91話:星斬り
「そっちに右腕来てるよ!!」
グリムが炎魔術を発動させると同時に、ヘネシーへと走るセインに警告を放つ。
「ああ、うぜえ!! 魔力使わないと見えないとかめんどくせえ!」
グリムの炎魔術に干渉した【重星の巨人】の右腕が可視化し、セインに迫るが、彼は愚痴りながらもそれをサイドステップで避けつつ前へと疾走。
「だが、見えると見えないとでは大きな差がある――ぞ!」
【重星の巨人】の胸部にいるヘネシーへ、レドが岩で出来た槍を放つ。セインが同時に跳躍し、その岩槍へと剣を差し、その勢いのままヘネシーへと向かう。
「見える分、動きが予測できるし今は右腕しか使ってこない! 攻めるチャンス!」
グリムもバックステップで【重星の巨人】の叩き付けを躱し、追加の炎魔術を叩き込む。
「無駄なことを」
レドの岩槍が【重星の巨人】の胸部へと当たると同時に斬撃を放ったセインだったが、手応えの無さに舌打ちをし、ヘネシーがそれを嘲笑う。
落ちるセインを、【重星の巨人】が戻した右手で掴もうとするが、それより先にセインの足下に炎で出来た剣が生成された。セインはそれを蹴って咄嗟に方向転換し飛翔、再びヘネシーへと向かう。更にその先に出来た岩壁へとセインが着地する。
レドとグリムが生成した即席の足場を巧みに使いセインが空中を疾走、剣を振りかぶった。
「暴風――解放!!」
セインの右腕から放たれた暴風が、振り上げた剣へと纏わり付いていく。それは巨大な風刃となり、ヘネシーへと薙ぎ払われた。
「ちっ!!」
そこで初めてヘネシーが余裕そうな表情を消した。セインの一撃によって生じた風によって【重星の巨人】の姿が、まるでろうそくの火のように揺らぎ、そして掻き消えた。
ヘネシーが右手を振るうと不可視の壁が出現し、セインの刃を防ぐ。
「消えた?」
「みたいだね。私には風で吹き飛ばされたように見えた」
セインが着地したと同時、同じく降りてきたヘネシーへと剣を振るう。ヘネシーは不可視の壁を駆使しながらその連撃を防いでいく。
レドとグリムがセインの援護に加わろうとした、その時。
「っ!? この音は……まさか」
ヘネシーの言葉と共に、下から轟音と空気を切り裂く音が響いた。
「レド君! ここ危ないかも!!」
「分かってる! セイン!」
「ちっ!」
セインがこちらへと戻ってくると、レドが魔術を展開。岩壁が三人の周囲を覆うと同時に、これまで微動だにしなかった【天輪壁】が大きく揺れた。
☆☆☆
管制室。
「アリアさん! 持たないですよ!」
竜族の攻撃によって瓦礫と化した管制室の扉の隙間から魔術を放って牽制するニルンが悲鳴を上げる。
「もうちょっとだから!!」
アリアがモニターを注視しながら答える。障壁を閉じるタイミングが重要になってしまった以上は、その指示を出す役目は誰にも任せられない。
「ヒナ、そっちの椅子とかテーブルを積み上げるぞ!」
「うん」
レダスとヒナが瓦礫の隙間に椅子やテーブルを積み上げていき、ニルンが強化魔法を掛けていく。
「これでもう少し持つか?」
「さっきの魔術をまた使われたら、無理ですよ。やはりアリアさんに手伝ってもらわないと――危ない!!」
ニルンが警告を発した瞬間に、あっけなく入口に築いていたバリケードがあっさり消失する。
「手間掛けさせやがって……全員殺せ!!」
竜族達が瓦礫を乗り越えて、管制室へと入ってくる。その目には殺意が浮かんでいる。
「アリアさん!!」
三人がアリアへと視線を向けた瞬間に、部屋全体が揺れた。
「イザベル……今よ!!」
モニターでロケットの軌道を見ていたアリアは、それが【天輪壁】の中心を抜けたのを確認して、イザベルへと鋭く指示を出した。
「はい!」
イザベルがキーを叩き、障壁を閉じるように操作していく。
部屋の揺れでイザベルが倒れそうになるも、最後のキーを叩いた。
☆☆☆
衝撃波と爆音が通過し、煙の尾を引いて細長い物体が大空へと駆け上がっていくのがレド達の視界に映った。
足下からは振動と機械音のような唸りが発生し、レドはそれが収まると共に岩壁を解除する。
見れば――【天輪壁】の内側が物理的な障壁によって閉じられており、レド達の立っている場所は一見すると円形のフィールドに変化していた。
レド達も、【重星の巨人】を解除したヘネシーも、空を登るその飛翔体を見守る事しか出来なかった。
赤い星が――すぐそこにまで迫っている。
☆☆☆
ロケット内部。
イグレスが推進方向を若干修正しながら、高度と位置情報を確認する。
「いやあ中々にGがキツイねえ……リュザン、【天輪壁】を抜けたぞ、弾頭をパージする」
魔力通信に乗ったリュザンの言葉が返ってきた。
「やれ。お前はもう……脱出しろ」
「ああ、分かった」
イグレスがロケットの先端部――弾頭を切り離すように操作していく。最後の実行確認のところで、イグレスはリュザンへと最後になるであろう言葉を伝えた。
「じゃ、またどこかで。共闘して終わるなんて今回はらしくもない終わりだったな」
「ああ。次会ったら今度こそ殺してやるから安心しろ――だから……頼んだぞ」
リュザンの言葉と同時にイグレスは弾頭をパージ。同時に、転移魔術を発動した。
ロケットの先端部が金属音を鳴り響かせながら切り離され、露出された部分には、リュザンがいた。人の身では到底耐えられない加速による重圧をものともせずに、目の前に迫るソレを睨み付けていた。
リュザンの視界いっぱいに広がるのは、丸まったような形の竜とそれに大切に抱えられ、竜自体と融合している巨大な金属の球体だ。竜の翼は、光を動力へと変換させる魔導パネルが埋めこまれており、陽光を反射してキラキラきらめいている。
それはリュザンがいつか見た、【欲災の竜星】その物の姿だ。
中央の球体や竜の各部から赤い光が漏れており、まだそれが生きている事を証明している。
「あの時に壊しておけば……と、どれほど思ったか。なあ、マーテル。お前はまだ生きているのか? もし生きているなら……どうか……もう一度だけ……俺達に力を貸してくれ」
そんなリュザンの呟きはすぐに掻き消えた。彼は剣を構えると、ロケットが目の前に迫る【欲災の竜星】へと激突する寸前に、立っていた外殻を蹴って離脱。
【欲災の竜星】にロケットが激突。金属が悲鳴を上げ、炎が爆ぜる。
ここまで昇ってきた勢いと爆炎を受けて、なお飛翔するリュザン。
「星を斬るのは流石に初めてだな……」
リュザンの眼下で、部品を撒き散らしながら【欲災の竜星】が爆ぜる。金属の球体は歪んでおり、竜が咆吼を上げていた。
「【過剰放出】――【血液置換】――【加速】――」
リュザンの全身から、大量の血と共に魔力が放出される。彼は気にせず身体を反転させつつ、魔力で生成した赤い力場を蹴り、今度は下へと加速する。
「――【斬撃】」
振り被った剣を、血が混じり赤く染まった膨大な魔力が覆っていく。巨大な紅刃となったそれをリュザンは落下する勢いに乗せて――【欲災の竜星】へと叩き込んだ。
澄んだ音が響き、竜の首ごと金属の球体が真っ二つに切断される。
全身の血液を魔力に置換し放った斬撃によってリュザンの身体は、血液と身体を維持する全ての魔力を失い、すでに干からびていた。
そこまでしなければ、リュザンとはいえおそらく星に傷一つすら付けられなかっただろう。
すでに元の姿すら定かではないほどの姿となったリュザンだったが、その顔に満足そうな表情が浮かんでいた。
リュザンさん、星を斬る。
古竜と古代超文明によって造られた星を斬れるのはおそらく命を消費したリュザンさんぐらいだったでしょう
次の更新は11月13日(金)です! ……13日の金曜日に更新するに相応しい内容かもしれない……これも運命か……
感想ですがすみません! 忙しくて返信できていませんが読ませてもらっています。ぼちぼち返していきますので、のんびりお待ちくださいね。
いつもの書籍情報:
内容についてはWEB版をベースに、細かい修正やシーンの追加削除、更に一万字超えの読み切りが付いてくるなどかなりパワーアップしております!
担当イラストレーターの赤井てら様の素晴らしいイラストがこれでもかと楽しめる作品になっております(表紙からはじまり口絵、挿絵ともに素晴らしいクオリティです)
少しでもWEB版を気に入っていただけた方には自信を持ってオススメできる物に仕上がったと思っております。是非とも予約、またご購入していただければ幸いです!
というわけで書籍情報おさらい:
タイトル:冒険者ギルドの万能アドバイザー ~勇者パーティを追放されたけど、愛弟子達が代わりに魔王討伐してくれるそうです~~
出版社:双葉社
レーベル:Mノベルス
イラストレーター:赤井てら
発売日:11月30日予定
発売と同時に三章完結させる予定です! WEB版、書籍版共に楽しんでください。
上記に伴い更新頻度を上げます。次の更新は11月11日(水)頃になります!




