第11話
第11話
「クソ! いまいましい、レセルニアスめ! 余計なところに、しゃしゃり出てきおって!」
自室に引き上げたアデルハイドは、椅子を蹴り飛ばした。すると、その反動で、頭に痛みが走った。
「それに、あの使い魔。よくもオレにあんな真似を。絶対に許さんぞ。あの小娘共々、八つ裂きにしてくれる!」
アデルハイドは、レイバッハの守護神イスファーンに、ホムラたちへの復讐を誓った。
「そもそも、なぜあの小娘が、ここにいるのだ? あの小娘は、始末させたはずだ。まさか、しくじったのか? おのれ、あの役立たずどもめ! 帰ってきたら、全員処刑してやるから覚悟しておけ!」
アデルハイドは、椅子を床に叩きつけた。
「くそ、このままでは済まさんぞ。今に見ていろ」
アデルハイドは、親指の爪を噛んだ。そのとき、扉をノックする音が聞こえた。
「ジブリール・リーリンにございます。お呼びと伺い、参上致しました」
「入れ!」
アデルハイドは語気荒く命じた。
「失礼いたします」
そう断って入室してきたのは、白い巫女姿をした妙齢の女性だった。長い黒髪を背中に流し、まぶたと口元に赤い紅を指した容姿は、優美さと壮麗さを併せ持っていた。
「貴様! どうして、あの女のことをオレに黙っていた!」
ジブリールが入室するなり、アデルハイドは怒鳴りつけた。
ジブリールは、アデルハイドが選んだ占い師候補であり、6大占具のひとつ「夢幻の聖印」の所有者でもあった。
この「夢幻の聖印」は、所有者に望んだ予知夢を見せることができる占具で、ジブリール自身の「予知夢」のサイキックと合わせることで、ほぼ完璧な未来予知を可能としていた。であれば、今日シャイレンドラが王宮に来ることも、当然知っていたはずだった。
「あの女とは、誰のことでございましょうか?」
「シャイ、なんとかいう女のことだ!」
「それは、シャイレンドラ・アリスノートのことでございましょうか?」
ジブリールは、アデルハイドの言葉を補足した。
「そうだ! 貴様、なぜあの女が生きていて、今日ここに来ることを言わなかった!」
アデルハイドの言い分は、完全に八つ当たりだった。しかし、ジブリールは表情ひとつ変えることなく、穏やかに言葉を紡ぎ出した。
「それでしたら、先に申し上げたはずでございます。わたくしが殿下のおそばに参りましたからには、もうあの女は必要ない。この先、あの女が何をしようとも、もはやなんの驚異でもないので捨て置くようにと」
ジブリールの言葉に、アデルハイドは鼻白んだ。
「……よもや殿下、あの女に、何か余計な関与をなさったのでございますか?」
「だ、黙れ! オレが何をしようが、オレの勝手だ! 端女風情が、オレのやることに口を出すな!」
「……申し訳ございません。出過ぎたことを申しました。どうぞ、お許しください」
ジブリールは、アデルハイドに平伏した。
「ま、まあよい」
ジブリールの平身低頭する姿に、アデルハイドの機嫌は少しだけ上向いた。本来、すべての人間が、こうやって自分を崇め奉るべきなのだ。それなのに……。
アデルハイドのなかに、再び弟たちへの怒りが沸き起こった。
「ジブリール、貴様、未来が見えるのだろう。だったら、奴らを叩き潰す妙案のひとつでもないのか?」
アデルハイドは、ジブリールに丸投げした。本来、未来予知と策謀には、まったく関連性はないのだが、本人はまったく気づいていない様子だった。
「どうやら、相当のお腹立ちのご様子。では、どうしても思い知らせたいとおっしゃられるのであれば、わたくしめにひとつ考えがございます」
ジブリールは、1つの策をアデルハイドに提案した。
本来、こんな悪巧みは、ジブリールの本意ではなかったが、ここでアデルハイドの機嫌を損ねるのは得策ではなかった。
それに、ジブリールにとっても、シャイレンドラの存在は気になるところだった。
アデルハイドには疑問形を使ったものの、実のところ、ジブリールはアデルハイドが手下を使って、シャイレンドラを暗殺することがわかっていた。そのうえで、ライバルを1人でも減らすために、あえて黙認したのだった。
そして、シャイレンドラはアデルハイドの手下によって殺される。それが、ジブリールの見た予知夢だった。
しかし、そうはならなかった。だとすれば、自分の予知を覆すほどの何かが、シャイレンドラ・アリスノートの身に起きたということになる。不確定要素は、早めに潰しておくに越したことはなかった。
この国に、自分の信仰する宗教を根付かせる。
その目的を果たすために。
「ほう、なるほど。それはいい考えだ。さっそく、取り掛からせるとしよう」
ジブリールの案を聞き、アデルハイドはニヤリと笑った。
「オレは、この国の第1王子なんだ。つまり、この国のすべては、オレのもの! 逆らう奴は、誰であろうと皆殺しにしてくれるわ!」
この企みが成功したときの、弟たちの顔が今から見物だった。




