86話:もう一組の侵入者
「まさか【天輪壁】内部? ということはやっぱりこれは【転移陣】だったのね」
アリアが転移された場所は、もう今は使われていないだろうという事が良く分かるほどに荒れた部屋だった。窓から見える景色は、空だ。置かれている【転移陣】も一部壊れており、埃を被っている。床も一部崩れ、下の階層が見える。今にも床が抜けそうなほど、不安定な場所だとアリアには思えた。
「でも困ったなあ……まさか一方通行の奴とは……」
アリアがため息をついた。本来【転移陣】は双方向に行けるのだが、この部屋にある物はどうやら廃棄された物で、転移先としては機能しても転移自体は行えないようだ。
「ま、来てしまったのは仕方ないし。とりあえずお兄ちゃん捜しに行きますか」
アリアは素早く思考を切り替えた。ここが敵地である以上は油断できない。そもそもこの部屋自体がいつ崩壊してもおかしくないほどに老朽化している。更に扉と思わしき物も歪んでおり、動かなかった。
辺りを慎重に調べるも、それ以外に出入り口はなさそうだった。
「んー下に降りてみる?」
アリアは床が崩れて出来た穴を覗く。下には大きな回廊があり、パッと見たところ敵らしき気配はない。手に持っていたグレイブをいつでも振れるように握ると、アリアはその穴へと踏み出した。
結構な高さだがアリアは猫のように音もなく着地。素早く前後左右を見渡すも、やはり誰もいない。回廊の壁に扉らしき物があり、そこを調べようと思った時に後方で戦闘音が聞こえはじめた。もし今戦闘が起きているとすれば……。
「あっちか」
アリアがそちらへと踏み出そうとすると同時に、扉が開いた。
「わっはっは!! 侵入者は俺様に任せるのだ!! この“竜壁”のフラパンにな!!」
暑苦しい声と共にそこから飛び出てきたのは、銀色のフルプレートメイルを着込んでいる巨大な男だった。両手にそれぞれタワーシールドを装備しており、まるで、神話に出てくる神域を守る巨人のような姿だ。
「ん? なんだこの、おなごは?」
「……私の運の無さは兄譲り――ね!」
首を傾げている銀色の巨人――フラパンに、アリアは躊躇無く氷の刃を持つグレイブを振りぬく。
「やはり敵か! ふはは!! 俺様をそんな小枝で倒そうなぞ笑止千万!!」
あっさりアリアの横薙ぎはフラパンの盾に弾かれた。盾には不可思議な力が宿っており、刃が盾の表面に触れる手前でその刃を反発。傷一つ付ける事さえ許されずアリアは体勢を崩す。
「隙を見せたな!! 喰らうが良い! ドラゴンタックル!!」
フラパンが盾を構えたままアリアへと突進。
「ただの体当たりじゃない!」
弾かれたグレイブで床を突いて、アリアは無理矢理跳躍し、回避。フラパンの頭上を通り過ぎながら、魔力を込め、氷の刃から絶対零度の雪の結晶をフラパンへと放つ。
「ふんぬ!!」
フラパンが盾を持って、回転。それだけで、なぜかアリアの放った雪の結晶が溶けるように消えた。
「なにあれ……」
「ふはは!! 俺様の前では、物理も魔術も意味を成さぬ!! 大人しく我が盾のサビになるが良い!!」
「めんどくさ」
盾でただ殴りつけるだけの攻撃を避けながら、アリアはフラパンを観察する。盾をとにかく何とかしないと刃も冷気魔術も通らない。何より、フラパンは重いであろう鎧や盾を装備しているにもかかわらず、身軽な動きなのが厄介だ。
「私一人じゃ無理っぽいか」
アリアは、冒険者にしては珍しく一人で行動する事が多い。理由は人間関係が煩わしいからだ。その為、自分だけで勝てるかどうかの判断は速く、目の前の敵については無理だと判断した。
「貴様、逃げる気だろ? 俺様を前にした者は皆そうする。だが、させぬ!! ドラゴンウォール発動!!」
「っ!!」
フラパンから膨大な魔力が迸り、アリアはバックステップし距離を置く。結果としてその行為に意味はなかった。
「壁!?」
アリアとフラパンを囲うように、銀色の壁が出現。それは天井まで届き、アリアの逃げ場を無くす。
「ふはは、さあここが貴様の墓場だ!! いでよ、眷属ども!」
フラパンが盛大に両手の盾を打ち鳴らせた。それと同時に地面に魔方陣がいくつも描かれ、そこから現れたのはいつか【地下宮殿】で見た、あの二足歩行するトカゲだ。
「ますますめんどくさ!」
アリアはグレイブで目の前に現れたトカゲの首を刎ねると同時に地面を蹴った。ジッとしていたら不利なのは明白だった。
トカゲの攻撃を避けながら、フラパンの動きを注視する。
「ドラゴンタックル!! タックル!! タックル!!」
トカゲごと吹っ飛ばしてくるフラパンの突進を避けるアリア。壁を蹴って、三角飛びの要領でそれを避けると同時に直接フラパンの頭部を狙うも、兜の前でやはり刃が不自然に弾かれてしまう。
着地すると同時に周囲のトカゲを薙ぎ払い、再び走り出そうとするアリアの前にフラパンによって吹っ飛ばされたトカゲが迫る。
「ドラゴンミサイル!!」
「っ! 仲間を!」
フラパンが周囲のトカゲを盾で殴ってこちらへと飛ばしてくる。それをアリアは器用に避けるも、一瞬目を離した隙に、フラパンが再び突進を開始。
「しまっ――かはっ」
アリアは咄嗟にグレイブで防御するも、その軽い身体はあっけなくフラパンの盾によって吹っ飛ばされた。地面を転がり、壁へとぶつかったアリアは何とかすぐに立ち上がるも、すぐ目の前にフラパンが迫る。
「トドメだ!! ドラゴンラッ――」
盾で殴ろうとするフラパンの頭上から轟音が響く。
「はい?」
思わず二人して見上げた瞬間――天井が崩壊した。
「きゃあああああ!!」
「なんで床がいきなり崩れるんですかあああああ!?」
「どうすんだよこれえええええ」
「……下に誰かいる」
天井と共に落ちてきて、絶叫を上げている四つの影にアリアは見覚えがあった。
「あの……馬鹿後輩!!」
天井の瓦礫が床にぶつかり、粉塵が舞う。
「むう!! 何が起こった!!」
フラパンが盾を周囲にブンブン振り回している間にアリアは、その四つの影が落ちたらしき近辺へと走る。そこで立ち上がったのはイザベル達だった。
「けほっ……もういきなり床が抜けるとか……」
「あんたらなんで来たのよ!! 待っときなさいって言ったでしょ!」
アリアが目を釣り上げて怒る。
「あはは、いやあ、アリアさん大丈夫かなあって」
「馬鹿っ!」
「いやあでも、どういう状況です? アレは……アリアさんの仲間って感じではなさそうですね」
イザベルがフラパンを見て、そう言った。アリアは自分の頬を叩くと、思考を切り替えた。今は説教している暇はない。
「あのトカゲもいるぞ」
「やれやれ、とんでもないところに来てしまいましたね」
「あの人……強い」
レダス達それぞれが武器を抜いて、周囲のトカゲやフラパンへと向けた。
「ふん、ガキが増えたところで、何になる!! 全員ここですり潰してやろう!!」
「なんですあれ」
嫌そうな顔をするイザベルがアリアに問いかけた。
「めんどくさい奴。特に盾と鎧がどうしようもない」
「なるほど。それならまあ、なんとでもなりますよ」
アリアとイザベル達の戦いが始まった。
☆☆☆
レド達が回廊を走る。
「まさか上へと続く階段が崩れているとはね~」
「仕方ない。次の階段を使って上の階層に行こう」
「前方が随分と騒がしいな。仲間割れか?」
セインがそう言って、迫るトカゲを大剣で斬り伏せた。
「作戦変更してギルド側が打って出たのかもしれないが……」
レドがトカゲを数匹まとめて魔術で串刺しにしながら思考する。しかしどう考えてもギルドがそんな無謀な作戦に出るとは思えなかった。
「んー方角的に、例の【転移陣】の付近なのよねえ」
「何にせよ、そちらで敵を引き付けてくれればありがたいな」
まさか、自分の妹と生徒がそこで戦っているなどと夢にも思わないレドは、運が良いとばかりにその事態を喜んだ。
「もう少し先に行けば、階段があるよ。それで上に行こう」
「援軍の可能性があるなら、合流しなくて良いのか?」
セインの言葉にレドは首を横に振った。
「こちらの味方とも限らないし、この絶好の機会を逃してまですべき事ではないと思う」
「私もその意見に賛成かな。仲間割れにせよ、こちらの味方にせよ、合流に意味はないかな」
「なら、良いんだ。俺はお前らに従うさ」
「行こう。いつ他の竜族が現れるとも限らない」
レド達がしばらく進むと、右側に階段が出てきた。
「これか」
「うん。崩れてなさそう」
「うっし、じゃあ上にいこう。どうせ敵がいるだろうが」
「まあ、この三人ならよほどの敵でなければ問題ないさ」
「上に行ったら一回、現在地確認するからね~」
セインとグリムが階段を上がっていく中、レドは一瞬、聞き覚えのある声が回廊の奥から聞こえたような気がした。
「気のせいか? いや、あいつらがこんなところにいるわけないしな……」
レドは気のせいだと思い直し、階段を上がっていく。
こうして結果的に人類側は二組に分かれて【天輪壁】内に侵入したのだった。
後にこれが王都の命運を分ける事になる。
結局来ちゃったイザベル達。
次話更新は10月7日(水)です!
【お知らせ】
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出版社:双葉社
レーベル:Mノベルス
イラストレーター:赤井てら
発売日:11月30日予定
これに伴いタイトル変更及びWEB版という表記をタイトル名に付けさせていただきます~
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いっぱい予約してね!!
表紙やキャラについては順次公開していく予定です~お楽しみに!!




