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45話

「じゃあ、私たちはどうすればいいんだ佐藤さん!」


重苦しい沈黙を破り、誰かが絞り出すように叫んだ。その問いは、集まった全員の不安を代弁していた。


佐藤は、ゆっくりと眼鏡を指で押し上げ、正面を見据えた。その瞳には、これまで周囲を突き放していた冷徹な観察者の色はなく、力強く、そして初めて「古書店主」としてではなく「コミュニティの一員」としての覚悟が宿っていた。


「抵抗する。このビルが非合法な手段で破壊されることを、物理的に阻止する。法が機能するまでの時間を、自分たちの手で稼ぐんです。今夜、皆でこのビルを守り抜く『最後の夜の籠城』をするしかありません」


佐藤の言葉は、静かだが鋭い刃のように人々の迷いを断ち切った。籠城という古風で過激な響きに一瞬、場は静まり返ったが、誰の目にも絶望ではない別の色が灯り始めていた。


葵は、佐藤の決意に合わせ、力強く皆を見渡した。リセッタのカウンターを両手でしっかりと掴み、彼女は父が守り抜いてきた場所の魂を代弁するように声を張った。


「私たちは、ただのテナントじゃない。このビルで人生を営み、喜びも悲しみも分かち合ってきた『生きた歴史』です! 阿部議員が壊そうとしているのはコンクリートの壁じゃない、私たちの誇りそのものです。今夜、ここを守り抜きましょう。私たちの魂を、阿部議員のエゴに売り渡してはならない!」


葵の言葉が、最後の一押しとなった。一人、また一人と拳を握り、頷き合う。


住民たちは、胸を支配していた恐怖を乗り越え、自分たちの居場所を守るための最後の闘いを決意した。指示を待つまでもなく、彼らは自発的に動き始めた。


リセッタの重い木製の椅子やテーブルが運ばれ、正面玄関の扉を塞ぐために積み上げられていく。「メルティ」からは頑丈な衣料用ラックやデッドストックの入った重い木箱が運び出され、裏手の通用口を固めるための強固なバリケードとなった。鈴木宗一郎が大切にしていた骨董品や、かつての繊維街の誇りであった古い織機までもが、侵入者を阻む盾として配置された。


「これをここに!」「こっちの隙間も塞げ!」


互いに声を掛け合い、家具を動かす激しい音が夜の廊下に反響する。かつてこのビルが工場として稼働していた頃のような、泥臭くも力強い活気がそこにはあった。


夜明けまであと数時間。東の空が白み始める頃には、阿部の差し向けた重機がやってくるだろう。しかし、オリエント・スクエアの窓から漏れる灯は、消えゆく前の余光などではなく、理不尽な暴力に抗う最後の抵抗の炎となって、深く暗い夜の底で静かに、しかし激しく燃え上がっていた。

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