事実を教えるな?
「女!? この俺がぁ? あはは、面白いジョークだね、レディー?」
と、女勇者様は仰いました。はい、どう見ても女性でございますね。
目鼻立ち、その大きなお胸。華奢な身体に、程よいくびれ。ハープの音色のように、私の耳を優しくくすぐる可愛らしい声。
全てが証明しておりました。彼女は女性でございます。
「……どう見ても女」
マグさんも同意してくださいます。
「きみまでそんなことを言うのかい? ふふ、わかったよ。俺くらい綺麗な男を見たことがないんだね?」
「キャー、素敵! かわ……格好いい! ミーア様ぁ」
「素敵素敵! 抱いてぇ」
彼女の取り巻きである御二方の女性たちが、きゃあきゃあと色めき立ちます。
御二方は女勇者様ーーミーア様の両腕に抱きつきました。美少女三人が密着しておりますね。中々の眼福でございます。
取り巻きさんたちは、騒ぎながらミーア様に擦り寄っております。とても楽しそうですが、我々を睨む目だけが殺気を放っておりました。
怖い。
口の動きだけで、何かを伝えようとしてきていますが、私には皆目見当もつきません。
「マグさん、解読できましたか?」
「じ・じ・つ・を・お・し・え・る・な」
「事実を教えるな? それは彼女が女性であるということでございましょうか?」
「多分」
おかしなお話でございますね。お風呂に入るだけで露呈する事実でございましょうに。
「さ、勇者様。こんな失礼な方は放っておいて、早くギルドに報告に行きましょうよ」
「まあ、確かにギルドへの報告を急がなくちゃね。じゃあ、俺はもう行くよ。レディーたち。その男に飽きたら、連絡してね」
と、ミーア様は歩き始めてしまいました。
よくわからない展開に圧倒されて、注意するのを忘れておりました。
戦闘するのはよろしいでしょう。
けれども、それで地形を破壊してしまうのはあまりよろしくはありません。
「今度会ったら注意しましょうかね」
怒涛の勢いで現れ去って行った勇者様一行は一度忘却の彼方へ追いやりましょう。
まずはこれからどうするのか、ということに目を向けましょう。不幸中の幸いとして、現在周囲には魔物さんはいらっしゃいません。
「はい」
マグさんが控えめに挙手なさいました。腕の動きに連動して、猫耳さんも立ち上がります。かわいい。
耳を触りたいです。
けれども、猫さんの耳に触れるのはあまり良くないと聞いたような気がしますね。
仕方がないので、ナルさんの頭を撫でました。
「青方……今はマグの時間」
「そうですね。意見をどうぞ」
「むう。この辺りで寝よ」
「どうやってですか?」
「青方のスキルで壁と天井を作る」
まあ、妥当な案ですね。異存もございません。雨や風も防げますし、耐久力も折紙付。
けれども、不安もございます。
あくまでバーガーを積み上げただけのものしか作れません。
壁を破壊することは不可能でございますけれども、中に侵入することは容易いのです。
と、私が懸念していることをありのままにお話ししますと、ナルさんが胸を張りました。
ふふん、とその言動には魔王の威厳はございませんけれどもとってもかわいらしいです。
「妾が壁を作ってやろう。魔法でな」
「きゃー、流石ナルさん!」
「ふふん、もっと褒めろ。愛せ。結婚しろ」
「まあ、たしかに二人の初の共同作業といったところですかね」
結婚式のあのイベントは憧れますよね。私がいざやっても、おそらく上手く切れないでしょうけれど。
ケーキを切るのは大変ですよね。ぐちゃーっとなってしまって、悲しくなってしまいます。
ですから、私のお家ではクリスマスと誕生日もマグナト。素敵!
「では、そうしましょうか。まあ、多少侵略があっても、私たちならそうそう下手はうちませんしね」
「待って。マグも何かする」
「ん? どういうことですか?」
「二人の初の共同作業? マグはそれを許さない」
嫉妬、でしょうか。
そういうマグさんも素敵でございますね。けれども、一体どうやって貢献するのでしょうか。
マグさんはその驚異的な知覚で、襲撃者に対する警戒を軽くしてくださるだけで構わないのですけれど。
「土を掘る」
「え?」
「マグは土を掘る」
「そ、そうですか?」
「土を掘って、そして青方の布団になる」
マグさんの決意は固いようです。マグナトのマニュアルには書いていないことなので、マグさんの言動には理解が及びませんけれども。彼女が御自分の意思で決定したのならば、私に異論はございません。
「では、マグさん! 穴を掘ってくださいませ!」
「うん」
言うが早いか。マグさんはその手を使って、土を掘り起こしていきます。
後で埋めることも考えて、できるだけあまり掘り返さないで欲しいですね。
マグさんの爪が一閃される度、土は空を舞いました。それが続くこと五分。
巨大な穴が誕生しました。
「では、ここにバーガーの壁と天井を作り出して、それを覆うようにナルさんの魔法を」
「そうするか。あと、マグ。手が汚れただろう。水の魔法を使ってやる」
マグさんが頷き、それに応えてナルさんが魔法を詠唱しました。結果、大量の水が生み出されました。
その水はマグさんの手を綺麗に洗い流し、ついでにマグさんが掘った穴をぐちゃぐちゃに流してしまいました。
「お前はやっぱり敵」
「違う! 妾はそんなつもりはないからな! 妾は普通にそなたと仲良くしたいだけだ!」
「恋敵は皆そう言う」
「誤解だぁ」
二人は今日も仲良く喧嘩なさっております。私は穴から少し離れた場所に、バーガーの壁を設置しました。




