[4.5] 狂恋
補足的なお話です。
普を弟として見たことはなかった。
物心つく頃には、既に私は弟の隠れ蓑だった。
弟のためだけに存在し、やがて朽ちてゆくのが私なのだと、幼いながらに理解していた。
だから、私の存在意義である普が堪らなく愛しかった。
けれど、私は歪曲した性格の持ち主だ。
世にまかり通らぬ禁忌の感情一切を切り捨てることなく、利己的な理由で、弟が一番欲していたものを与えなかった。
それが家族愛である。
私は弟をそんな枠組みで愛してはいなかったし、ただの姉でいることに耐えられはしなかったのだ。
故に、一部が欠落した他は“完璧な姉”をしていた。
弟に狂ってほしかった。
大衆の謳う倫理などかなぐり捨て、私を家族として見ないでほしかった。
両親が殺されたのは意外だったけども、結果、弟は一時の解放とそれまでからの変化を味わい、私のもとへ帰ってきてくれたのだからまあ良かった。
それから、校内では一日数回、弟との逢瀬を楽しむ。
嶺朱理や他の生徒たちはその変化に誰一人気づいていないようだけど、最近逢瀬の度にこちらを盗み見ている気配があった。
無粋な戸川かと思えば、違う。
彼女の取り巻きの一人だった。
私が気づいてないとでも思ってるのか、息を呑んで目を見張る様は滑稽以外の何物でもない。
さて、どうしてくれよう―――。
私は一人、ほくそ笑む。