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父は英雄、母は精霊、娘の私は転生者。~短編集~  作者: 松浦


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7/7

数年越しの誕生日会

大変遅くなりました…ロヴェル誕生日おめでとう!

前話の「みんなの誕生日」から続いていますが、読まれなくても大丈夫です。

 今日、この日はエレンにとってとても大切な日だった。

 朝、エレンは起きてすぐに身支度を調えると、急いでロヴェルの所へと飛んだ。


「おはようございます、とーさま!」


「おはようエレン。俺のお姫様は今日も可愛いな~」


 エレンがぎゅむ~っとロヴェルにハグをすると返してくれ、頬にチュッとキスをもらった。


「お誕生日おめでとうございます!」


 そう言ってロヴェルにお返しの頬キスをすると、ロヴェルはきょとんとした顔をしていた。


「あれ? 今日だっけ?」


 そういえば少し前に、エレンの誕生日がどうだの話が出た。

 その時の記憶が蘇ってきたロヴェルは、自分の誕生日は二月二十三日だとエレンに教えたのを思い出す。


「そうですよ! 私にとってとーさまのお誕生日は初めてなんですっ!」


「俺よりもわくわくしちゃって。何を企んでるのかな?」


「な、何も企んでません!」


「うっそだぁ~」


 ビクッと肩を揺らしたエレンにロヴェルは笑う。


「エレンは敵と言い合う時とか動じないのに、どうしてこういう時は素直なのかな」


「何か言いました?」


「なんれもないれーす」


 エレンに両頬を引っ張られながら、ロヴェルはデレッと言う。

 エレンはどうやら照れ隠しなのか、それともバレてなるものかと誤魔化そうとしているのか、ロヴェルの両頬をこれでもかと揉み込んでいた。


「おはようエレンちゃん」


「おはようございます、かーさま!」


 エレンはぺいっとロヴェルを放って、今度はオリジンとハグからの頬キスで挨拶をしている。


「エレンしゃん……酷くない?」


 何も放り出さなくても……と、ほんの少し恨めしげにロヴェルは言う。




 今まで、身内の誕生日を祝うことばかりしてきた。

 ロヴェルは自分の誕生日が嫌いだったので、イザベラ達に祝いたくないと言えばそれで終わりだった。

 せめてエレンの誕生日を祝いたいと常々言われてはいたが、教えられなかったのが心苦しかったのは事実だ。

 ついに痺れを切らしたラフィリアがエレンに直接聞いたため、隠していたエレンの誕生日を話す事になったのだが……自分の誕生日だけではなく、エレンは周囲の者達にも誕生日を聞き回り、それはもう嬉しそうにしていた。



 元より精霊の誕生日という概念は産まれたその日のみを指し、年間を通して祝うという概念が無い。

 エレンはその感覚のまま育てていたので、精霊の自分の誕生日は無いと思い込んでいたようだ。


 エレンのわくわくした顔を見ていると、黙っていたのが本当に申し訳なくなってくるロヴェルだった。


「今日はロヴェルの誕生日なのね。おめでとう」


「ありがとうオーリ。でも正直なところ、エレンに言われるまで自分の誕生日なんて忘れていたけどね」


「あら? 人って毎年楽しみにしているじゃないの?」


「さすがに数十回もやればもういいかなって気持ちになるかな? 俺の場合はあの女のせいで忘れたくなるほど忌々しい日になってしまっていたけれど、エレンのお陰でまた楽しみになってきたよ」


「こんなにお菓子がたくさん食べれる日を忘れたくなるなんて! わたくし、毎日でもよくってよ!」


「俺は毎日菓子はちょっと嫌だなぁ……。それにほら、毎日だとありがたみがなくならないか?」


「ありがたみはいつも感じているわ! だってエレンちゃんに食べ過ぎ! って怒られちゃうんだもの~」


「そうだった」


 オリジンはあるだけ食べてしまうので、気付いたエレンがいつも没収している。

 そのお陰か、オリジンはお菓子のありがたみを忘れず堪能できているようだ。



 エレンもそうだがオリジンもそわそわしているので、二人ともきっとヴァンクライフト家の屋敷で用意されるケーキが楽しみでしかたないのだろう。


「ところでなんで誕生日はケーキなんだ?」


 これは素朴な疑問だった。

 ロヴェルが幼い頃は、豪華な食事と贈り物程度だったが、エレンが祝う誕生日はこれらに追加して特別に大きなケーキを用意するようになった。


(どこかの本の受け入りでケーキを用意するものって思いこんでいるとか……?)


 エレンならあり得そう……とロヴェルは思う。

 確かにケーキ自体が特別な物なので、これを出された者達は大変驚いてくれる。


(きっとエレンは用意してくれていると思うんだけど……俺は喜べるだろうか?)


 ロヴェルはアギエルのせいでケーキどころか甘い物全般、菓子類は一切ダメになってしまった。

 菓子に薬を盛り、その苦みを消すためにこれでもかと甘くしていたせいで、菓子を見ればアギエルの顔がよぎり、嫌悪感を感じるほどだ。

 甘くても唯一食べれるのは野菜や果物程度だが、こんな時にそれを言うのも憚られる。



 自分のことのように楽しみにしてくれているエレンに申し訳なくなっていたロヴェルだった。



          *



 エレンに急かされるままヴァンクライフト家の屋敷へと向かうと、ローレン達に出迎えられたエントランスロビーでロヴェル達は驚きで固まった。


「な、なんだこの花の数は?」


 大量の赤い薔薇の花束。

 なぜかロヴェルは言い知れぬ悪寒が走った。



「いらっしゃいませ、ロヴェル様。お誕生日おめでとうございます」


「あ、ああ……ありがとう」


「こんにちはー!」


「あらぁ、素敵な薔薇ね」


 ローレンと他の使用人達が1列に並んでロヴェル達に向かって頭を下げる。

 ロヴェルはこの時期に薔薇が咲いている場所は一カ所しかしらない。嫌そうな顔をしながらロヴェルはとりあえず聞いた。


「この薔薇は母上か?」


「いいえ」


 首を振るローレン。だが何故かニコニコと笑顔だ。


「じいじー」


「ほっほっほっ、エレン様。準備は万全でございますよ」


「ありがとうございます!」


「ささ、皆様食堂へどうぞ」


 ローレンを先頭に三人で食堂へ向かう。その道すがら、ロヴェルは苦笑した。


「やっぱり何か企んでたね?」


「企んでません! ……ケーキとお料理はちょっと工夫しましたけど」


「工夫?」


 何のことだろう、とロヴェルが首を捻っていると、食堂に着いた。

 大きなテーブルの中央には黒いケーキが五つと、切り分けられた果物がのったカラフルなケーキが五つ鎮座していた。

 ケーキの数にロヴェルとオリジンは驚いた。


「これは……」


「とーさま、お誕生日おめでとうございます!」


 エレンの発言と共に、拍手とお祝いの言葉が一斉に贈られる。


「ロヴェル、おめでとう」


「兄上、おめでとうございます」


「ああ……ありがとう」


 何だかむずがゆい。幼少期はこんな気持ちで誕生日が楽しみだったのを思い出し、ロヴェルは気恥ずかしくなった。


「あ~……兄上、陛下から誕生お祝いの花束が……」


 どうやらロビーの赤い薔薇の花束はラヴィスエルからの贈り物だったらしい。

 悪寒の理由が分かり、ロヴェルは叫んだ。


「嫌がらせかあの野郎ーー!!」


 そう叫んだ瞬間、ロヴェルの背後から声がした。


「嫌がらせとは心外だ」


「ギャッ」


 なんとそこに現れたのはラヴィスエルとガディエルだった。どうやら薔薇を届けるついでにこっそりと死角に紛れていたらしい。


「な、なななななんでここに……!?」


「薔薇を届けるついでにな」



 ラヴィスエルたちとは絶妙な距離が空いていた。どうやら呪いで察知されないように離れたところにいたらしい。用意周到である。

 薔薇を手ずから持ってきたと知って、ロヴェルは驚愕する。


 一方、ガディエルはエレンに向かって笑顔でこっそり手を振っていた。

 よくよく見たら、ラヴィスエルの後ろには十名ほどの護衛達が食堂の隅にみっちりと詰められていた。

 護衛達はようやく隠れる必要がないと分かったのかホッとした顔をしている。


「暇なのか!? 暇なんだな!?」


 気配を消してまで何をしているのか。

 そして同席を許したサウヴェルをロヴェルがギッと睨むと、瞬時に目をそらされた。


「おじさまからケーキを多く作れないかって言われて急きょ量を増やしましたけど、こういう事だったんですね」


「すまない……断り切れなくて……」


 確かに王様の命令に臣下なら否とは言いづらいだろう。


 ヴァンクライフト家のお菓子は今や女神のお菓子として有名だ。

 食べられる事なんてめったにないし、お目にかかれる事もないせいか護衛達の目がテーブルの上に注がれてキラキラと輝いている。

 これは振る舞わないわけにはいかないなぁとエレンは苦笑した。


「わたくしのケーキ……」


 人数が多いせいで自分の分が減ると思ったのだろう。オリジンがしょぼんと肩を落としている。


「かーさまのではありません。とーさまのです!」


「ああん、そうなんだけどぉ~……」


「食べ過ぎはダメですよ! それに今回のお菓子はちょっと特殊なんです」


「特殊?」


 エレンの一言で一気に注目を浴びる。


「今回はお菓子が苦手なとーさま専用にしているので、どちらかというと甘いよりも苦いかもしれません」


「苦いの~~!?」


 ショックを受けるオリジンを余所に、エレンは料理長とラフィリアに切り分けをお願いした。


「二人ともお願いしますっ!」


「畏まりました」


「苦いと言っても味に自信はあるわよ!」


 チョコケーキは中のスポンジに珈琲が浸してあって、スポンジを重ねる層の部分に甘いクリームを薄く挟み、その上からチョコがけしたものだ。

 チョコ自体もビター仕様にしてあって苦みが勝つように調節した。

 フルーツケーキは素材そのままの味を重視しているのと、クリームもミルク感を優先している。

 ロヴェルは果物なら食べられる事に気付いたエレンが、ビターなチョコケーキとフルーツケーキを考案したのだ。


「こんなに果物がのっているのに苦いの……?」


 オリジンは悲しそうな顔をしてフルーツケーキをまじまじと見ている。きっと食べれないと思ったのだろう。


「そちらは果物本来の甘みと牛乳の甘みで調節しています。でもフランとオープストに協力してもらったので、普通の果物よりかなり甘いですよ」


「本当!? じゃあわたくし、こっちを頂くわ」


「あっ! かーさま、ダメですよ! 今日の主役であるとーさまが一番先です!」


 エレンが急いで受け皿を持って、ロヴェル用にと真っ先に切り分けたケーキをロヴェルに差し出す。

 エレンのきらっきらの笑顔。それを見て、ロヴェルはウグッとたじろんだ。


「伯父様~エレンはとっても悩んで考えて伯父様用に作ったんだからね」


 にやにや顔のラフィリアと何かを期待しているようなわくわくした顔を隠しきれないラヴィスエル。

 ロヴェルは生唾を飲み込み、苦いと言われたチョコケーキの方から食べてみる事にした。


 パクッと口にした瞬間、広がる苦み。珈琲を浸したと思われるスポンジの間に甘いクリームの層が挟んであったようで、苦すぎる事もなくすとんと食べれた事に素直に驚いた。


「美味い」


「本当ですか、とーさま!」


「これは珈琲が浸してあるのか? 美味いな」


 エレンとラフィリアはハイタッチをして喜んでいる。

 チョコも甘くないのでするすると食べられる。ロヴェルの食べっぷりに周囲の者達が目を見開いて驚いていた。


 隣のフルーツケーキは純粋に果物なのだろう。色とりどりの果物は見えているだけで映える。

 半分に切られていた緑の葡萄は見た目からして酸っぱそうだ。これなら食べれると思って掬って食べてみたら、口に広がった驚くほどの甘さ。


「!?」


「とーさまには甘いかなって思ったんですが、苦いチョコケーキだけだとかーさまが泣いちゃいそうだったんで……そちらはどちらかというと、かーさま用かもしれません」


 苦笑するエレンにロヴェルも納得がいった。


「いや、酸っぱいと思って食べたから驚いただけだよ。果物がこんなに甘いのか?」


 この世界の果物はあまり甘くない。ジャムにしたりサラダのトッピングにしたりと、何かしら手を入れるのが当たり前だった。


「フランとオープストに協力してもらったんですっ!」


「は~……エレンはよく思いつくね。果物の甘さを変えるなんて驚いたな。あとこのクリーム……甘いと思っていたがそこまでなく……なぜだか、軽く飲み込めるのも不思議だ」


「えへへ~」


 エレンはロヴェルに褒められたのが嬉しくてたまらないようだ。

 ただ、果物とはいえこの甘さはロヴェルにとってかなり甘い。このフルーツケーキはエレンの言うとおりまさにオリジンのものだろう。


「はい、オーリ。あ~ん」


「きゃ~ん」


 差し出されたフルーツケーキをそのままぱくっと口にしたオリジンは、ぱああああっと輝くほどの笑顔を見せた。


「甘くて美味し~い!」


「かーさま、甘い物が大好きなわりに果物はあまり食べないから不思議だったんですよね。果物ってそんなに甘くないんだって気付いたので甘くしてみたんです」


「美味し~わ、エレンちゃん! かーさま、これも好き!」


「よかったです。でも食べ過ぎ注意ですからね」


 エレンはさらっと忠告も忘れない。


 主役が食べた後は皆に振る舞われる。切り分けられたケーキは先にオリジン、そしてラヴィスエル、ガディエルと続いた。


「では兄上の誕生日を祝して、乾杯!」


 サウヴェルの一言で「乾杯!」と続き、ロヴェルを祝福する声に溢れた。



          *



「この歳になってこんなに祝われるなんて、なんだか気恥ずかしいな」


「何を言っているの。エレンちゃんが祝いたがっているのだから、やらせてあげなくてどうするの」


「仰るとおりで……」


 イザベラにまで窘められて反省するロヴェルだった。




「ロヴェル、菓子は克服できたのか?」


「誰かさんのお陰で無理です」


「うちのアギエルが悪かった」


 ラヴィスエルがロヴェルに向かって笑う。


「っていうか、なんでここにいるんだよ!」


「言ったろう。私からの贈り物を届けに来たと……ただ、菓子が苦手なはずのロヴェルの誕生日に甘い匂いが立ちこめていたからサウヴェルに聞いたんだ」


「げえ……」


 お菓子を大量に作ると香りが屋敷中に立ちこめてしまう。それでバレてしまったようだ。

 しかし、先ほどのエレンとのやり取りを聞いて矛盾に気付く。


「いや、待て待て。サウヴェルが前もってエレンに大量に作って大丈夫かと聞いてただろう。数日前から来るのが前提になっているじゃないか!」


「なんだ、バレか。つまらん」


「か~~~~ッ!」


 どうやら久々にロヴェルの誕生日が祝えるとサウヴェルがうきうきで準備していたらしい。


「サウヴェル! 少しは平常心を覚えろ!!」


「す、すみません兄上……。エレンとラフィリアが頑張っていたのが微笑ましくてつい……」


 隠し事がてんでできないサウヴェルの今後が不安になる。


「それに俺は味見をしていましたが、苦めのチョコが美味しくて……そうだ、エレン! あれを兄上にあげないのかい?」


 逃げの口実にエレンに話を振ると、エレンもフルーツケーキを頬張っていた所だった。


 話を振られたエレンがきょとんとしている。

 ラヴィスエルの横にいたガディエルはそんなエレンを見て、こぼれんばかりの笑顔になっているのをロヴェルが目ざとく見付けた。


「チッ、エレンを見るな! なぜ殿下までここにいるんです」


「いいじゃないか。それにお前の誕生日を教えてくれたのはガディエルだ。ということは今年はやるだろうと思って用意した」


「よくありません。って余計な事を!」


 そんな会話をしていている間に、エレンは料理長から受け取った小箱をロヴェルに渡した。

 箱には可愛くリボンが結ばれていた。


「とーさまに誕生日プレゼントです!」


「エレン!?」


 感激しているロヴェルにエレンが「食べてみて下さい!」と言う。


「え、食べる?」


 リボンを解いて箱を開けると、そこには角張ったチョコが八つ綺麗に並んで入っていた。オレンジピールのような細かい粉末もかけられており、なんだか宝石のようだ。


「エレン、ありがとう。これはあのチョコケーキくらいの苦さなのかい?」


「そうです。苦めなんですが……一粒そのまま口の中に放り込んで下さいね」


「え……なんだろう」


 言われるがまま、一粒摘まんで口の中に入れる。そしておもむろにガリッと噛むと、「うぐっ」とつい声が漏れ、衝撃を受けていた。

 その様子にニコニコ顔のエレン。


「なんだ? チョコの中に何か仕込んでいたのか?」


 ラヴィスエルの鋭い考察にエレンが「お酒をちょこっと」と言った。

 いわゆるウイスキーボンボンと呼ばれるお菓子だった。


「吃驚した……」


「とーさまは好きかなって思いまして」


「いや、好きだけど……酒に気付くよりも菓子に何か入っているというのが昔の古傷を抉ってきてね……」


「ごめんなさい……」


「ああ、いや、怒ってるんじゃないよ! 俺も食べれる菓子で美味しいよ」


「本当ですかっ!」


「その歳で菓子にお酒を仕込むなんてどこで覚えてくるんだか……」


「なんの事ですかね~?」


 そんな親子のやり取りをしていると、ラヴィスエルも気になったらしくロヴェルの手の中の箱から一つかすめ取って自分の口に放り込んだ。


「あ、ちょ!」


「陛下!?」


 ロヴェルとガディエルが驚いた声を上げる。無作法にもほどがあるとロヴェルが怒っていると、味わって食べていたラヴィスエルが「ふむ」と何やら考え込んだ。


「エレン、私にもこれを」


「ダメです」


 即座に一刀両断されてラヴィスエルは笑った。


「ダメか。しかしこれはいいな」


「え……まさか気に入ったんですか?」


 驚くロヴェルにガディエルも同意した。


「陛下もお菓子はあまり好まない人なのに……」


「これは菓子というより酒だな」


「それは本当に美味しいですよね。エレンから試食を頼まれた時は私も驚きました」


 サウヴェルも同意する。

 ふと、ラヴィスエルは渡されていたチョコケーキがのった皿を見て、優雅に一口食べた。その味に驚いているのか少し目を見開いている。


「エレン、このチョコケーキ……」


「ダメです」


「私はまだ何も言っていないが……」


「これもとーさまのなので、食べたかったらとーさまの許可を取って下さい」


 その言葉を聞いて、ロヴェルの顔がにやあと歪んだ。


「さすが俺の娘! よく分かってる!」


「サウヴェル」


「勘弁して下さい……。このお菓子どころかケーキの材料も大精霊達が関わっているのでエレンしか用意できないんです」


「はっはっはっ! 欲しかったら俺の許可を取るんだな!」


 まるで子供のように喜んでいるロヴェルに「子供か」ラヴィスエルが突っ込んだ。

 だがそんなラヴィスエルも何だか楽しそうである。


 ガディエルとその護衛達はロヴェル達をチラチラ見るものの、手持ちのケーキに夢中になっていた。


「エレン、このケーキ美味しいね! エレンが作ったのかい?」


「私じゃなくてラフィリアと料理長です! 私は案を出して材料を持ってくるだけですね」


「いや、充分凄いと思うな……どちらも美味しくてあっという間に食べてしまったよ」


「おかわりいりますか?」


「いいのかい? ありがとう!」


「ガディエル、私はチョコの方を」


「陛下……ご自分でエレンに頼んだ方がいいですよ……」


「そうだぞ、俺に聞け!」


 なぜかロヴェルが自信満々に答える。するとラヴィスエルは「お前はダメだと言うだろう」と呆れた顔をした。


「エレン、ごめんね。追加でおかわりしても大丈夫かな?」


「う~ん、じゃあ質問に答えて下さったらおかわりいいですよ!」


「……ガディエルにはおかわりがよくて私には聞くのか」


「はい」


 即答するエレンにラヴィスエルはどこか不満そうではあったが、ちらりとチョコケーキを見て頷いた。

 どうやら相当気に入ったようだ。


「まあいい……何が聞きたい?」


 そんなに食べたいのか……と誰もが内心で驚いた。


「とーさまに赤い薔薇を贈ったのはどうしてですか?」


「赤を選んだのはララルだ。城の庭師には代々精霊魔法使いがいてな。その精霊が管理している薔薇で年中咲いている。精霊に縁がある贈り物の方がいいだろうと提案してくれた」


 ララルとは王妃の名だ。ロヴェルの誕生日の品を王妃と相談したのかとちょっと意外だった。

 よくよく聞くと、城からの贈り物などは王妃が相手に贈るのが普通らしい。


(あ~~。言われてみれば、親戚付き合いのギフトとかを管理しているの奥さんがほとんどだっけ……)


「じゃあ薔薇の本数も?」


「そうだな。ララルが用意した」


「じいじー! 薔薇の数って数えましたか?」


「はい。三百六十本でございます」


 この世界は基本一ヶ月が三十日、そして十二ヶ月あるので三百六十日だ。

 その本数ということはまさか……。


「毎日あなたを想っています……?」


「え……」


 絶句する周囲に動じなかったのはラヴィスエルだけだった。


「ふむ。確かに毎日、どうロヴェルを呼びつけてやろうかと考えているな。さすが私のララルだ」


「げええっ!」


 ロヴェルの悲鳴が食堂に木霊する。

 この場合だと王妃がロヴェルを想っていると受け取られかねないというのに、平然と王妃は自分の代弁していると公言している。


「薔薇の本数は百八本しか知りませんでした! エレン、俺もエレンの誕生日には薔薇を……」


「いりませんよ?」


「…………」


 即座に却下されているガディエルはしょぼんと肩を落としている。それを見た周囲の護衛達は同情の目を向けていた。


「陛下はとーさまの事が大好きって事がよく分かりました」


「そうだな」


「やめろおおお!!」


 ロヴェルの恐怖の叫び声が木霊していると、オリジンがにゅっと顔を出してきた。


「誰が誰を大好きですって~~?」


 いつもよりオリジンの声が低い気がして、ロヴェルは青ざめている。


「ロヴェルはわたくしの、よ!」


 右手で器用に皿を持ち、もう片方の手でロヴェルの側頭部を支えて自分の胸へと押しつけている。


「デレッ」


「久しぶりに見ました。とーさまのむっつりスケベ……」


「エレン~~!?」


 ロヴェルが慌ててエレンに言い訳をしている横で、オリジンとラヴィスエルの間でバチバチンの火花が散る。


「精霊の女王よ、何か勘違いしていると思うのだが……」


「何かしら~?」


「私がロヴェルに抱いている気持ちは愛というより親愛……それも友情だ」


「……ゆうじょう?」


「そう、友だ」


「とも~~?」


「だからあなたの憂いは杞憂であり全く問題ない。まあ、当の本人は私の気持ちは受け取ってくれないが」


「………友ならいいわ! だってロヴェルのお友達は少ないもの!」


「オーーーーリィィィ!?」


 何を言っているの!? とロヴェルが動揺している。その姿を見たエレンとサウヴェルが噴き出した。


「一方通行はつらいわねぇ」


「女王もそう思うか。ロヴェルは私の気持ちを素直に受け取ってくれないので困っている」


「なんか俺に友達がいないみたいな事になってるから止めてくれないか!?」


「あら、ロヴェルってお友達がいたかしら?」


「いたよ! いたけどモンスターテンペストで犠牲になった人が多くて……ってそうじゃなくて!」


「それは今はいないと肯定しているようなものじゃないのか?」


「おいやめろ!」




 ぎゃあぎゃあ言い合う三人の様子を見ながら、エレン達は驚いていた。


「伯父様と陛下って仲悪くなかった?」


「いや……俺も驚いているよ」


 ラフィリアの言葉にサウヴェルも半ば呆然としながら言った。


「とーさまと腹黒さんがこんなに仲良くなる日がくるなんて思いませんでした」


「仲がいいの? あれ……」


 ラフィリアが呆れたように言いながらフルーツケーキを頬張っている。


「え~? でもラフィリアとカールさんみたいな関係に見えるよ」


「な、なんで私とあいつに見えるのよ!」


「すれ違いっていうか、言いたい事は一緒なのに素直じゃないっていうか」


「兄上は本当に嫌そうだが……?」


 そんな会話を各々していると、ふとエレンはガディエルが気になった。

 さきほどにべもなく「いりませんよ」と言ってしまったが、あれはエレンが薔薇の話を振ったから薔薇が好きだと思ったのではないかと思い至ったのだ。


 ちらりとガディエルを見ると、まだどこかしゅんとしている。

 ふとエレンはある事を思いつき、ガディエルの側へと近寄った。


「え、エレン!? どうしたんだい?」


「あの、先ほどは断ってごめんなさい……」


「薔薇? いや、私こそ急に言いだしてすまなかった。驚くのも無理はないよ」


「えっと、そうなんですけど……」


「あ、もしかして薔薇が欲しい……?」


「違います。そうじゃなくて……お庭の薔薇、あんなにいっぱい切っても大丈夫くらい咲いているんですか?」


「ああ、庭園の薔薇は年中咲き乱れているからね。むしろ定期的に摘んで城で飾っているくらいなんだ。母上とシエルの部屋には特に多く飾られているかな?」


「そうなんですね」


「……それがどうかした?」


「私の誕生日っていうお話しが出てたと思うんですけど」


「う、うん」


「じゃあ、誕生日に庭園の薔薇を見せて貰えませんか?」


「えっ!」



 たっぷり数十秒固まったガディエルだったが、「も、もちろん……!」と慌てて首を上下に振って頷いた。


(やった~! お城の庭園とか隠し通路があったりするかなぁ!?)


 城好きのエレンはそんな事を考えていたのだが、そんな事に気付かないガディエルは顔が真っ赤だ。


「は~ん、良かったわね~ガディエル殿下ァ~~」


 煽るようにラフィリアに言われ、ガディエルの顔はボンッとさらに真っ赤になった。


「ラ、ラフィリア……ゴホンゴホン!」


「伯父様に報告しなくちゃ!」


「わあああ! 止めてくれ!!」





 そこかしこで賑やかな会話が行われているのを見て、イザベラは涙ぐむ。


「たった数年でここまで変わるなんて……」


「さようでございますな」


 イザベラとローレンはそれこそロヴェルがアギエルに追いかけ回されていた頃から見て知っている。

 王族との確執もあったが、それが今ではこんなにも様変わりしていた。



「ロヴェルの誕生日がここまで変わってしまうなんて思いもしなかったわ。本当にすごい……」


 エレンとラフィリアも、ガディエルもお互い笑い合っているのを見て、改めてそう思う。


「素晴らしい誕生日会ね」


「はい」




 遠くではラヴィスエルに何かを言われたらしいロヴェルが「キモォッ!!」と叫んでいた。






ウイスキーボンボンはどこかで書いたような書いていなかったような…どこかで出していたらすみません。

お仕事で提出した父英雄のSSは現時点で50話ほどあるのでどこかにあるかもしれません…汗

あと依頼品と違って文字数制限ないのでどこまでも書いてしまいますね…(反省)

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