エピローグ
あれから、半年とちょっとが過ぎた。
シナリオはそろそろ終わる時期だけど、ラストダンジョンにあたる森にラスボスがいないのはどうなるんだろうか。
だって、ラスボスはここにいるんだもの。
「大丈夫?」
「はい……」
ラスボスの魔女はつわりで苦しむわたしの体を起こしてくれて、薬湯をくれた。
魔女の手作りのこれは正直不味いんだけど、他のものは普通には大して飲み食いできないのに、これだけは問題なく飲める不思議……
そしてこれを飲むと、しばらくは他のものも食べられるようになる。
魔女の薬の謎だわ。
「ヒロインたちは、どうしてるんでしょうか」
「あの森を探索してるみたいよ? 元々澱みみたいなものもあったし、適当に何か退治して終わるんじゃない?」
「適当ですね……」
「私はあの子たちのためにラスボスやるなんてごめんだもの。薬湯飲んだら、果物食べられる?」
「はい、多分」
果物の皮を剥いて、小皿に乗せてくれる。
この魔女は世話焼きだ。
すっかり服装も侍女のものが板についている。
「じゃあ、もう、シナリオは終わるのですね。終わったら、わたくしも、もうここから出られるでしょうか」
「どうかしら、あの男が出してくれるかしらねえ……」
見込み薄そうな予感がするけれど、それは言わないことにしよう。
果物を口に入れ、咀嚼して飲み込んでから、思っていたことを独り言のように呟いた。
「……もし、万が一またゲームのせいで死んでも、もうループはしないでほしいですわ。この子に生きていってほしいから……だってループしたら、この子がいなくなってしまうもの。この世界が滅びずに、もう一度やり直しができても、この子をもう一度授かるかわからないものね」
まだ大きくはならないお腹を撫でて、それほど大きな声ではなかったはずだけど。
そこで、シルヴィオ殿下が部屋に飛び込んできた。
「死ぬなんて言わないでくれ……! やっと君と幸せになれるのに!」
……どこから聞いていたのかしら。
というか、本当に外まで聞こえたのかしら。
この世界って、盗聴器とかあったかしら……
殿下に縋りつかれて、少しだけ遠い目になる。
ヤンデレだけどヘタレだから、あまり酷いことにならなかったってわかってはいるけど……
「ごめんなさい、殿下。今は幸せですか?」
「幸せだよ……初めて君と結婚できる。監禁して良かった……!」
「ちょっと複雑ですが……わたしも幸せですわ、殿下が幸せで、この子を授かりましたから。気になるのは……いつわたしの幸不幸が確定するのでしょうね?」
気になっていたけど、またここまで引っ張ってしまった疑問を口にしてみる。
答は、魔女がくれた。
「えーと、貴女が死ぬとき?」
「……いつでしょう?」
「ゲーム乗り越えて幸せになってたら、だいぶ先よね。寿命が来た時? そっか、今回は勝てそうだから、時間もあるわね。私も転生の準備でもするかな!」
「狙って転生できるのですか」
そう言えば、この人は命を懸けて世界を呪った人だった。
懸けた命は、いつ消費されるのか……やっぱりわたしが死んだ時?
「ラスボスはれる実力派魔女だからね。神の連中のつまんないゲームは何もかもチャラにして、記憶を持ったまま転生して馬鹿にしてやるわ」
けらけら笑う魔女が楽しそうで、わたしも笑った。
「――では世界の呪いが解けるように、皆で幸せになりましょうね」