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今すぐ決める必要はないさ

 朝。

 私とマグさん、ナルさんにミーアさんは朝食を食べておりました。

 宿のお食事もございますが、我々は敢えてモーニングマグナトでございますよ。優雅なひと時を過ごしながら、私は迷っておりました。


 夢の件。

 つまりは、神様との会話を皆さまにお伝えするべきかどうか、という点でございます。

 そのお話をする場合、私が転生者であるということは最低限お伝えせねばならないでしょうね。


 今更、私たちの仲がその程度のことで拗れるとは思えませんし。


 問題はその後でございますよ。

 果たして、我々は神様を討伐することが可能なのでしょうか。

 もしも可能だとして、本当に誰の犠牲もなく勝利することができるのでしょうか。私はそうは思えません。最悪、我々の中の誰かが死にます。


 それが私ならば、問題はございませんが。


 悩みながら食べるマグトナルトは、美味しくはございますが、心に響きませんでした。


「どうしたの?」


 私が思いつめていることを察して、マグさんが尋ねてくださいました。優しい方でございます。


 一応、話しておきましょうか。

 優しい彼女たちならば、話くらいは真面目に聞いてくださることでしょう。


「あの、ですね。昨日、私は神に出会いました」

「君次……そなた、とうとう狂って。大丈夫だ。妾はそれでも、そなたを見捨てない!」

「狂ってませんよ!」


 私の切り口がいけませんでしたね。


「えっとですね。かくかくしかじかということでございまして」

「済まないけどね。俺はその暗号の読み方を知らないんだ。どういうことかな?」


 ミーアさんは勿論、他の何方にも伝わっておりませんでした。


 私はもしかすると、心の何処かで怖がっているのかもしれませんね。可能性はないと、先程断じましたが、彼女たちから嫌われる可能性をまだ懸念しているのでしょうか。

 人から嫌われることは、あまりよい心地が致しませんからね。


 息を吸い込み、ゆっくりと吐き出します。

 私は愚かですね。

 改めまして、私は決意します。


「実は私は転生者なのでございますよ。前世の世界で一度死に、この世界へ派遣されてきました」


 突然の我が告白に対して、トートさん以外の全員が目を丸くしました。ちなみに、トートさんは口をあんぐりと開けております。


「私がよく言うマグナトも、元々は私の世界にある飲食店なのですよ」

「確かに、納得はできるな。致命傷を即座に回復し、身体能力を上昇させる食べ物なんて、この世界にはないからな」

「あ、それは私の世界にもございません。我がスキル『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』による能力です」


 それから私は話しました。私がこの世界に連れてこられた理由。

 神様からの依頼。


 私の知っていることを全て話しました。


 さて、全てを話し終えましたので、後はこちらが聴くのみです。皆様はどのようにお答えくださるのでしょうか。


「妾は反対だな。君次クラスのスキルを簡単に授けられる存在。妾たちでも勝てるかわからない」

「……マグも反対。青方は殺しが苦手。後、マグも。お揃い」

「俺は賛成だ。このまま世界が滅ぶのを見過ごすのは、本当の勇者としては落第だからね」

「トートはねー、他の武器を使えって思うなー」


 トートさん以外はきちんとお話を聞いて、理解してくださったようでございますね。


 そうして、出た答えは反対が二名。賛成が一名でございますか。

 依頼を受けるかどうかは、民主主義的に申し上げますと、反対ということになりますね。一応、トートさんの意見も考慮しますと、反対が三となります。


「そうですか。わかりました。今回の神様からの依頼は辞退致しましょう」

「待ちなよ! 本当に良いのかい? 戦わなければ、俺たちだけじゃない。全員が死ぬんだぞ」


 ミーアさんの鋭い指摘に、私は気圧されました。その通りでございます。

 このままでは、必ずお客様たちが消えてしまいます。それも全員。


 私の主義とは反します。

 ですから、


「ええ。ですから、私は一人で行きます」

「え!?」


 私の台詞に、マグさんもナルさんも同時に反応なさいました。


「一応、策がないこともございません。私を含めた全ての欲望者を集めれば、或いは神を打倒することができるかもしれません」

「止めろ、君次。無謀だ。それはあまりにも、無謀過ぎる」

「どうしてですか?」

「……妾にとって、そなたとマグ以外はどうでも良い。そなたが僅かにでも死ぬ可能性があるのならば、妾は……全力を持ってそなたを止める」


 言うが早いか、ナルさんは既に魔力を練り初めておりました。

 それはナルさんの隣のマグさんも同様でございました。静かに、闘志を高めております。


「待ってくれないかい?」


 対峙し合う我々三人の間に入るように、ミーアさんがいらしました。


「俺としては戦うべきだと思う。だが、同時に、だ。きみたちは戦うべきではないと思う」

「それは一体どういうことで?」

「神と戦うには、あくまで俺の想像だが。戦争をやるつもりでいかなくてはいけない。最低でも、戦力として千は欲しい」

「……千」

「維持費がかかる。また、支援も必要だろう。俺以外の全員は支援と金銭援助をすべきだ」


 確かに、私のスキルは支援能力に特化しております。

 マグさんも、その素早い動きを活かせれば支援係としては文句が付けられません。

 ナルさんの魔法も便利ですし、何よりも彼女の戦闘は周囲を巻き込むので集団戦に向いておりません。


 ミーアさんの言うことには一理ございます。


「今すぐ決める必要はないさ。先に、欲望者や戦士を集めないといけないからね。それと同時に、神の居場所も突き止めないと」


 ミーアさんの意見に対して、全員がそれぞれ思うところはあるものの、彼女の言った言葉『今すぐ決める必要はないさ』に惹かれて、全員が首肯を返しておりました。

 私たちは想像以上に、今の仲間たちと離れるのを嫌っていたようです。


 結局は何も具体的なことは定まらないまま、朝食の時間は終わりました。

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