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ふっ。勝った

 食糧難を滅ぼす方法を考えます。

 一番単純にして、確実なのが『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を使用することでしょうか。


 ですが、これにも問題はございます。これは噂なのですけれども、私のようなプロマグナトリストでなければ、毎日マグナト商品というのは身体に悪いそうなのでございます。


 健康に気を遣って、毎日のトレーニングを欠かさない私だからこそ、マグナトの女神は微笑んでくれているのでございましょう。


「そうですねえ。マグさんは何が食べたいですか?」

「マグはグーだけでいい」

「他にも色々、魅力的な商品はございますよ?」

「青方が言うなら、それも飲む」

「飲み物限定でございますか?」


 まあ、よろしいでしょう。

 味の好みは人それぞれなのですからね。それにしても、さて、どうしましょうか。


「魚でも捕まえますか?」


 私の何気ない言葉に、魔界族さんたちは戦慄を全身で表しました。

 倒れていた元リーダーさんも立ち上がり、私の首を掴みます。


「ふざけるな! それができたら、我らは飢えずにすんだ!」

「お前、青方に触るな」


 マグさんは元リーダーさんを全力で蹴り上げました。彼はその場に蹲ります。


「マグさん。もう貴女様は誰も傷付ける必要はないのですよ? 人を蹴ってはいけません」

「ごめんなさい」

「いいえ、わかればよろしいのですよ。元リーダーさんも、許してあげてくださいね?」


 彼は涙目で、私を睨み付けます。


「それにしても、魚が採れないのですか?」

「魔物を知らないのか? お前は」

「いいえ、存じ上げておりますとも。私のお客様には魔物さんもいらっしゃいますからね」

「……何?」


 元リーダーさんは俯いて、ぶつぶつと独り言を開始しました。


 私はナルさんに話を振ります。


「ナルさん、魔物がこの話にどう関わっているのか。わかりますか?」

「君次ぃ。お腹痛い」


 彼女はそう仰ると、私の腰に縋り付きました。顔色は悪く、本当に具合が悪いようです。


「どうなさいましたか?」

「多分……さっき食べたのに中ったんだろう」

「それは運が悪かったですね。しかし、それならば、この揚げ芋をどうぞ」

「妾はホワイトジェルの方が好みだ」


 好き嫌いが多いですねえ。まあ、それもまた是也でございます。ホワイトジェルを召喚致します。


 ナルさんはホワイトジェルをペロペロ舐めながら、私に説明をしてくださいます。


「妾は強いから知らないが、下級魔界族やメルセルカでは勝てない魔物がいるんじゃないか?」


 それはつまり、こういうことでしょうか。

 魚を採っていた場所に、魔物が現れて近づけない、と。


 魔界族さんたちの反応を見るに、おそらく正解なのでしょう。


 御老人も頷き、説明をしてくださいます。


「魔物はここ最近現れたのだ。あれは突如出現する。おそらくは普通の生物が突然変異しているのだ」

「わかりました。つまりは主釣りをすればよろしいのですね。理解しました」


 簡単な話になったので、これは幸いでございますね。難しいお話は苦手なのです。

 マグナトでも、私は脳までバーガーでできていると噂されていた程ですからね。

 脳ガー、と略されておりました。


「わかりました。 では、私たちをその魚がいる場所に連れて行ってください」


 しかし、魔物ですか。

 これも食糧難の原因の一つなのでしょうね。魚が突然凶暴になったり、家畜さんが急に強くなったら困りますものね。


 これでは油断して猫も飼えません。


 屏風から虎がリアルで出てくるレベルのショックを受けてしまいますよ。


「まあ、私には可愛いマグさんがいますからね。素敵なお客様です」

「えへへ」


 マグさんは喜んだ拍子に、私に抱き着きます。バーガーを食べていなかったので、くしゃみが出ました。


「うぁ」


 それがナルさんに掛かりました。


「申し訳ありません!」

「ぃ、いや、これはこれで……悪くないぞ」

「……うわぁ」


 ナルさんの性癖にはついていけませんね。私、困惑でございます。

 マグナト店員になって以来、初めてですね。


 と、私がややナルさんに恐怖を抱いていますと、無事に目的の場所に到着致しました。


 特に何の変わりもない、普通の川に見えます。水はやや汚いかもしれませんが、まあ仕方ないでしょう。


「私、少しばかり楽しみになってまいりましたね。主釣り、男の浪漫でございます」

「マグは興味ない」

「まあまあ、そう仰らずに」

「素手で獲ればいいだけ」


 中々豪快なことを仰いますね。


「青方、獲れたら褒めて」


 彼女はそう宣言しますと、何の遠慮もなく川に飛び込んでしまいました。

 足には鎖だけとはいえ、枷が付いているのですが、大丈夫でしょうか。


「妾がいる以上、ただでは帰れないと思う」

「心配ですね」

「ああ、二人っきりだな」

「私の言葉聴いていましたか?」


 ナルさんは私に詰め寄ろうとしました。けれども、その動作よりも早く水面に変化が現れました。


 巨大な魚が現れたのです。白目を剥いて。

 その魚を担ぐようにして登場したのは、マグさんでございました。彼女はドヤドヤしい顔をして、獲物を私に渡してくださいます。


「これ、獲った」

「凄いですね」

「褒めて」

「偉いです、偉いです」

「ふっ。勝った」


 マグさんの謎の勝利宣言に反応したのは、ナルさんでございました。


「その程度、妾でも獲れる! 魔王を舐めるなよ!」


 彼女も川に飛び込みました。

 水面を叩く音が耳に入ってきます。ナルさんが泳ごうとすると、その下から巨大な影が出現しました。


「あれが主」

「あれ、マグさんが獲って来たのは?」

「これは人質。あの魔物の子供」

「マグさんがいつの間にかグレてる!?」

「違う。これは成長」

「それには同意致しかねますね」


 ナルさんは主にパクリと食べられてしまいました。

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