第32話
第32話
全員の選択が済んだところで、シャイレンドラたちは謁見の間に招集された。そして、
「では、これより開始とする。勝利条件は、先に申したとおり、もっとも早く、余の前に各々が選んだ人物を連れて来ること。それのみとする。では、行くがよい」
ベルナール王の号令の下、王位継承者たちは自分の占い師が選んだ人物を探しに各地に飛ぶ、はずだった。しかし、
「あの、何か御用でしょうか?」
シャイレンドラは困惑していた。旅支度を済ませて、いざ旅立とうとした矢先、リリアンヌとウィルナス、そしてフローデンが、シャイレンドラの前に立ちふさがったのだった。
「我々とて、こんなことは本意ではない。だが、そなたが城を出る前に、どうしても確認しておかねばならないことがあるのだ」
リリアンヌはシャイレンドラを見た。
「確かめたいこと、ですか?」
「そうだ。実は、私の占い師が、我々が探しているのが、そこにいる使い魔だと言うのだ」
ニムは書面を選ぶとき、神の指針に「このなかで、もっとも近くにいる人物」を教えてくれるように願った。そして、その結果、神の指針は「ウィル・アリアレス」を選んだ。そこまでは、何も問題はなかった。だが、いざ目的の人物の居場所を特定しようとすると、神の指針の針先が動き続け、安定しなかったのだった。まるで、その人物がすぐ間近にいて、今も動き続けているかのように。
そこでニムは、神の指針の示す通りに動いてみることにした。そして、散々歩き回った末、シャイレンドラ・アリスノートの部屋にたどり着いたのだった。
だが、アリスノートが「ウィル・アリアレス」であるはずがなかった。なにしろアリアレスは50年以上前に生存が確認された人物であり、生きていれば最低でも70歳以上のはずなのだから。しかし、神の指針が間違えるとも思えない。そうなると、残る答えはひとつしかなかった。
そして、それは残る2人の占い師も同じだった。2人とも捜索人として「ウィル・アリアレス」を選び、そして占いでホムラが「ウィル・アリアレス」であるという結論に至ったのだった。
とはいえ、証拠がない。いくら占いで、アリスノートの使い魔がウィル・アリアレスであると主張したところで、証拠もなくベルナール王が聞き入れるとは思えなかった。そこでリリアンヌたちはシャイレンドラを待ち伏せ、真偽の程を確かめることにしたのだった。
「どうなのだ、アリスノート、貴公の使い魔は、本当に、あの「ウィル・アリアレス」なのか?」
「さ、さあ、なんのことでしょうか?」
シャイレンドラは惚けたが、その声は上ずり、目は完全に泳いでいた。
この子に芝居は無理だな。
ホムラは、しみじみ思った。
「……そうか。よくわかった」
リリアンヌは、思いの外あっさりと引き下がった。リリアンヌ自身、アリスノートが素直に話すとは、最初から思っていなかった。なにしろ、正体を明かせば、その時点で勝負が決まってしまうのだから。
わざわざ敵を勝たせるために、真実を話すバカはいないだろう。それでも、あえて尋ねたのは、問い詰められた際の反応から、なんらかの手応えが得られれば、と思ってのことだった。そして、今のアリスノートの反応で、リリアンヌはホムラがウィル・アリアレスであることに確信を持った。そして、それは、他の者も同様だった。
とはいえ、証拠がないことに変わりはない。かといって、これ以上問い詰めたところで、アリスノートが口を割るとも思えなかった。
「ところで、そなたら、これからどこへ向かうつもりだったのだ? 宝玉もなく、目的の人物を探すアテでもあるのか?」
「ああ、それなら」
シャイレンドラは素直に答えかけて、
「そ、そんなものはありません」
あわてて言葉を濁しら。そして、
「だ、だから、まず宝玉を探そうと思ってるんです」
ごまかすつもりで、さらに余計な情報をリリアンヌに与えてしまったのだった。
「宝玉を?」
案の定、リリアンヌが食いついてきた。
「宝玉の在り処がわかったのか?」
「いえ、まだわかってません」
「わかっていない? それで、どうやって宝玉を見つけようと言うのだ?」
「はい、だから、色々な街を回って、そこに住む占い師さんたちに、宝玉の在り処を占ってもらうんです。1人、2人ならアテにならなくても、100人200人の占い師さんに訊けば、なかには本当に力のある占い師もいるかもしれない。それに片っ端から聞いていって、もし複数人から同じ答えが得られたら、それだけ信憑性が高いってことだって、ホムラさんが、て、あ……」
シャイレンドラは、そこであわてて口を押さえた。
「も、もしかして、これも言っちゃいけなかったのかしら?」
シャイレンドラはホムラをチラ見したが、すでに手遅れだった。
「……なるほど、そういうことか」
リリアンヌが得心したところで、
「姉上? それに、おまえたちも。一体、何をしているのだ?」
レセルニアスが駆けつけた。いつまでたってもシャイレンドラが出てこないので、心配になって迎えに来たのだった。
「レセルニアス、いいところに来た」
リリアンヌはレセルニアスに向き直った。
「今、アリスノートから聞いたのだが、そなたら、これから宝玉を探すつもりでいるそうだな」
「だ、だとしたら、なんだと言うのです?」
「その宝玉探し、我々も手伝おう」
そのリリアンヌの突然の申し出に、
「なに?」
レセルニアスは戸惑った。
リリアンヌとは姉弟だが、今は王位を争うライバル関係にある。そのリリアンヌが、自分の手助けをするなど、あり得なかった。
「むろん、タダではない。これは、言わば取引だ」
「取引?」
「そうだ。私たちは、アリスノートの宝玉を取り戻すために力を貸す。そのかわり、宝玉を無事取り戻したあかつきには、おまえたちには、その使い魔がウィル・アリアレスであることを認めてもらう。そういう取引だ」
リリアンヌの提案に、
「え?」
レセルニアスは思わずシャイレンドラを見た。
レセルニアスはシャイレンドラから宝玉を取り戻す方法は聞いていたが、彼女の使い魔がウィル・アリアレスであることは、まだ聞いていなかったのだった。
「そ、それは、本当ですか、アリスノート殿?」
「さ、さあ、な、なんのことでしょうか」
シャイレンドラは、再び目を泳がせた。そして、レセルニアスには、それで十分だった。
「これで、取引と言った意味がわかっただろう、レセルニアス。我々は、その使い魔がウィル・アリアレスであることを証明したい。だが、その証拠はアリスノートか、その使い魔自身に提出してもらうしかないのが実情だ。そこで、アリスノートらに証拠を提出してもらう代わりに、我々はアリスノートの宝玉探しに手を貸すというわけだ。そうして、おまえたちが宝玉を取り戻した後、
おまえたちにはその使い魔がウィル・アリアレスであることを証明してもらう。どうだ? 決して、悪い取引ではないと思うがな」
このままでは、リリアンヌたちは課題をクリアできないまま、ただただ無為に時間を費やすことになりかねない。それぐらいなら、宝玉探しを手伝い、勝負を仕切り直したほうが、よほど建設的というものだった。それに不本意ではあるが、アデルハイドと血の繋がりがあることは事実。王家の恥は、王家の者が拭わねばならなかった。
「わ、わかりました。そういうことなら、取引に応じましょう」
レセルニアスは決断した。現状、それが最善の選択のだった。
「アリスノートも、それでよいな?」
リリアンヌはシャイレンドラを見た。が、実際のところ、確認したかったのは、アリスノートの使い魔の意思だった。
「はい。あ、それでいいですよね、ホムラさん? じゃなかった、ホムラ」
シャイレンドラはホムラを見た。すると、ホムラはうやうやしく一礼した。
「ホムラも、いいそうです」
「よし、決まりだ!」
リリアンヌはニムを見た。
「そういうことだ、アデリアン。アリスノートの宝玉の在り処を占ってくれ」
「あいよ」
ニムは二つ返事で引き受けると、さっそく神の指針に宝玉の在り処を問いかけた。
こうして、レイバッハ王家の4姉弟とその占い師たちは、第2の課題をクリアするために、そろって旅立つことになったのだった。




