了
ナルさんが物理的に食べられてしまいました。いくら魔王といえども、水の中で魚には敵いません。
ナルさん、呆気ない最期でございましたね……などと言っている場合ではございません。
「来てください。『創造せよ、至高の晩餐』」
召喚せしは大量の揚げ芋でございます。私の能力の前では、マグナト商品は無敵の力を有します。
食べる以外のあらゆる干渉から外れた存在を創造できるのです。
今回、私は必死に揚げ芋を結んでいきます。一つ一つは短くとも、繋げれば立派なロープとなります。
それに食べるときに、一気に食べられて中々爽快そうです。これは助けた後の実食が楽しみですね。
「青方、多分それ無理」
「ど、どうしてでございますか?」
「できる前に、消化」
失念しておりました。
存外、私は動揺しているのかもしれませんね。認めましょう。
ですが、言い訳をさせてください。川の主さんが想定外な程に巨大だったのです。
私、ゲームなどでは水ステージが苦手なのです。言い知れぬ恐怖感があります。
水中にて巨大生物さんを発見した暁には、もう心内阿鼻叫喚でございましょう。
「で、ではどうしましょうか!」
「メルセルカよ。取引をしよう」
主さんの声でした。彼は私の動揺を知ってか知らずか、とても重厚感ある声を放ちました。怖いです。
「我が娘を無事に渡すなら、この今食べた女は助けてやる」
「あ、この方は娘さんだったのですね」
「美人だろう。やらんぞ」
美人、ではないですよね。美魚でございましょう。まあ、その美魚らしいお顔は白目を剥いて、口をパクパクさせておりますけれど。
「了承致しました。では、先に娘さんをお渡ししましょう。マグさん」
「了」
マグさんが主さんの娘さんを掴みますと、そのまま投げました。盛大な音を立てて、主さんの娘さんは沈んでいきます。
「娘を大切に扱え!」
「ささ、ナルさんを返して頂きましょうか」
「ふ、甘いな。すでに胃の中だ! 消化してくれるわ」
「話が違うではありませんか!」
私の憤りも無視して、主さんはガハガハと下品に笑います。酷い方ですね。
「この鬼! 悪魔! 魔王! 魚!」
「誰が魚だと!?」
「やーい、やーい、貴方様のお母様エラ呼吸!」
「くっそ! 何の反論もできない」
我々が高度な舌戦とそれに伴う心理戦を繰り広げていますと、隣でマグさんが欠伸を漏らしました。
「ナルがこの程度で死ぬ訳ない」
「そうですけれど。不運からお助けする約束でございますから」
もういっそ、私も川に飛び込みましょうか。少々荒々しい解決策とはなりますが、バーガーパンチを食らわせれば吐くでしょう。
私の拳はバーガーのように美味しくはありませんよ。
「覚悟なさいませ、主さん!」
「来てみーーっ!?」
主さんが目をぎょろりと見開きます。主さんは焦燥に駆られた様子で、自らのお腹を見やります。
何があったのでしょうか。
凝視しておりますと、突然閃光が瞬きました。それはナルさんが使用した魔法でした。
『門』でございました。それは上空ではなく、土の中に現れました。
土の中にいる。
ナルさんが下半身を土に埋めながら現れました。彼女の髪には胃液でしょうか。謎のネバネバが付着しております。
ただでさえ整えていなかった髪が、更にぼさぼさになってしまいますね。
ですが、格好だけは楽しそうです。海に行ったら、こういう方いらっしゃいますものね。
ナルさんが人生を謳歌しているようで幸いでございます。
「主さん、魔界族さんたちが魚が獲れないと嘆いておりましたよ?」
「知ったことか。この川の生態系に、魔界族は関係ない」
「確かに」
魔界族さんたちに都合がありますように、お魚さんにも都合があるのでございますね。私は何と考えなしだったのでしょうか。
「むむむー」
「青方、全部を救うのは無理、と思う」
「無理かもしれませんけれど、諦めたくはありませんね」
マグナト店員ですからね。
幸せをーー届けに来たぜ。というところでしょうか。
ですが、魔界族さんも主さんも救う方法などあるのでしょうか。両者ともにお魚さんを食べているようですが。
「そうです! 養殖しましょうよ!」
「養殖? どうやって?」
「私の力を使うのですよ」
私は現代知識でチートはできません。けれども、我が『創造せよ、至高の晩餐』はすでに何よりものチートでございました。
知識?
そのようなものは不要なのでございます。
この世のことは大抵、マグナトバーガーでどうにかなるのですよ。
さあ、私の力をお見せしましょうか。




