2-6 第一線戦闘開始
ラー家の血筋はどんな状況にも対処できる者である。
16の拳を腹部にうけていた初音だったが、一日休めばその傷も完治していた。
一般的な能力者であれば、あの一撃だけでも致命傷となっていただろう。
それは初音も同じだった。
しかしあの場で兵士達が駆けつけてくれたことが二人が助かった理由でもあった。
この部隊には恩が残っている。
その恩に報いるためにも、今回の作戦は成功させなければならない。
砂漠北部
一日が経過し初音と夏樹、そして赤城が率いる覚醒生物対処部隊を連れた一向はマンティス・シャフラワースが発見されたという砂漠の北部に到着していた。
初音と夏樹にも護身用として対覚醒生物用の強化マスピック弾を装填したハンドガンとアンチマテリアルカッターを持たされていた。
このハンドガンは覚醒生物によく見られる強化防御壁を貫通する破壊力を持つ。
アンチマテリアルカッターは、能力者のオーラを切れ味に変え覚醒生物の強化された体皮でさえも切れるナイフである。
これがあれば、人間の世界で用いられていたとされる戦車類でさえも、切れる程の刃になる。
ただしオーラの強さにも寄る為、その切れ味はまさに扱う者の能力次第である。
しかし今回発見されているのは到底マンティス・シャフラワースとは思えない。
なぜなら砂漠北部の地面は、いくら掘削用に特化した鎌を持つマンティス・シャフラワースでも、掘り起こすのは不可能な岩石に覆われた地面だった。
「こんなところに本当にいるの?地面はあの生物が掘れるような砂じゃなく岩の塊よ?」
各々が距離を離さないように散開し、辺りを調べているがとてもそれらしい気配は愚か、痕跡すら見つけることは出なかった。
「この辺りは廃工場のあったところだから~、もしかしたら屠殺者の一団が始末してしまったのかもしれませんね~」
こんな場でも、赤城はいつものムードメーカー的な口調だった。
しかし、その空気を一瞬にして冷静な態度に変える出来事が起こる。
「それはないわね…だって私達も捜索中なんだから、ねぇ」
その声の元に、その場にいた者達が全員その方に向く!
「ど、どなたですかぁ~?」
動揺した赤城、しかしその者はまるで表情を変えずに答えた。
「金色に輝く聖なる闇、黄金の星より飛来した」
腰まである長い金の髪をフワッとたくし上げる。
あまりにも眩しい輝きに目が眩むほどだ。
細い毛束なのに金塊の輝きにも見えた。
「名を金聖輝と言います。以後お見知りおきを」
たくしあげていた両腕の手の平を交差させる。
その途端、何もなかったはずの空間に視界の障害を起こさせる程の砂塵が浮き出す。
ただ浮いているだけで、舞っているわけではない。
しかし地面にある巨大な一つの岩石以外は一面、砂漠の砂。
金聖輝と名乗った女性は強い念力を放ち、砂を操る。
だが、この砂の中に含まれる光る砂だけが浮いていた。
5m程まで打ち上がった砂は全て地に落ち、この場にいる者全員が砂にまみれた。
「うう、ばっちぃ!」
口に砂が入った初音は咳き込む。
ほかのものも同様に咳き込んでいた。
「まずは邪魔な雑魚を片付けましょうか?」
金聖輝が操っている光る砂が、砂塵となって、赤城の率いる兵士達の方に舞って行く。
「私の砂は強力な熱を持っていますから、迂闊に触れると皮膚を焦がしますわよ!」
その声を聞いた兵士達は、悲鳴をあげて逃げ出していく。
だが金聖輝の念力が兵士達の足よりも早く光る砂を兵士の集団に停滞させる。
兵士達の悲鳴が次々に聞こえ、煙幕の様に停滞する砂から脱出しようとするが、金聖輝が言ったように高熱の砂が兵士達の皮膚を爛れさせ、次々に熱中症にしては死亡させていく。
「アハハハハ…さあ、残りはあなた達だけですわね?」
停滞させた砂を、金聖輝を中心として固まる。
金聖輝にはこの砂の熱は効かない様で、歩み寄ってくる金聖輝がいくら皮膚に触れていようと皮膚がただれる様子は愚か、ノースリーブの服が熱に燃え散ることもない。
もちろん兵士達は、光る砂の熱によって全滅していた。
「どうか楽しませてくださいね。特に赤い髪の貴女」
金聖輝は初音をマークした。
「くっ!」
それを見て初音はプネウマを集中させ構える。
熱を持つのなら、プネウマを高めて、熱防御に備えれば…
初音の主力属性は火であるため、熱に耐えれる力を持っているはずだった。
しかし例外が考えられるとすれば、金聖輝の熱の物質は砂だ。
火を消滅させる力にもなりうる砂は、はたして耐えれるかわからない。
「さあ、よけてみなさい!スターダストインフェルノ!」
光砂が金聖輝の念力を受けて初音に急接近してくる。
同じタイミングで、初音は側面に向かって駆け出し始める。
その足さばきは速い。
それを見て夏樹と赤城も、初音とは反対の側面に向かって駆け出す。
側面から挟み撃ちを狙うつもりだった。
しかし、それを読んでいたのか、金聖輝は夏樹達を見ることなく、別の位置にも念力を配っていた。
「う、うわぁ!」
「きゃあぁ~目が痛いです~」
砂塵が巻き起こり、夏樹と赤城がもがく。
だが、これはただの砂。
熱をもつ光砂ではなかった。
だが、目に入った事によって視界が悪くなり、しばらくその場で目を擦っていた。
金聖輝にとって、夏樹達に向けた砂は足止めに過ぎない。
向かってくる初音に体制は崩さず構える。
「よくも、夏樹や赤城をーっ!」
しかし、気付くのが遅かった。
二人を襲ったことによって、初音は闘争心を高め、駆ける足の速度が上昇していた。
金聖輝が振り返った時、既に背後に回りこまれかけていた。
再度振り返ろうとした時には、力いっぱいの鉄拳を一発浴びる。
ゴスッ!
「っ!きゃあ!」
打撃は防御できたが、衝撃までは適わなかった。
初めから最後まで地面を擦りながら衝撃の方向に滑っていく。
普通の能力者とは違う、大した防御力だ。
防御に用いた腕に痣を作りながらも、怯んだ様子を見せない彼女に初音は恐怖を覚えた。
今までに戦ってきた者達とは比べ物にならない種の能力者だ!
痣をさすり、体制を戻す金聖輝。
「フフフ…アハハハハ、その程度ですの?」
金聖輝の身体を見たことのない気が包み込む。
その圧力に初音は、両腕で防御しはち切れそうな衝撃波を押さえ込む。
「なんて重いオーラなの!?それにこの力、今までと何か違う」
強い力によって砂漠の砂は吹き飛び、再び夏樹や赤城にその砂が迫り来る。
「私はあなた達から言わせれば宇宙人なる存在。このケヴィネスの力には対応しきれないわ」
そう言って、金聖輝は高笑いをする。
と、その時。
光源体が金聖輝に向かって飛んでくる。
弾速は早かったが、気付いていたかの様に避ける。
そして振り返ってみると…
「はずれてしまいましたねぇ~…」
赤城が残念そうに手の平を金聖輝に向けていた。
見ただけで柔らかい感触が見て取れる細指、その手の平はうっすらと煙を放っていた。
「込み上げる想いの微熱!」
光弾だったが恋の神らしく、力の名称も個性的なものだった。
「次は外しませんよぉ~」
そういって、次は両手を金聖輝に向ける。
「育まれる恋の微熱!」
赤城の発した言葉と共に今度は、小規模のビームが金聖輝に向かって放たれる。
しかし、やはりそれもよけられてしまう。
「あなたは弱いわね…神といっても文化に秀でた神。弱くても仕方のないことね」
赤城は精一杯の努力を見せているが金聖輝は容赦しなかった。
「無駄な力は必要ないわ!私が消してあげます」
初音をそっちのけて、赤城に狙いを定める。
戦闘に不慣れな赤城は、強く見据える金聖輝恐れおののき、夏樹の向かって走っていった。
「夏樹さ~ん!たすけてくださいぃ~!!」
赤城は夏樹に助けを求める。
「二人まとめて殺して差し上げますわ!」
金聖輝にケヴィネスが宿る。
彼女は本気だ。
夏樹と赤城、二人はこの絶対的な状況の中をどう対処するのか!?




