「あれは地獄、二度とごめんだ」との事らしい。リィーサ・・・・古竜にそこまで言わすとは、どんな寝相してるんだ?