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迷子だって

 翌日になりました。

 我々は十分な休息を得られましたので、今日からまた本格的に依頼をこなして行くことになりました。


 もちろん、お金は大切ですが、お金以外も大切でございます。


 本当に困っている方を助けたいものですね。


「では、行きましょうか」


 寝汗なども、朝にお風呂に入ることによって綺麗さっぱりと洗い流しております。気分爽快、晴れやかな気持ちで依頼を受けられますよ。


 ちなみに、朝のお風呂では、私が考案致しましたバーガー風呂を試しましたがよくありませんでした。

 可もなく不可もなく、といったところでしょうか。


 スキルは一切の外部からの干渉を受けないのでした。


 思わぬ所でバーガー万能説が覆されましたね。しかし、その不完全さこそが愛おしい。


「おい、見たかよ?」

「ああ、あれだろう。あの噂の。嘘じゃないのか?」

「嘘じゃねぇよ! 俺は見た。何だよ、あの化け物は」


 道の途中、大声でお話をしている男性冒険者さんたちに出会います。彼らはどうやら化け物の話題で盛り上がっているようですね。


 男性冒険者さんは苦手でございますよ。

 どうしてだか、私を凄く睨んでくるのです。


 それにしても、今日は街が騒がしいですね。

 何かあったのでしょうか。


 それでも、私たちは構わず歩き続けます。

 ギルド本部へはあっという間に到着しました。宿を近場に取っていますからね。


 ギルドに入りますと、外の喧騒とは打って変わって静寂に包まれておりました。


 面白い依頼はないのでしょうかね。


 依頼書が貼ってあるボードを見やりますと、そこには普段通り無数の依頼がございました。


 実に迷いますね。


「迷子だって」


 私が迷っていますと、マグさんが一つの依頼書を指差しました。

 そこにはクレヨンのようなもので書かれた依頼書がございます。ふむふむ、とその依頼書を手に取って見てみます。


「何々? タマちゃんがいなくなくなっちゃった! 冒険者さん、探してください」


 これは大変です。今、青方さんが探しますからね。


「これを受けましょう!」

「待て待て待て待て」


 駆け出しそうになった私の肩を掴んで、ミーアさんが無理矢理に止めます。

 彼女の顔には呆れが混じっていますね。


「怪し過ぎるんじゃないかい? ギルドへの依頼は無料じゃない。だのに、態々ギルドへ、ペットの捜索依頼? これは何か裏があると見て間違いないよ」

「ですが、迷子のペットさんは見過ごせませんよ。勇者さんとしても、それでよろしいので?」

「……勇者。よし、やろう!」


 イェーイ、とハイタッチを交わし合いました。肩を組み、共に受付へと急ぎます。


 背後で、マグさんとナルさんの声が聞こえますが、今回ばかりは無視です。


「青方、低俗」

「そなたら馬鹿だろ」


 辛辣な言葉を敢えて応援と受け止めて、我々は無事に依頼を受けることになりました。


「依頼書によりますと、まずは依頼人の方のお家へ行かねばなりませんね」

「その必要はないです」


 早速依頼人の元へと向かおうとしていた私の背後から、甘ったるい声がかけられました。振り向いて見てみますと、そこにいらしたのは幼いかわいらしい少女でございました。


 幼い少女さんは腰に手を当て、ふふんという調子で立っておられます。


「丁度、依頼を受けてくれる人が来るか見張っていて良かったです」

「貴女様が依頼人の方でございますか?」

「まあ! 随分丁寧な冒険者ね。私を見ると舐めるかと思っていました」


 物理的に舐めることはあっても、人を精神的な意味で舐めることは致しません。マグナト店員の基本でこざいます。


 ふりふりのゴスロリのお洋服を身に纏われた依頼人さんが、私へと握手を求めてきます。無論、応じます。


 にぎにぎと、ふわふわのお手手を繋ぎます。


「依頼は簡単です。タマちゃんを見つけてください。今夜までに」

「ほう。今夜まで、ですか? それはまたどうしてでしょうか」

「色々あるのです。詮索は不要です」

「なるほど。承りました。で、そのタマちゃんさんのお姿はどのような?」


 写真などはございませんでしょう。けれども、最低限の特徴がなければ見つけられません。


「かわいいわ。そして、人懐っこいです。更に、顔には紫の模様があります」


 紫、ですか。珍しい猫ちゃんですね。


「後、絵も描いてきました」


 一言で申しまして、かなり下手な絵でございました。しかし、それを言うのは憚られるので、何も指摘しません。


「では、今夜中に、このギルドにタマちゃんを連れてきてね。期待しています」


 少女の期待に応えるべく、我々はギルドを勇み足で出ました。


「今回の依頼だけれども、ナルさんは来ない方が良いんじゃないかい?」


 捜索、という依頼に対して、ナルさんのスキルは合致していませんものね。


 けれども、ナルさんは首を横に振ります。


「この依頼には妾がいた方が良いと思うぞ。この依頼を受けたこと自体が、最初の不運なのだから」


 まあ、確かに。

 図られたかのように、ギルド内には我々しかいませんでしたからね。その上、依頼人さんも丁度ギルド内にいました。

 偶然にしてはうまく行き過ぎております。


 であれば、確率操作の能力を持つナルさんが引き起こした結果だと見る方が妥当かもしれませんね。


「わかりました。しかし、一応、二手に分かれましょうか」

「そうだな。やっぱり不運で見つけられませんでしたでは困るしな」

「ナルさんはマグさんと組んでください。私はミーアさんと組みます」


 マグさんの知覚能力があれば、ナルさんの不運くらいは覆せるはずですからね。

 後は余った私とミーアさんが組むだけです。


 私の合理的判断に対して、マグさんは頬を膨らませます。


「マグは青方とが良い」

「我儘を言うな。行くぞ」


 ナルさんはマグさんの腕を掴んで、行ってしまわれました。仲良しさんですね。

 触れるな、不運がうつる、という言葉が聞こえますが幻聴でしょう。


「では、私たちも行きましょうか」


 タマちゃんさんを探す依頼の開始でございます。

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