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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ249.来襲侍女は相対する。


「……ッ満足したならその手を離せ!!」


バッ!と、エルドがエリックから手を振り払ったのは、人払いが済んだ直後だった。

最後の一人まで影が見えなくなったところでもう良いだろと言わんばかりに腕を横に振るい引っ込めようとするエルドに、エリックもまた応じて手放した。武器が握られたままだが、自分がエルドと縛られた青年との間に立っていれば問題はない。


無言のまま見つめ返すエリックを睨んだエルドは、そこで息継ぎの間も惜しみ「そこの!!」とエリックではなくアラン達の方向へと振り返る。

人払い中に殆ど言葉を発しなかったのは、エルドだけではない。騎士に囲まれたその中心でプライドからも耳打ちを受けるステイルに、彼女らを守るアラン、アーサー、温度感知の騎士も口を結んで彼女らからの指示を待っていた。

しかし、騎士に守られながら張本人であろうフィリップ達が姿を出そうとしないのはそれだけでもエルドには不愉快だった。自分達にとって大事な局面に水を差しておきながら護衛の影に隠れて顔すら見せない相手に眼光を鋭くさせる。


「さっさと出てこい!!俺に用事があるのはテメェらじゃねぇのか!」

「……そうですね。周囲に、本当に影はもうないようですし……?」

今にも地団駄を踏みそうなほど苛立ちを露わに息をまくエルドに、ステイルもプライドから許可を得て息を吐く。

温度感知の騎士に目を向け、彼からも自分達関係者以外の影はないことを確認し終えたところで騎士達による包囲を解除した。変わらず温度感知の騎士には周囲への警戒を命じつつ、ステイルとそしてその背後に控えるプライドもまた騎士達よりも前に出る。

「先ほどはどうも」とステイルがにこやかに挨拶を改めてもエルドの苛立ちを刺激するだけだった。ここまで掻き乱して置いて白々しいと、歯噛みしながら武器を掴む手に力を込める。

プライドから大方の事情を把握したステイルは、視界が開けたところで早速エルドからその後方に座りこんだままの少年に目を向ける。

自分達がこれだけの騒ぎを起こしても、殆どまともな発言もせずに無抵抗に縛られたままの少年とは簡単に目が合った。エリックが見えやすいようにステイルへ合わせて位置を変えればすぐだった。


見知らぬ第三者を相手に未だ戸惑いのままに眉を顰め両肩を強張らせる少年は、ステイルににこりと笑いかけられても喉を鳴らすしかできない。助けられたような気はするが、まずステイル達が何者かも知らないのに助かったと気楽には思えない。つい今姿を表すまでゴーグルを嵌めているステイルのことも認識できず、騎士に囲われていたことにも気付かなかった。

友好的に振る舞うステイルの態度に、エルドはやはり何かしら関係者かと勘繰り腕を組む。「どういうつもりだ」と改めて声を低めれば、ステイルも肩を竦めてエルドに目の照準を直し合わせた。


「彼は、僕らが探していた人物の一人でした。彼からどこまで聞き出したかはわかりませんが、誤解もあるようなのでまずそこから訂正させて頂けますか」

「ハァ?!意味のわからねぇ……。事情も知らねぇお前らがどう説明できるんだ」

「貴方達の知らない情報も持っているということです。まず第一に、あの状態の彼に触れるだけでも毒に侵されることはご存じでしたか?」

なっ……?!と、表情からもわかりやすくエルドは息を詰まらせる。

交渉の場に素直に立とうとしないエルドへ、最初に衝撃的な事実を置いて見せるステイルは平常心を装い笑みながらその心臓は未だ落ち着かない。エルドの手前だからこそ取り繕うが、本来自分も聞いたのはついさっきのことだ。視界を意識的に広げれば、エルドだけでなく話を聞いていた騎士達も表情こそ抑えても目を見開いていた。同時に、そのステイルの言葉だけであの少年が特殊能力者であることも騎士達は理解する。もともと自分達が探していたのが、フリージアの特殊能力者なのだから。

そう考えれば、プライドが何故突如として触れさせないように声を上げたのかも綺麗に繋がった。


にこやかに笑うステイルの言葉に、エルドは愕然としながらもそこでもう一度振り返る。

エリックに邪魔され直接は見えないが、それでもさきほど自分が殴った少年に触れることだけと言われれば結びつかないほど馬鹿ではない。エルドもまた、目の前の騎士達がフリージアの人間であることは把握している。今までの憎しみだけを向けていた相手に、みるみるうちに顔が引き攣った。

てっきり貧困街を恨んでの報復か、愉快犯のどちらかを想定していた分、それ以外の選択肢が湧いてきただけでも気分が悪い。


「フリージアの化物か……」

「ご理解頂いたようで何よりです。流石はエルヴィン〝元〟王子ですね」

相変わらずの言い分をするエルドに、ステイルも枯れた笑みで嫌味を返す。

本音を言えば「その理解の無さも相変わらずだな」とフリージアの王子として言ってやりたかったところを我慢した方である。しかし、それでも捨てた過去を鼻先に掲げられればまたグルンッと殺気を溢れさせた顔をステイルへと向けた。

「その名は言うなと言った筈だ」と低めた声で突き返したが、ステイルも涼しい顔で聞き流す。あくまでプライドの予知ではなく〝事前に知っていた商人〟として振る舞うが、自然とゴーグルの下の目が冷ややかになっていく。

目の前の男を相手に交渉ではなくただただ口喧嘩で良いならば永遠とできる気がしてきた。


しかしエルドはエルドで、ステイルにだけではなく自分の過去を晒したであろう騎士達にも腸が煮えくり返る。

自分の過去の名前まで言いやがって化物騎士共がと、今この場で喚きちらしてしまいたい欲求にまでかられた。しかし今この貧困街で自分の過去の話など言及するどころではなく、一刻も早く流してしまいたい。舌打ちだけを鳴らし、剥き出しにした歯で残りは飲み込んだ。


「それで?その化物を俺達で処分してやることに何か問題でもあるか?ここはフリージアじゃない、ラジヤだ」

「彼は意図して貴方達に害を加えたわけではありません。先ほどの被害も、恐らくは彼を捕らえようと触れたことで毒に侵されたのでしょう。特殊能力者の中には己が意思で制御できない者もいます」

発達途中であれば余計にでしょう、と。ステイルは改めてその少年を見る。明らかにまだ十代の少年だ。身長や身体つきこそスラリとした印象だが、成人にもなっていないだろうと予想する。


だからどうしたと、エルドも胸を突き出し顔を顰める。

特殊能力の制御など、化物の責任と努力不足。何よりも、それだけで自分達にわざと害そうとしたわけではない理由にはならない。

自分の特殊能力を使って狙ってきた可能性も充分ある。何より、わざとか否かなどその心情自体は心底どうでも良い。問題は誰かの指示があったか、その動機の方だ。

毒の少年一人を殺して全て収束できることが確認できれば、あとは殺せば全て片付く。もし目の前の商人の言う通りに事故でわざとではないのだとしたら、さっさと有毒害獣を駆除したい。


騎士がいる手前会話こそしてやるが、思考の半分ではどうやって化物を殺すかの方法を考え始める。思考の半分が埋まり、もう半分もステイルとの嫌味の会話に費やす中、そっと気配を消して自分の横を抜ける女性にも気付かない。

ハリソンとそしてエリックも見守る中、こそこそと足音を消して慎重に歩み寄るプライドは瓦礫に括り付けられたまま呆然とする少年に歩み寄る。触れてはならないと、誰よりも理解した上で一メートル程度の距離を空けて両足を止めてしゃがみ込む。座りこんだままの少年と視線を合わせ、真正面から彼を見た。

突然現れた女性に額を塗らし、喉仏を上下させる少年は唇を固く結んだ。何かされるかよりも、触れられることの方ばかり考え赤色の瞳が揺れる。


「貴方、名前は?」

「……お、すかー……です。……あ、の……、こっ……、…………~……」

ごにょごにょとそれ以上の言葉は続かなかった。

オスカー、と。そう名前を正式に初めて語られたプライドは、しゃがんだまま無意識に眉の間が狭まった。思い出した前世のゲームと同じ人物名とそのジト目にやはり彼だと思う。ゲームの姿よりも乱れ荒み、ボッサリと長く黒い髪が伸び乱れ、内側もさらに癖がついている。


貧困街の彼らから「毒」「井戸」という言葉を聞いた途端に記憶が蘇ったその人物は、第四作目の主人公であるティペットよりも年下の少年枠だ。

そして今、こうして目の前に座りこむ彼は、布をぐるぐる包帯のように巻きつけた手足や顔の痣や血の跡で隠れている部分をいれてもやはりもっと少年だと思う。

アレスやラルクとは違う、成長途中の彼はゲーム開始前である今はまだ幼さが残っている。何か言い淀む彼に、暫くは待ち続けたが完全に唇を再び結んでしまったところでもう一度自分から呼びかけることにする。


「貴方、年齢は?わかる?」

「え、えと……その……」

ごにょごにょと自分が予想していたよりも若い年齢を言う少年に、プライドの眉が上がる。彼のゲーム開始時の年齢は覚えているが、彼が何歳からあのサーカスにいるのかはゲームでも語られていない。

言葉数こそ少ないが、尋ねる自分に答える意思を持ってくれる彼は今も額から垂れる血が目に入っていた。思わずハンカチで拭ってやりたくなったプライドだが、ぐっと自分の手を自分で押さえて我慢する。彼には触れてはいけないのだと、己に言い聞かせる。


オスカーと名乗った少年はちらちらと何度もプライド以外にも目を向けるが、だからといって口は開かない。

ゲームでは親しくなるまで陰鬱とした性格だった彼は、今は聞きたいことが多過ぎてまとまらないのだろうとプライドは少し検討付けた。自分達からも彼から聞きたいことは無数にあるが、今の彼に全ての状況を飲み込ませることも難しいだろうと考える。髪を撫でたくても、縄を解いてあげたくても、血や汗を拭うことも、怪我の治療をすることも今の彼には難しいだろうことがもどかしい。

その分の感情を乗せるように、彼を安心させることができるように「オスカー」と囁くような声で彼へ心からの笑みで微笑みかける。今の自分の顔は、本来の顔よりも柔和な柔らかい女性の顔に見えている筈だと思う。

「もう大丈夫。……遅くなってごめんなさい。けれど必ず貴方を──!ちょっ……!!」


ボゴォ、と。


話の途中でプライドの目が大きく皿のように丸く開かれる。

さっきまでの柔らかな表情から驚愕に見開かれる直後、プライドだけでなくそれを見つめていた少年もまた声を漏らした。わけがわからなかったのも束の間に、みるみる内に自分の周囲が土が盛り上がり囲まれていくことに気がついた。

え、え、わああ!?と、自分がどうなるのかもわからずに間の抜けた声を放つ少年に、注意を逸れていたエルドも振り返る。まさか拘束を解いたのかとも思ったが、見れば捕らえた少年のいた場所がちょうど瓦礫ごと小さな土のドームに囲まれたところだった。

更にはいつの間にかジャンヌまでいる。驚きのあまりしゃがんだ状態から飛び上がり立ち上がった彼女は、天井部分以外まるっと囲まれた少年に慌てて土の壁に手を付いた。突然自分の周りを覆われれば、混乱するのは当然。訳もわからずパニックの声を漏らす少年に「大丈夫よ?!」と今度は全力で声を張り呼びかける。さっきまで触れない様に押さえつけていた両手でぺちぺちと壁を叩く。


「オスカー!!聞こえるわよね?!大丈夫よ?!大丈夫!!こっ、これはっ……ッ貴方を守る為で!安全な壁で!!」

ギッ!!と、プライドは風を切る勢いで振り返る。オスカーには見せられない顔で眉をぎゅっと吊り上げ一方向を睨み付けた。人払いした後もずっと同じ位置で木に寄り掛かっていた彼が、今はぐらりぐらりと左右に揺れながら自分の傍にまで来ていた。

怒りを露わにするプライドへ、エリック達の背中越しにニヤリと笑いかける。誰が尋ねるまでもなく、犯人は明白だった。

プライドも今すぐに彼を名指しで怒りたい衝動に駆られるが、しかしエルドがいる手前、状況は明らかでも自分の口からはっきりと彼の特殊能力という発言は躊躇った。

むぐぐぐぐと唇を意識的に結ぶプライドに、エリックとハリソンも彼女の背後から左右に付いた。今はもう一定距離でエルド達からの奇襲に身構える必要がなくなった。剣に手をかけるハリソンと、睨み付けるエリックを見えてもいないようにヴァルはプライドの前で首を伸ばし前のめる。あくまでエルドに聞こえない声量で、ニヤつきのままに低い声を放った。


「手が早い女がいつ〝うっかり〟触れるかしれねぇんでな」

「!触りません!!ふぃっ、フィリップ様からちゃんと彼のことは窺ったんですから!!」

人を子どもみたいに!!!!と、プライドは鼻の穴を膨らませて声を上げる。

姿をいくら変えられていても見かけ年齢は実年齢のままだ。それなのにまるで触るなと言われたのに触る子どものような扱いに、遺憾を示す。が、……そこにプライド以外否定を口にしようとする者はいなかった。


ヴァルの発言が聞こえたエリックも今回ばかりは侮辱とも受け取りにくく半分顔が苦く笑ってしまう。プライドの叫び声を聞いたステイルも、眼鏡の黒縁を押さえたまま口の中を飲み込んだ。

その傍に付いていたアーサーとアランも、唇を意識的に固く閉じたままほんの一瞬だが目をプライドとも違う方向に逸れてしまう。ヴァルの意図を察してしまえば、今回ばかりは不敬でもなく嫌がらせでもなく、妥当な判断だと思ってしまう。

「確かに」と全員の心がほんの一瞬だけだか一つになった。

今までのプライドから考えても、彼女が無意識に手が伸びてしまうことは多すぎる。突然何の合図もなく土壁を形成したことに関してはどうかと思うが、しかし結果としてこれでプライドの「つい」も防げた上でエルド達も安易に手を出しにくくなった。


「お、オスカー?!聞こえますか?!ご、ごめんなさい、大丈夫よ驚かせてごめんなさいね!?」

「………………」

「オスカー?!生きてる?!!」

「いきて、ます……。あ、の……。……このままで、……良いです俺……。…………このまま、が」

漏れる声に、プライドはぴったりと壁に耳をつけて聞く。

話しにくいとは思うが、同時にオスカーがさっきよりも応答をしてくれていると気付けばそこでプライドもほっと息を吐いた。最初の叫び声からも怖いんじゃ無いかと思ったが、囲われきった今は少し落ち着いた声にも思えた。

顔を面してよりも彼にとっては話しやすいのもあるだろうかと思いつつ、壁に手を付きながら改めてその場にしゃがむ。彼と同じ視線の高さでもう一度見上げれば、土製のドームは丸く囲うようにしてそびえ立っている。囲われた場所で、誰にも触れる心配のない空間が彼にとってはもうこの時から落ち着くのだろうと思いながら、どこか皮肉にも思った。


……ゲームで檻に閉じ込められていた彼が、その環境を今すでに望んでいるような状況に。


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