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吾輩的には、偶然に悪いことが重なっただけだと思うのだが、人はそうとは受け取らないらしい。何か原因となるものを求めたくなるらしく、それが今回は吾輩だったと言うことだ。
人というものは、思い込みからときどき突拍子もない事を言い出す。吾輩を焼いて処分しようなどと、いわれもない悪評を押し付けたうえに、責任転嫁した人間を許せなかったから、ちょっとばかし悪い気を付けてやった。そしたら、人間たちが急に態度を変えて、吾輩を敬いはじめた。
まあ、吾輩はこの時、相当ぐれていた。やさぐれていた。あのご令嬢の子孫を守れなかった悔しさで、周りが見えなくなっていたのだ。吾輩、目はないけど。
吾輩を丁寧に扱いだして、いまだに血がこびりついていた吾輩を丹念に磨き上げた人間たちが、悲鳴を上げた。“いけめん”なタンスと評判の吾輩を見て悲鳴を上げるとは失礼な、と思っていたら、どうも違うらしい。長く血を被っていたせいで、色が吾輩にうつってしまい、人の顔に見えたのだそうだ。それも恨めしそうな顔つきの、とびきり怖い霊の顔に。
吾輩、どう“こめんと”したものか、困り果ててしまったが、人の思い込みとはそんなものだと、寛容な心で許してやることにする。
しばらくは小さな寺に置いておかれた吾輩であるが、外に出ていて無事だったというあの家の生き残りが、我を迎えにきた。驚いたことに、娘の放つ気が、あのご令嬢にそっくりであった。吾輩は人の顔の区別はできないが、もし、ご令嬢のことを知る人間が娘を見たなら、“くりそつ”であると驚いたのかもしれないが。
娘は、家の財産を使って神社を建てた。こじんまりとした神社ではあるが、此度の騒動で死んだ人間たちと、家人たちの怨霊を鎮めるためのものであるそうだ。吾輩は、なんと、その神社のご神体として祀られておる。タンスの道を究めたと思っていたが、そうではなかったのだ。まだまだ先はあったのだ。
一家の「守り神」であった吾輩は、自らの住処を得て、タンスの新境地を開いてしまった。どれだけすごいのだろう、吾輩は。まあ、悪い気はしないので、娘にはとびきり良い気を付けてやることにした。吾輩、太っ腹でもあるので、神社に参拝に来た者にも、ほんの細やかな気を分けてやった。
近所でも評判の神社となったわが城は、いつも賑やかで、客足が途絶えない。やはり吾輩、収納の達人でもあるが、見た目にも相当気を使っているので、多くの人間に見られるのは嬉しく思う。
人間たちよ。もっと吾輩の美しさを褒め称えてもよいのだぞ。胸を張って、でーんと構えている様子も様になる。吾輩、胸はないけど。ひきだしの多さも自慢の一つであるというのに、そこはあまり見てもらえないのだ。
人間を魅了せずにはいられない吾輩は、罪なタンスであると思っていたのだが、どうやら見物客は吾輩の木目ではなく、血の模様を見に来ていたらしい。鬱だ。燃えてしまいたい。




