82話:償い
「君は?」
突然のグリムの発言に、アルマスが笑みを浮かべながら返した。
「あー彼女は……」
レドが説明しようと口を開けたが――
「ちょっと旧世界の事に詳しいだけの、レド君の愛人だよっ!」
グリムはにこやかにそう答えたのだった。
「ばっ、馬鹿! 何を言ってるんだお前!!」
慌てて訂正するレドだったが、心なしか自分を見る目線の温度が低くなっている気がした。
アリアは呆れ顔で、カリスは興味深い物を見付けたかのように目を細めた。
「ははは……それで、今の話は本当かい? 竜族の主って話」
ちなみにアルマスだけはグリムの正体について事前にレドから聞いていた。なので、知っていて聞き返したのはアルマスのちょっとした悪戯だった。
そのせいで、レドは盛大に周りから誤解される事になったのだが……。
「そうだね。ただし竜族も一枚岩じゃないから、その帰還を歓迎するのは一部の古竜とその眷属だけ」
「その主ってのは何者なのだい? 話からすると古竜以上の存在に思えるけど」
「そりゃあ、決まってるよ。古竜が主と仰ぐ存在は一つしかない。魔族を作り、竜を造り、古竜を創った――旧人類だよ」
会場が、沈黙に包まれた。
カリスが口を開いた。
「……我々がこの星の支配者になる前の時代……旧世界を支配していた人々の事か。随分とまあ大物が出てきたな、それがまだ生きているのか? あの禍ツ星の中で? 何千年も?」
「ま、君達……おっと私達が支配者かどうかはともかく、彼ら旧人類はもはや生死の概念を超越しているよ。多分、アレは君達が考えているような存在ではない。いずれにせよあの星が墜ちてくるのは、ここ、つまり王都。当然王都は潰滅、それだけで人類の文明にどれだけの打撃を与えるだろうね? 更に旧人類を迎えた竜族の侵攻が始まれば……あははっ、詰んでる」
無邪気なグリムの言葉に再び会場は静まった。
「私からは以上だよ。ね、ダーリン!」
「お前はもう黙れ!」
ウインクしてくるグリムを無理矢理座らせてレドはため息をついた。知識を求められたら答えるだけと事前に約束したはずだったが、全然違うじゃないか……と心の中で愚痴るが、もう遅い。
「今の情報の真偽については一旦置いておくとして、もし仮にそれが起こった場合は……最悪だ」
それからは、一気に会議室での議論が爆発した。
「すぐにでも【天輪壁】を取り返すべきだ! リュザンは何をしている!?」
「馬鹿野郎! 取り返すつったってどうやって行く気だ!? 【転移陣】に転移した瞬間に殺されるのが目に見えている!」
「じゃあ、魔術で飛翔して」
「魔術阻害をまた発動されたら終わりですね」
レドはその議論を聞きながら、アルマスがこの場を収めるのを待っていた。どっちにしろこのレベルの話になってくると、冒険者ギルドや騎士団だけの意向だけでは決められない。
王が動くだろう。そして、当然Sランク冒険者と上位騎士は総動員される。それぐらいに状況はひっ迫している。
ガディスの時とは訳が違う。グリムの言う通り、人類の文明はあまりにも王都に一極集中しすぎている。そこが潰滅するとなると、その損失は計り知れない。
その後しばらく議論は続いたものの、結論は出なかった。
「さて。議論も白熱しているところだが、ゆっくりと議論している暇はない。いずれにせよ、我々はなんらかの方法で【天輪壁】へと辿り着き、内部にある【転移陣】を取り返し、地上から戦力を安全に送りこむしかない」
「その方法がないから議論しているのでは?」
カリスの指摘はもっともだ。
「それについては、僕の方で心当たりがある」
アルマスがこちらへと視線を投げたのを見たレドはそれの意図するところを察して、今日何回目か分からないため息をついたのだった。
☆☆☆
「というわけで、レド君」
会議が終わり、第一秘匿会議室――通称【ガラントの酒場】にアルマスによってレドとグリムが呼び出された。
「転移魔術を使用して侵入した魔族を連れているレド君なら、【天輪壁】へと転移できるのではないかな?」
ま、そうなりますよね……とレドはアルマスの発言に納得した。三人は中央の円卓に座っているが、出てきた料理や酒には手を付けなかった。
「で、実際どうなんだグリム」
俺は横で、興味深そうに料理や酒を見つめているグリムにそう聞いた。
「んー。出来ない事はないかな? 私が使える転移魔術って、大雑把な位置にしか転移できないけど、空には【天輪壁】しかないからね。間違いなく辿り着けると思うよ」
「なら、精鋭部隊と共に転移する事はできるかい?」
アルマスがそう聞きながら、料理を促した。グリムはそれを見て、目の前にあった鶏の揚げ物へと手を伸ばした。
「結論から言うと、無理かな。転移できるのは私含めて、三人まで。だから、君達の戦力で送れるのは実質レド君合わせて二人かな。それを部隊と呼ぶのは流石に無理があるんじゃない?」
「……ふむ。確かにね。となるとやはり、君たちに【天輪壁】内の【転移陣】を解放してもらい、そこへ部隊を送りこむしかないね」
アルマスの言葉を聞いているのかいないのか、グリムが鶏の脚を頬張る
「へえ、結構人類の料理技術も戻ってきているわね、美味しいわこのフライドチキン。そうだね、そのやり方しかないかな――でも、忘れてない? そもそも、魔族である私があんたら人類の為に協力するっていう大前提があるってことが」
「ギルドマスター。俺と彼女の協力関係は限定的な物だ」
レドはそう言って、エールを煽った。
「分かっているよ。そもそも君は、いや君達か。君達はなぜ王都へ?」
「さてねー。レド君なら知っているかもねー」
とぼけながらグリムはワインを飲む。
「おい、グリム。利害は一致しているだろ」
グリムは、竜族の手にデータが渡るのを阻止する為に魔王と共に王都に来たのだ。であれば、今の危機的状況を予見していたという事だ。
「パパ的には王都を潰されると困るし、【欲災の竜星】が戻ってくるのも歓迎できない。確かに利害は一致しているけど……もっかい言うけど、私は魔族で、パパは君達が勝手に敵認定して魔王なんて大仰な呼び名で呼んでいる存在だよ? 内包してるリスクを理解できないほど馬鹿じゃないでしょ貴方も」
グリムの言う通りだ。レドはもう色々ありすぎて感覚が麻痺しつつあるが、本来冒険者ギルドが魔族に協力を求めるなどありえない事だ。ましてや、その相手が冒険者ギルドの討伐目標である魔王とその娘なのだ。
「もしかしたら竜族を排除し、私達が【欲災の竜星】を制御し、悪巧みするかもしれないよ? ここまでが全てが、私とパパの計画かもしれない」
「残念ながらね。僕らには悩む暇も議論する暇もない。今も、【天輪壁】は異常な波長を放っている。いつ何が起こるか分からない。であれば、僕は君とレド君を信頼しよう」
「だってさ、レド君。君、随分と信頼されているね」
グリムが笑顔でそう話を振ってきて、レドはふう……と息を吐くとアルマスへと視線を向けた。
「その信頼はありがたいが、ギルドマスター。俺に、こいつや魔王を制御できる自信は全くないぞ。そもそも魔王についても【地下宮殿】で一瞬遭遇しただけで、その後の行方は不明だ。奴がどう出てくるかも分からない。余りに賭け過ぎないか?」
それがレドの本心だった。
「さっきも言ったけどね、レド君。もはや手段は選んでいられない段階なんだよ。まずは竜族を何とかする。魔族の事はその後さ」
「……俺は冒険者だ。ギルドマスターがそう言うなら、俺は従うだけだ。だが、もう一人はどうするんだ?」
そう。レドとグリムとあと一人。その人選がおそらくこの計画が成功するかどうかを決めるだろう。
レドは、おそらくSランク冒険者の誰かだろうと予測した。戦力的に言えばリュザンを送りこむのがベストだが、目下リュザンは行方不明らしい。
「ん? ああ、それならもう決まっている――もうそろそろ来るんじゃないかな? レド君と組めてかつ戦力的に申し分ない人物だよ。こうなることを見越して、装備や義腕も調整済みだ」
「俺と組める奴か。……ん? 義腕?」
レドが頭の中で、該当する人物を検索にかけたと同時に、会議室の扉が開いた。
金髪の髪に、青色の瞳。
右手が流線形の金属で覆われており、指先まで金属で出来ている。
「よお、レド。久し振りだな」
そこに立っていたのは――セインだった。
というわけで、元勇者再び。
それに合わせて? 書籍についての情報がもう少しで解禁されます。
またどこかでお知らせ出来ればと思っております!
書籍化作業の為、次話更新は9月11日(金)です!




