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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
1章 学園に潜む悪霊
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1-13 エピローグ 過去の清算

紅の屋敷/夏樹の部屋

初音は学校が終わってはいつもの様に、自分の部屋には入らず夏樹部屋へ看病をしに来ていた。

かれこれ1週間は寝込んだままの彼はもう傷自体はほとんど治ってはいたが、精神状態が安定しないものになっていた。

黒葉が診察してくれたところによると、おそらく呪力による操り人形に一度かかってしまったことによって、自らが行った行動と無意識の中で動かされていたことが心に悪影響を与えてしまったということだ。

しかしこの症状自体は時間と共に解消されるとのことだ。

やはり、最大の問題は左頬の骨折だろう。

「一体どんなことをしたらこんなに派手に骨が砕けるんだい?」

あの時の黒葉は笑って初音に言っていたが、考えずともこの傷は初音が闘神化したことによって負ったものだというのは分かっての事なのだろう。

初音はとても心配気味だったが、これも直せないことは無い傷だった。

ただしかなり深いものということで完治までは一ヶ月くらいはかかるときかされた。

それっきり、初音は調査はそっちのけでいつも夏樹の看病に力を入れていたのだ。

もはや傍から見れば、これは看病というより恋人同士のような心配なのではないかと千博に言われたことがある。

しかし、そんなことを気にする初音ではなかった。

なんてたって、夏樹と初音は親子の契りを結んだのだから。

コンコン!

その時、夏樹の部屋の扉がノックされる

「は~い、どうぞ~♪」

初音の幼さが残る高く澄んだ声が発せられる。

ガチャ!

扉が開き、現れたのは千博だった。

あの時意識を失って以来、能力が少し低下しているらしく少し身体が不自由な状態になっているのだとか…

「初音、黄泉世界に関することだが…やはり、風香学園の資料庫に黄泉世界に関係することが書いてあったよ」

千博の右脇に分厚い本があった。

それをテーブルを借りて置き、本を開く。

「ここを見てくれ」

千博が示したページの部分に指をさす。

そこにはこう書かれていた。

[843年11/24…風香学校を開校。当初は反対派の住民が多かった。なぜなら学校関係者の大多数が元暴力団関係とつながっているものだったからだ。我々はこの真実を闇に葬るわけには行かない。学校長でさえも転勤が決まるまでは何事も起こして欲しくなかったものだが、ある時生徒として転入してきた嵐史:梨依という女生徒。彼女は風香学校開校を最後まで反対していた反対はグループの代表、嵐史のご令嬢だった。]

分厚い1頁にギッシリと書き記された歴史の大まかな部分を初音は読み上げていく。

[もちろん暴力団関係者の者達には生徒である以上手出しは無用と宣告しておいたのだが、我慢できなかったものはやはりいたのだろう。宣告した翌日、その女生徒は帰宅していないということから、捜索隊を出してまで発見することとなったが、彼女は無残な死に方をしていたのだという。この事が公になる事はそう大きいことではなかったのだが、この事件によって嵐史家が我が校の学校関係者の過去をマスコミに促したことが、最も大きな問題を起こしたことだろう]

長い文章は、歴史の裏を事細かに書かれていた。

つまりあの女子生徒は、反対派という理由で学校関係者達に殺されたことになる。

この文献から察するに、嵐史:梨依という女生徒は黄泉世界の要である彼女の事だろう。

「彼女は反対派の代表、嵐史のご令嬢の様だが、どうもこの内容を見るに彼女自身は風香学校の開校に反対していなかったんじゃないだろうか?」

千博がそう言うと初音は顎に手を当てて考えた。

確かにこの内容からだと彼女は反対していたとは考えにくい。

反対しているのなら、彼女がこの学校に入学することはなかっただろうし、ご令嬢だというのだから、ほかのところにも行ける学費は充分あったはずだ。

それが暴力団関係とのいざこざに巻き込まれ死亡してしまった。

となれば、その無念を晴らすために怨霊となって風香学園を呪っても仕方がないことだろう。

「だから彼女は、生徒を連れ去っていた…ヒドイ話ね」

初音は彼女の無念も相当なものだが、その彼女が起こしたことを許さないという意味で同情する気はなかった。

結局彼女は、自らが発して怨念によって、無関係の生徒まで巻き込んでしまっているのだから。

同情の余地などそもそもないのだろう。

ともあれ、黄泉世界との関係はこれで消えた。

もう彼女が支配に溺れることはないはずだ。

「学園長に問いただしてみたが、やはりこの件は知っていたよ。真実を伝えるか迷っている様な素振りだったので何発か入れておいた」

千博の拳が先程からわずかに晴れているようにも見えるのはそれだった。

「え?殴ったの?」

初音が驚きに目を見開くが、

「壁に思い切り入れただけだ。でなければ俺の腕がこんなに腫れることはないだろうが!」

千博は落ち着けといった様子で、初音に掌を見せた。

それを聞いた初音は一旦席に着くが、先程から千博の使用人が見えないことに気がついた。

「あれ?そういえば、善之君は?」

「ん?あいつは…いや、お前には関係のないことだ」

言いかけて止めるなんて千博らしくないわざとらしいウソだった。

「言いかけてやめるなんてひどくない?」

「これは冬木の家の事だからな、俺もお前も首を突っ込む必要はない」

千博がそんなことを言うとは思わなかったが、言葉の終わりと共にその瞳が物悲しい雰囲気であることを初音は悟った。

千博は事前に聞かされていたが…それを初音に言わなかったのは正解とも言えることだった。

「千博様、今日は冬木の実家に趣いて来ます」

善之は真剣な表情をしていた。

おそらく、実家に相当な用事があるのだろう。

表情だけでそれを読むと千博は軽くお召し物を用意させ善之を冬木家に行かせた。

今まで、あんな表情は見れなかったために少し驚いたが、あれが本当の善之なのかもしれない。

(今頃は冬木の家にたどり着いているだろう)

夏樹の部屋で、熱中して歴史資料を見続ける初音を余所に、黄昏る千博だった。


冬木の家/大屋敷

千博の言うとおり善之は桜木町を南下した所にある第二の町、桜樹町の町長、冬木の実家を訪れていた。

元々冬木の家は和を志す家で和の心を忘れてはならないのが決まりだった。

千博のお召し物というのは、着物を引き出してもらった事だった。

普段の執事服で訪れたとあっては打ち首、切腹は軽いと言っても良いほど和に厳格だった。

大屋敷の門をくぐり和室廊下を抜けて、現町長である冬木:斗禰を尋ねる。

「大婆様、善之です」

善之は背を向けている斗禰に軽くお辞儀をし正座する。

124年ぶりに帰ってきたものだが大婆様、斗禰の後ろ姿は愚か何も代わり映えはしなかった。

「久しゅうじゃな…何しに戻ってきた?」

向き帰り、その面持を伺う。

シワは前より増えた気がする。

「善久様を覚えていらっしゃるでしょうか?」

善之の口からその言葉が零れた途端、斗禰の表情が変わった。

「あやつを…知っておるのか、面も拝んだ事もないお前に?」

「先日、悪霊となって襲って来ました。その時善久様は冬木の家は神月のスパイだと申していまして…」

斗禰が一瞬で立ち上がり、塚薙刀を手にする。

その怒りの矛先を善之に向け、

「お主に何がわかるというのじゃ!生まれた間もない時期に死んだ戯けなど…」

「大婆様…私は千博様のスパイなど望んではいないのです。どうか真実だけでも話してもらえないでしょうか?」

善之は薙刀の刃が触れる勢いで、頭を下げる。

僅かに刃が額に入ったが、動じる様子もない。

血を滴らせている事を気に止めず、善之は頭を下げ続けた。

その余りの善之の迫力に斗禰は少々動じる。

そして…

薙刀を塚に戻し斗禰は正座をする。

「ふう…善之、顔を上げなさい」

斗禰の指示に従い善之が顔を上げると、ど真ん中をすっぱりと切れた額からは血が滴っていた。

それを気付いていたのか、斗禰は大きめの絆創膏を貼ったあとで包帯を巻いてあげた。

「お前は知らない方が楽になれると思っていたのじゃが、どうやら隠しだてすれば、それだけお前が傷ついてしまうようじゃの…」

善之が来た時から用意されていたお茶を啜る。

湯呑を置くと、斗禰はすうっと一度深呼吸をする。

「善久は元々神月の家に着く予定じゃった。それがあやつは突然海外赴任をすると言いだしたのじゃよ」

斗禰から驚くべき真実が明かされる。

「あやつは神月家の掟から逃げたのじゃよ。自らを守るためにな…」

斗禰の話によれば、善久は海外で死亡したという話だ。

現地の人達からの報告によると海外で量産されている薬の高度開発の試用副作用によって死亡したと伝えられた。

しかし実際は海外の覚醒生物実験機関でモルモットにされ死亡したのだという。

元々実験行為自体が無謀なものであるため、覚醒生物の実験が失敗したと聞かされたついでに行為そのものが処分される道だということも教えられたのだろう。

それによって善久は暴走し結局は処分という形にされた。

その怨念があのような形となって黄泉校に吸収されたというわけだ。

海外ではとんでもない実験が行われている。

それを斗禰には知ってもらいたいと善之はここを訪れた。

善久がどのような被害に遭い、どんな思いで死んだのか斗禰に伝えることができればそれでよかったのだ。

その後、善之は冬木の家を後にし桜樹町を去った。

善之の兄、善久は決して、スパイとしての本心を持ちたくなかった。

それが理由で冬木の家を出たのだろう。

今となっては真実は何も分かりはしないが善久の思いは、きっと善之もわかってくれると信じて、あの場で戦ったのだと…

帰省する善之は手帳に慕う兄の姿を書き記したのだった。

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