呪符 その1
「こんにちはー、エル君いるかい? おや? 今日はリィーサちゃん一人かい?」
「あっ、マーサさんいらっしゃい! 実はそうなんですよー。エル店長ったら、新商品を試すとか行って、出掛けてるんです」
「新商品? なんだい一体?」
「さあ? ただ、冒険者用とか言ってましたけど」
「へえー」
その頃・・・・俺は・・。
「一人で依頼を受けて外に出るのは、初めてだな。ちょっとワクワクするな」
新商品を試すため、俺は冒険者ギルドで簡単な依頼を受け街の外へ。受けた依頼は、ゴブリン退治と他二つの依頼。試作品の実力を確かめるには、ちょうど良い難度のものにしてある。
その試作した物とは・・・・呪符だ! 呪符は、お札の形をした物で、敵に放ったり、貼ったりして使う物だ。使い勝手はいいが、カオスフロンティアでは、あまり人気が無かった。
と言うのも、呪符に封じられた魔法は、下級魔法のみ。
だったら、値は張るが上級魔法まで使用可能な、巻物の方がいい。ただ、呪符と違って製作費が結構かかる・・。
巻物は生産職泣かせな所がある。コスト面において、呪符とは比にならない程かかるのだ。
必要な素材も、呪符よりハイコストだし。利益を考え高めに設定すると、買ってくれない。お金を貯めて、グリモアを買った方が、はっきり言ってお得だ。
魔法には、数種類の用途がある。攻撃系、防御系、回復系、そして、付与系だ。それと正確には、そこに封印系も入る。
巻物も呪符も、全ての系統を使用可能だが、呪符は下級のみ。なら、何故巻物ではなく、呪符を作ったのか?
それは・・・・巻物を使用する場合、巻物の魔法を発動させると、次の巻物の発動に、タイムペナルティーがあるのだ。大体、時間にして二十秒ほど・・たった二十秒ならと思うが、呪符ならニ秒以下だ。なので、呪符の扱いに熟練した者は、あらゆる系統の魔法を、間髪入れずに発動出来るようになる。
俺の知り合いに、数十種類、ストックも数千という呪符を駆使して、相手に攻撃する隙すら与えないプレイヤーがいた。
兎に角凄かった。その一言しかない人だった。呪符に合わせて、巫女服を装備してたっけなー・・・・。ネカマだったんだけどね。
しかも、隠そうともしてなかったしなあの人。
まあ、そんな事はどうでもいいか。
「兎に角、ゴブを見つけ・・・・」
「ゴブゴブ?」
「いたーーーー!!」
茂み中から、一匹のゴブリンが現れた。
「まずは・・・・麻痺の呪符! くらえ!」
取り出した麻痺の呪符を、空中に放り投げる。すると、呪符に封じられた魔法が発動し、ゴブリンに麻痺の魔法が襲いかかる。
「ギョブーーブブブ!」
呪符から放たれた魔法が、ゴブリンを襲う。魔法は、金色に輝く粉ような物が、ゴブリンに降り注ぐ。するとゴブリンは、体が麻痺したのか、膝から崩れ落ちる。そして、発動し終えた呪符は、燃えて無くなった。
その隙を見逃さず、間髪入れずに攻撃系の呪符で攻撃する。
「今度は、コレだ!」
取り出した呪符を地面に貼り付ける。すると、呪符が光り魔法が発動する。今度の呪符の魔法は、地属性の魔法だ。ゴブリンの居る地面から、大きな拳が突き出して、ゴブリンにアッパーカットを喰らわせた。意外と強力な一撃で、当たった瞬間『メギュッ』と嫌な音をさせ、十メートルほどの高さまでゴブリンを殴り飛ばした。
因みに、それを見た俺は「・・・・あれ? 下級魔法なのに威力が高くね?」と思いつつ、空飛ぶゴブリンを見つめていた。
そんな疑問の中、ゴブリンは地面に叩きつけられ、また嫌な音をさせる。
おかしいな? 威力が下級よりちょい上な気が・・・・下級のポーションの効果が高かったが、それと同じなのか?
うーーん。兎に角、他の呪符も使って、検証をしてみるしかないかな?
俺は、あらぬ方向に首が曲がったゴブリンに近づき、討伐の証拠となる、ゴブリンの右耳を切る。正直嫌だが、そう言うルールなので仕方ない。
・・・・うげっ、気持ち悪っ! 後これを五匹分・・・・なんか帰りたくなってきた。
依頼を受けた以上、やるしかない。なので、俺は森の奥へと、更に足を進めていく。
エルの背後の茂みの中。
「ふむ。エルの奴、新たな何かを試しているのか? それにしても、あの紙切れは一体・・・・」
「・・・・ねえ、ナヴィアナ? なんで私達、コソコソとアイツを付けてるのよ?」
「ん? それは・・・・何故だ?」
「はあーー、私帰っていいかしら?」
「お前は気にならんのか? 定休日以外に、エルが依頼を受けたのだぞ?」
「・・・・別に気ならないわ!」
「そうか? 私は気になるぞ。先程の妙な物、きっとエルが何かを作ったのだ。気になるではないか」
「・・・・はあーー。仕方がないから付き合ってあげわ。あっ、移動するみたいよ」
「ふん。ナターリア、なんだかんだ言ってお前。エルが気になるのだろ?」
「な、何馬鹿言ってるのよ! そんな訳ないわよ! ほら、行くわよ!」
「ふむ」
二人のダークエルフは、完璧に気配を消して、一定の距離を保ちつつ、後を付けるのであった。
「ゴブやーーい! 出てこーーい!!」