2-7 屠殺者襲撃
夏樹の元へと駆け寄る赤城に、夏樹自身は戸惑う。
ぎゅ~と引っ付かれ、身動きも取れないところだ。
「トドメよ、さようなら!!」
金聖輝の右腕に光砂が集まり、人差し指と中指だけを伸ばしで飛びかかる。
「アーク溶接(電工熱棒突)」
金聖輝の言葉と共に光砂が激しく光る。
それはまるでアーク溶接の棒の様である。
しどろもどろの中、二人を救ったのは初音がいるところとは対象真逆な方向
バキッ!と金聖輝が顔面から左側に吹き飛ぶ。
「きゃあ!」
派手に転がっていくが砂漠の砂がクッションとなっているために、大きなダメージにはならなかった。
そして、金聖輝の邪魔をしたものが現れる。
「おいおい!人んちの庭で暴れまわってんじゃねえよ!!ブッ殺すぞ!?てめぇら!!」
「ここは僕達の領土だよ!」
現れたのは、2mは軽くありそうな長身だがスリムな体型でTシャツ一枚に顔つきがヤンキーにしか見えない男性と、身長1mもなさそうなニット帽にパーカーを着た少年だった。
「な、なんですの?」
金聖輝は右頬をさすり立ち上がる。
「さっきから、ここらの砂をバンバン打ち上げやがって!喧嘩売ってんのかこのアマァッ!!」
身長がでかければ張り上げる声も大きく、この場にいる全員が頭に響き頭部を押さえる。
「このバカ斌!でかい声はだすなっていってんだろー!!」
少年が斌と呼んだ長身の男に飛び上がって顔面に強烈な蹴りを浴びせる。
ベキッ!
「いてーな!このガキ!今日は虫の居所がわりぃんだよ!!邪魔するならお前からブッ殺すぞ!?」
斌という男が拳を振るうが少年は飛び上がって避けた、かと思えばその腕に乗り、さらに飛び上がるともう一発蹴りをかます。
ベキッ!
「遅いよ、そんなんじゃ僕、月見里:準人は捉えられないよ」
「言ってくれんじゃねえか?この東藤:斌様の囚人だった頃に戻れば、お前みたいなクソガキ一撃で…」
ベキッ!
もう一度拳を振るうが、やはり避けられてしまい、反撃としてその腕に飛び乗られ回し蹴りを食らわされる。
「こ、このガキ…!!」
斌の堪忍袋の緒が切れる直前!
「ちょっと、貴方達!」
金聖輝が立ち上がり、ケヴィネスを勢いよく発する。
「あなたたちこそなんなんですか!?いきなり割り込んできて?こんなこと金色の星であれば重罪で…」
二人に迫る彼女の顔から僅か数センチ程度の距離に刃物が向けられる。
「あぁ!?うるせぇんだよ!!」
斌がそれを向けていた。
その間に準人という少年がひょっこりと姿を現す。
「僕達は屠殺者。金色の君」
準人が金聖輝に人差し指を指す。
「僕達にとって君は敵でも味方でもない。だけど邪魔をするようなら、敵として容赦するつもりはないよ?」
準人からも気が放出される。
斌からも同じ気が放たれる。
それを見た初音は驚いた表情でこう言った。
「プシュケー!?能力界のオーラがどうして?」
屠殺者二人の気・プシュケーを見て初音は驚愕していた。
「夏樹、赤城、あなた達は逃げて、そこの金色の人も!」
夏樹と赤城はともかく、金聖輝にまで逃げることを指示する。
「はぁ?どうしてですの?あの程度のオーラに私が負かされると思って?」
強がったように、威張ってみせるが金聖輝も気づいていた。
たとえ彼女の気・ケヴィネスが未知なるオーラといえども、プシュケーは、ラー家のオーラ・プネウマの次に強いオーラとされている。
金聖輝は今までの戦闘の中で、初音に一歩及ばない程度ではあるが、かなり強力な能力者だ。
目の前の屠殺者の二人が発するプシュケーがどれほど強力なものであるかは彼女にもわかっているはずだった。
夏樹と赤城が、初音の背後に回る。
「あの二人は能力界の住人のようね、屠殺者の中でもかなり高位な部類。気をつけて…」
「わかっていますわ。気が乗りませんけど、今回は協力して差し上げますわ!」
初音と金聖輝が、互を協力し合うことを決めた。
しかし、相手は屠殺者のメンバー、それも能力界の住民の特徴を持つプシュケーを操る二人だ。
今までの相手とは一味も二味も違う。
「パートナーは決まったかい?それじゃさっそく行かせてもらおうか!」
「楽しませてくれよ!老若男女手加減はしねぇからな!!」
ポケットに両腕を入れて構える準人と、腕をポキポキ鳴らす斌。
両者共相手にとって不足は無い。
緊迫の状況を打ち破ったのは金聖輝だ。
一直線に二人のもとに駆け寄り光砂を舞わす。
「スターダストインフェルノ!」
煌く砂が斌と準人に降りかかる。
「一気に決めますわ!燃焼!!」
光砂が二人の皮膚に触れ、高熱を発する。
「これで決まりましたわね!」
自身を持って胸を張るが…
全く効いている様子は無い。
それを見もしない金聖輝。
「こんな程度なのかい?」
準人がプシュケーを具現化し、U字型の磁石を作り出す。
その途端、準人と斌の体中に付いた光砂、更には地面の砂鉄が全て磁石に引っ付く。
「なまじ半端な能力だと、自分のモノにできるから怖いものだね」
取り付いた砂鉄と光砂、そして磁石をミックスし、巨大な槍を形成した。
「物質調教、僕の能力さ」
準人が槍を軽く振るう。
強力な磁石が吸い寄せた砂鉄は5m以上も有る非常に長いものだ。
初音には遠いが金聖輝には充分届く。
「危ない!!」
「え?」
だから初音はプネウマを足に促し、金聖輝を自分の身体ごと突き倒す。
ブオンッと空を切る勢いに、初音と金聖輝の髪がなびく。
真面に当たれば、怪我どころではすまなかっただろう。
「能力界の屠殺者の中でも一流候補と言われる僕を、ナメてもらったら困るね」
準人が、槍を後ろに構える。
「次は外さない。子供の姿をしているからって余計な手加減は無用だよ!」
そう言って一気に距離を詰めてくる。
「まずいわ。あの子、あなたじゃ勝ち目がない。あなたも下がって」
そう言って初音は金聖輝を、力いっぱい突き飛ばす。
「きゃあ!」
金聖輝の悲鳴はよそに初音も準人に近寄る。
「ラー家の実力、どんなものか見せてもらうよ!」
そう言って、駆ける足を止めず、準人が槍を振るう。
5mという長さをまるで気にしないかのように、軽々と振るい次々と空を切る。
「くっ、速い!」
ギリギリのところでその先端をかわし、次に備えてはかわしをくりかえす。
5mという長さとあっては迂闊に近寄ることもできない。
シュシュシュと、槍の突を避け続け、少しずつ近づくが、
「俺を忘れるなよーっ!」
しかし、順調に進行するのを阻止するかのように斌が拳を構え、割って入ってくる
槍の連続突きと、斌の暴行の息はぴったりだ。
僅かな合間を縫ってはいるようにしている。
間一髪で、後ろに飛び直撃は避けたものの槍が頬に傷を作っていた。
出血はしているが流れるのだけはさけた。
(まずいわ。思ってた以上にコンビネーションがうまい…私一人じゃどうにもなりそうにないわ)
初音にも焦りが生まれていた。
「斌、あっちの三人を頼んだよ。ラー家の子は僕がやる」
槍は使いにくいと判断したのか、具現化したプシュケーを開放する。
すると強力な接着剤で引っ付きあっていたような槍は、あっという間に砂鉄と光砂になり、地面に落ちる。
「この程度だと、序ノ口に過ぎないかな?」
そういって再びプシュケーを具現化する行動に入る。
そしてソレを見た初音はまたしても驚愕することとなったのだった。




