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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
1章 学園に潜む悪霊
13/58

1-12 崩落する明校

ガチャン!

階段へと通じる扉が開いた。

そこから二人の仲間達が現れる。

「初音、大丈夫か?」

千博が善之に肩を貸していた。

善之の左肩には包帯が巻かれており血に滲んでいた。

そんな二人だったが倒れている夏樹を見て驚く

「夏樹は、夏樹は無事なのか!?」

「うん、大丈夫少し左頬の骨が折れてるけど、何とかなると思う」

「そ、そうか…」

千博は安堵の息を漏らした。

まさか、闘神化した彼女が初音の願いを聞き入れ、大人しく去っていった…

そんなことは絶対にありえないと千博は確信していた。

しかし先程まで初音のプネウマが恐ろしく強大なものに変わっていることは千博にもわかっていた。

それが突如として急に消えた。

そして、目の前の二人はどちらも命に別状はない。

だとすれば、二人はお互いで止め合うことができたのだろうか?

しかし、そうだとして、夏樹がなぜ倒れているのか?それが千博にはわからなかった。

(深く考えるのはやめておくか…)

言いにくいことの一つや二つ、初音にだってある。

なんてたって女の子だ。

詮索するのはよくない。

ゴゴゴゴゴゴゴ…

物思いにふけっていると、突然黄泉校全体が揺れ始めた。

「な、なんだ!?」

「建物が崩れ始めている!?いや、これは…この世界の最後だわ」

千博の問いに初音はそう答えた。

女子生徒を葬ったことによって、この世界を安定させる柱がなくなったのだろう。

その結果、黄泉校は愚か、この黄泉の世界という幻想が今消えようとしていた。

「ここにいてはまずいわ、早く逃げましょう」

夏樹をかかえた初音は、できるだけ負担を掛からないように移動を始めた。

「逃げるといっても、どこに逃げるんだ?この世界からの脱出を優先したほうが…」

千博が最後まで言い終わる前に、初音は千博に向かって言った。

「私、ここの脱出の仕方、覚えてないんだ」

彼女ははっきりとそう言った。

それを聞いた千博は、初音の背中が見えるところで、大きなため息をついた。

そしてそっと、一人でつぶやく

「困ったお嬢だ、全く…」

階段へと消えていく初音を、ただ見届けるのだった。


黄泉校3F/階段前廊下

ようやく3Fまで降りることができた4人に驚くべき光景が広がっていた。

「な!これは?」

「地形が変わってる…?」

千博はともかく、初音まで驚いていた。

地形が変わっている、というよりは、進行上に黒く輝く水晶石が、まるで植物の様に伸び進行上普通に通れる廊下が、進行不可能になってしまっていた。

「もし千博の言うことが正しいのなら、本当にそうなのかもね…」

「おそらくハズレではないな脱出の手段が無い以上、頼ってみても問題はないだろう」

先程、初音は千博にある紙を見せられた。

その紙には、黄泉校に侵入することができるとされる条件のようなものが書かれていた。

『星の澄渡る時。黄泉の門は上階に開かれん』

これは千博が資料庫で見つけた黄泉校に入るための条件としてちぎった切れ端だ。

そして、今現在の時刻は26:45

新聞屋さんのお勤め…もそうだが、星が澄み渡るには十分な時間だ。

更に、このメモに書かれている『上階』というのは、3階の事を指しているのだろう。

なぜならば、黄泉の世界が最初に開いたのは2階からだった。

そこから徐々に範囲を広げていき、今は校舎全体が黄泉の世界に沈んでしまっている。

つまり黄泉校というのは、2階が1階、3階が2階といった感じで、元々3階建ての構造だったのだろう。

そして、この空間の創始者、あの女子生徒の力によって1階も支配下となった。

そう考えるしかないのだ。

1階まで、降りてみた4人は、床がないことをたった今知ることとなったから。

「現代の学園は3階に空き教室があったはずだ。本来あの教室が空き教室になったのは、過去に1人の生徒が死亡した事件があったからでもある。まずはそこに行ってみようじゃないか!」

千博に肩を貸しながら初音に向かってそう言う。

今の黄泉校は、成長する黒水晶の影響もあって、非常に入り組んだ校舎とかしている。

黄泉校の構造は風香学園の校舎と殆ど同じ作りで、階層だけが一つ足りないだけの様だ。

校舎は逆T字型の北側構造、西側は付属校舎、北側に本校の校舎、東側が特別教室棟といった形になっている。

千博の勘が正しければ特別教室棟に脱出する条件が整った場所、空き教室があるはずだ。

それまで、何事もなく進めれば良いのだが…意外にも、その願いを聞き入れない運命は早くも起こった。


黄泉校2F/迷路と化した廊下

初音と千博がようやく、本校校舎の2Fに移れたとき、目の前には障害物の黒水晶と無数の人影が見えた。

「こんな時に…!!」

千博はライトもまともにつかない薄暗さで見えなかったが、初音にはハッキリと見えた。

某ゲームでは名物と化し、今では様々なゲームにも見られるようになった者。

人の姿をしているが知能は著しく低下し、ただ本能に従うだけの獣。

「ゾンビ…だと!?」

千博にもそれがわかったとき、驚かずにはいられなかった。

おそらく今までに黄泉世界に取り込まれた風香学園の生徒が怨念によって死体となってもその身を安置させていたが、黄泉世界の要である女子生徒がいなくなった今、呪力で凍結した身体は解凍し、本能に動かされる獣となってしまったのだろう。

「くっ!善之歩けるか?」

千博は切羽詰っている中で、善之に語りかける。

「はい、大丈夫です。千博様」

「悪いな、初音突破口を開く!お前は善之と、先にいけ!!俺もあとから向かう!」

少し先を行く初音に言うと、返事が聞こえてきた。

善之にも今の言葉を理解してもらい、傷ついた肩に手をやりながら、ゆっくりと先に向かっていく。

あんなに遅い足取りでは、いくらゾンビといえども追いつかれてしまうのだろうが、そこに千博が仁王立ちする。

「さあ俺が相手だ。ここから先は行かせん!」

黒水晶の障害物もあってか一方通行になっている廊下に千博がいれば、進行することはできない。

バキッ!

トロトロと歩き向かってくるゾンビを千博は蹴り上げていく。

初音達がこれで無事に現代に戻れればいいのだが…。

油断している場合ではないのだが、真っ向からしか向かってこないゾンビに千博は油断大敵であっても十分に戦えていた。

一方、善之は初音と合流し特別教室棟の校舎まで何事もなく来れた。

後は空き教室を探すだけだが、どうやら一番奥の教室がそれのようだった。

しかし、ここから先は千博がいない状況だ。

この状態でゾンビに襲われれば手出しできない。

なんとか一刻も早く、向かわなければ!

しかし、焦れば傷の重い善之の移動に支障をきたしかねない。

全てが最悪の状況なのだった。

そして二度ある事は三度あるというおきまりで、

うがあぁ…

ゾンビはこの特別教室等にも多く潜んでいた。

最悪の刻だ。

ここで、3人は絶命してしまうのだろうか?

またしても闘神が初音を支配し今度こそ全てが終わってしまうのだというのか?

絶望に浸る初音を、見聞きさせたのは、群がるゾンビの中から聞こえて来る斬音。

それは次々と多くなっていき、更にはこちらに近づいてきていた。

「な、何?何なの?」

そして、何かが初音達の目の前にいるゾンビを倒した時。

修道服を着た少年が現れた。

「初音ちゃん、大丈夫かい?」

全身返り血によってその修道服は真っ赤に染まっていた。

「くろは?」

「どうやら、目的は達成したようだね。善之君のその傷と夏樹君を見れば状況は理解できるよ。さあ急ごう!脱出する方法はこの先にあるよ」

黒葉の指示の元、初音と善之は、特別教室棟最奥にある空き教室、視聴覚室に入った。

3人が視聴覚室に足を踏み入れた時、そこには倒れている千博もいた。

「千博様!」

善之が左肩に傷があるのを忘れて颯爽とその横たわる千博に近づく。

それを見た黒葉は、

「ゾンビの群れと戦っている中で、腐臭の香りに意識を失ったみたいだよ。ここのゾンビ達はおそらく、何百年以上もの間、冷凍保存をせずに放置していたんだろうね」

そう説明した。

「ともかく、今は早く現代に戻りましょう?ここにいては私達は…」

初音の言葉が終わる事もなく、突如視聴覚室の中で何かが起こった。

それは何とも言えないような不思議な感覚。

強いて言うのならこれが現代の光の優しさ、といったところなのだろうか?

しかし光は優しいのになぜか揺籃とは思えない悪意を感じる眠気に“4人”は襲われた。


黄泉校は依然として崩れ続け最後は瓦礫の山となって、世界の幕を閉じた。

初音、夏樹、千博、善之の最初の戦いはこうして終わったのだった。

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