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67話

「ええ、小川さん。私の新しい店は、以前のように本で壁を作るのではなく、この窓を生かして、外からでも本が見える『開かれた知識の窓』にします。黄昏文庫は、もう過去に引きこもらない」


佐藤は、設計図を広げながら言った。彼は、古書と古記録の山に埋もれる生活から一転し、建設業者や行政と積極的に交渉する「実務家」へと変貌していた。かつては役所からの封書を開封さえしなかった男が、今は自ら役所に足を運び、街の景観条例や安全基準について熱心に意見を戦わせている。彼の小脇に抱えられた厚い図面の束は、もはや過去を封じ込めるための地図ではなく、新しい街の風を招き入れるための設計図となっていた。


彼は、鈴木宗一郎から託された汚職の記録のコピーを、新しい店の金庫に厳重に保管し、この街の未来の公正さを見守る「監視役」という新しい役割を静かに引き受けていた。その金庫は、店舗の最も深い場所に鎮座している。それは誰かを攻撃するための武器ではなく、二度と街が不正の闇に飲み込まれないための沈黙の楔として、佐藤の手によって管理されていた。記録の管理人としての誇りが、彼の背筋を以前よりも真っ直ぐに伸ばしていた。


一方、オリエント・スクエアは、すでにほとんどのテナントが退去し、閑散としていた。


強制解体は免れたものの、老朽化による市の取り壊し決定は覆らなかった。建物の周囲は鉄柵で囲まれ、取り壊しまでのカウントダウンを示す看板が立てられていた。賑やかだったリセッタのキッチンも、今は冷たいコンクリートの静寂に沈んでいる。隙間風が空っぽの廊下を通り抜け、かつてそこにあった人々の笑い声や、美咲のミシンの音、佐藤がページをめくる音を、記憶の彼方へとさらっていくようだった。


大家の鈴木宗一郎は、毎日のように取り壊しを待つビルを遠巻きに眺めに来ていた。彼は、倒れる前とは打って変わって穏やかな表情をしていた。ビル自体は失われるが、そこで生まれた人々の物語と、託した記録は、新しい世代に引き継がれたことを知っていたからだ。剥がれかけた外壁を見つめる彼の瞳には、悲しみではなく、一つの大役を終えた後の清々しさがあった。器としての建物は形を失っても、その中で育まれた魂は、今や新しい場所で芽吹こうとしている。


「ありがとうな、オリエント・スクエア。お前は、たくさんの光を運んでくれた」


鈴木は、ビルに最後の別れを告げた。

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