104話:氷霊迷宮
【氷霊迷宮】――地下十五階。
「ぶっ殺すぞこらあああ!!」
「良いから、相手するな。それにこいつら元から死んでいるだろ多分」
リュカが大剣を振り回すも、刃は氷霊達を素通りする。レドはリュカを掴むと、引きずって先へと進んで行く。
氷霊達は冷気と氷魔術を使ってこちらに攻撃してくるが、こちらの物理的な攻撃は一切効いていない。付与魔術を使えば倒せるが、数が尋常ではなく、全て倒していてはキリがない。そう悟ったレドは、冷気耐性が上がる魔術を全員にかけて、無視する事にした。
だが、血の気の多いリュカはやられっぱなしなのが気に食わないのが無駄に大剣を振り回していた。
「リュカ……ほら、師匠に置いていかれるよ」
「うるせえ! ああ、くそ……この身体、魔術つかいづれえ」
ブツブツ言いながら、渋々リュカが剣を納め、先を行くレドの後を追った。
石造りの通路が入り組んでおり、下の階へと続く階段への道のりは塔の面積のわりに遠い。
「しかし、氷霊しか出て来ないのは幸いだな。他の魔物までいたら厄介だが」
「物理が効く相手ならそうでもないだろ。人外が三人も揃っているんだぞ」
「人外……」
「エーテルイーターにドラグーン、それにループブラッドだ。俺が研究者なら、全員を標本にしたいぐらいだよ」
「……るーぷぶらっど?」
「……しまった、そういえばそれは明かしたらダメな部分だった」
「ほう……覚えておこう」
レドがニヤリとリュカに笑いかけた。
「ただ、走るのも退屈だ。リュカ、ここが元々なんだったかを知っているような口振りだったな。知っていることがあれば話してくれ」
レドが前方から迫る氷槍を曲剣で払う。そのまま氷霊の群れの中を突っ切っていく。
「考えてみろよ。こんなクソ寒い縦穴の中にこんな狭苦しい塔を建てる理由を。ここが外部から隔離されているのには理由があるんだよ」
「んー外からの攻撃から守る為?」
シースがそう答える。確かにそれも一理あるなと思うレドだったが、それにしては、少々不便すぎる立地だ。
周囲は荒野だ。外部の攻撃から何かを守る為にこんな大それた建造物を造る必然性が見いだせない。
だとすれば……考えられるのは一つしかない。
「……逃げ出せないようにする為か」
「正解――ここは元々は監獄だよ。しかもとびっきり悪いやつらの為のな」
「なるほど……確かに、ここから逃げようと思うと大変かも」
「大変というか無理だな。あの唯一崖の通路へと続く橋を落とされたら……普通は脱出できない。仮に脱出できたとしても、あの隠れる場所もないだだっ広い荒野が待っている。逃げるのは難しいだろうな」
となると。この地下には一体何が眠っているのだろうか。
「だが監獄として使われていたのは、エルゼアスがいた時代だけだ。あいつは今じゃヨルハ十字教の聖人だが、元々は囚人だからな。中で仲間を集め、恐怖と暴力で囚人達を支配した。そしてクーデターを起こし、ここを乗っ取ったんだ。ふん、ヨルハ十字教なんて元々は犯罪者の集まりだよ。くだらねえ」
「そ、そうなんだ……知らなかった」
「監獄として使われる前はなんだったんだ?」
まるで、その前は別の何かだったような口振りだ。
レドは前方に階段を発見するとそれを降りていく。だいぶ降りてきたが、まだ先はありそうだ。
「元々は……観測塔だったらしい」
「観測塔? 何を観測するんだ」
「……さてな。俺もそこまでは知らん。だが、勇者に関わる何かがあるのは確かだ」
シースは少し忘れそうになっていたが、そういえば勇者に関する何かを探しにここに来たんだった。
「なんだろうな……勇者……観測。情報が少な過ぎるな」
レドは階段の終わりに、これまでに見なかったような扉があった。
「いよいよ来たか。明らかに――旧世界の扉だな」
その扉は乳白色でのっぺりとしており、一見すると壁にしか見えない。壁の横には小さな箱が付いており、表面にガラスのパネルが付いていた。
「はは、懐かしいな。指紋認証だとよ。まあそれだけじゃないだろうが」
「どうするんだ?」
「……多分俺らなら誰でも問題なさそうだが……レド、あんたが一番相応しいだろうさ」
レドはリュカに言われるがままに手をそのパネルへと手を置いた。どうやらまだ機能しているようであり、淡い光が指先から漏れた。光が上から下へと動き、そしてピッという電子音がなり、ゆっくりと目の前の扉が警告音と光を発しながら持ち上げられていく。
「開いたな。流石は旧人類の血だ」
「便利な鍵だな……」
レドは自分の手を視て、そう自嘲した。いまだに自分の中で蠢く何かに違和感を覚えるが仕方ない。
「うっし、行くぞ」
その先はこれまでとは打って変わって、乳白色の壁と床が囲まれた通路が続いている。天井には照明はないが、なぜか淡い光を放っている。
「嫌な感じだ。ろくでもない研究をしている場所って大概こういう感じなんだよ」
リュカがぶつくさ言いながら進む。
「研究か。観測対象を研究していたのか」
「だろうな。どうせろくでもない奴だよ」
通路の左右には小部屋があり、覗けば、それぞれが研究室だった。しかし中は荒らされており、何も残っていない。
「何があったんだろうな」
「さてな。見ろよ」
リュカが一つの部屋を指差した。そこの壁は一面茶色に汚れていた。その汚れの下には白骨死体があった。見れば腹部が酷く損傷しているのが分かる。
「ただの研究所なら、こんな生臭いことにならんだろ。腹をぶち抜かれているぞ」
「……嫌な予感がしてくるな」
「ははは……師匠、いつもの事では」
「言うなシース」
通路の先は少し広めの部屋になっていた。そこにはモニターやコンソールが並び、そして前の壁が全面ガラス張りになっている。しかし、ガラスは半分以上がバラバラに砕けており、部屋の中に散乱していた。
しかし外の様子はよく見えた。
そこは、この縦穴のおそらく底だろうとレドは推測する。
「……なるほど。アレが観測対象か」
レドの視線の先。穴の底には――氷漬けの巨人が鎮座していた
巨人、そういえば初登場でしたね。実は名前? だけは1章でちらりと出ていたりします。
勘の良い人なら、元々監獄だったで、察しがついたかも。




