こそこそ話は少し楽しい
一日釣りで時間を潰したが、やはり船旅は少しずつ飽きが出てくる。
現在、ファネとエスノアは同じベッドの上に向かい合って座っていた。防音性が高いこの空間なら、ファネはフードを被らずにおしゃべりができる。
尚、ハクはどういうわけかパンドライアに誘われて彼の部屋に行っていた。一体どうしたのだろうか。
「お姉様、この魔法は?」
「これは水を紐状にする魔法。こういう海の上なら、大量に縛れる魔法になるね」
さて、二人ともハクのことを脳裏で心配しつつも、ハクなら大丈夫だと納得して、勉強会をしていた。
ファネが魔法を使えるようにならないかという、エスノアの特別魔法勉強会である。
「こ、こうかな」
「魔力の流れをもっと鋭く。こう、この腕のあたりから手のひらにかけてを高速で動かすイメージで」
エスノアの教えは非常に優秀。ファネの体を所々触りながら、魔力の流れや魔法の構築の理論を、ファネの頭と体に教え込んでいく。
エスノアが最初に教えることにした魔法は水の魔法。凝魔術が魔力や血液を固めるというのだから、同じように流体を扱う魔法は分かりやすいだろうと考えたからだ。
旅の道中や街の宿でも定期的にこの勉強会は行われていたが、今のところ大きな進捗はない。
「うーん、わかんないよー」
「魔力の流れは間違ってないんだけどなぁ」
残念ながら、ファネに魔法の才能がないと言い切れるほどに、進捗がない。本当に、進捗がないのだ。
エスノアの教えが悪いということではない。少なくとも、ハクが同じ授業を受ければ今頃好きなように水玉を出して遊べるくらいの魔法を覚えることができているだろう。
問題は、ファネの魔法に対する理解度の低さと、魔力への理解度の低さである。
ファネは凝魔術を天才的な技術で扱うことができる。そこまでの苦労もなく、自分の思うように魔力や血液を固めることができる。そのせいで、ファネの認識だと、魔力は固めるものであり、イメージとしては粘土が近い。
しかし、実際は違うのだ。この世界における魔力理論で言うならば、魔力はあくまで媒体であり仲介者だ。むしろ、凝魔術のような使い方は、この世界に生きる魔法使いたちからすると、目から鱗な使い方である。
そんな経緯があり、ファネとエスノアの魔力の認識に違いがあるのだ。だが、いかんせんファネの魔力の流し方や扱い方が上手なせいで、両者ともその違いに気が付けていないのである。
「むぅ、お父様は魔法が使えるのに」
「ハクさんはハクさんでおかしいんだけどね。プイさん、一体どんな教え方をしたんだろう……」
ハクは、子狐時代から使えた氷魔法と得意な変化魔法のほかに、火や土、水などの基礎的な魔法は何でも使えるのだ。
先ほど述べた通り、魔力というのは媒体でしかないものの、それぞれの魔法だとやはり発動方法が少々異なる。炎の大魔法使いと呼ばれるような者であっても、水魔法が一切使えないというのは珍しくもないのだ。
そこを、ハクは一人で様々な魔法を使うことができるので驚きである。ハクはプイにしか師事したことがないので、プイの育成方法が気になるところである。
尚、ハクはあまり印象に残っていないのだが、実際にはプイのほかにチベからも魔法を習っている。初級魔法はチベから教わっているのだ。ただ、変化魔法自体はプイからしか教わっていないせいで、どうしても印象が薄れてしまっている。
とはいえ、プイの指導は非常に優れており、傍で聞いていただけのチベの魔法の腕が上達するくらいには、優秀な教師であったと言えよう。
「ハクさん、あれくらいの魔法は獣人の村で普通だったって言ってたんだけど……」
「そんなの嘘だよ!お父様みたいなのがいっぱいいるの……?」
「多分、その村がおかしいんだと思う」
残念不正解。おかしいのはプイとハクだけである。
ハクは獣人の村で一週間、それだけで変化魔法と各属性の中級魔法までを覚えた。この期間で中級まで覚えるというのは、世間的に考えるなら最速タイムである。
通常、魔法を全く使えない者が魔法を使えるようになるには、初級だけで一年ほどの時間がかかる。そこに中級ともなると、さらに三年以上の時間がかかる。さらに前例が少ない変化魔法を習得するとなると、それだけで十年単位で必要になる。
ハクの、前世を踏まえたイメージと、種族特有の豊富な魔力、そしてプイの天才的な基礎教育。これらが組み合わさることにより、一週間という短い期間で魔法を習得することができるのだ。
そのため、もしエスノアがプイから魔法を教えてもらった場合、数日で上級魔法を習得できる。プイはプイでエスノアのオリジナル魔法を教わることで腕が上達する。
二人が組み合わさると……並の大魔法使いは余裕で圧倒できる。
「お父様は魔法教えられるのかな」
「どうだろう。ハクさん、使えるけど使わないみたいなの多いから」
エスノアが見たことがあるハクの魔法は、水、火、氷、変化くらいだ。
ハクが使わない理由は、エスノアが使った方が明らかにいいというだけである。いわゆる、餅は餅屋ということだ。
「ファネの、えっと、吸血鬼の方の父親って魔法を使ってた?」
「どうだろう。ファネはあまりあっちのお父様が活動してるとこを見てないから。もし見てたら、吸血の方法を覚えてたと思う」
「そっかぁ、魔法を使えない理由が吸血鬼の種族特有の可能性もあるかなって思ったんだけど」
「でも、前に旅の途中で出会った吸血鬼は魔法使ってこなかった?」
「確かに!じゃあやっぱり私の教え方が悪いのかな」
「そんなことない!ファネが悪いんだよ……」
「そんな、私の教え方が」
「ファネが」
「私が」
と、謎の言い争いが発生しそうになったところで、扉がコンコンと叩かれた。
『美味い魚が釣れた。時間もちょうどいいから昼にしよう』
「「は~い」」
ハクは甲板でゆったりと釣りをしていたらしい。パンドライアに呼ばれていたはずだが、いつの間にか終わっていたようだ。
「じゃあ行こうか」
「うん」
ファネがフードを被り、二人で外に出る。
言い争いになりそうになっても、いや、言い争いになったって、二人は仲良しなのだ。それはそう、本物の姉妹のように。
尚、ハクの後ろをついていくと、ニコニコのパンドライアが大きな魚を掲げていた。どうやら、ハクとパンドライアは釣り仲間として仲良くなったようだった。
パンドライア「その釣り竿は?」
ハク「自分のものさ。それなりに性能がいいやつのはずだ」
パ「よし、じゃあこれを貸してあげよう!」
ハ「たまには自分で使ったらどうだ?」
パ「じゃあ使ってみよう!」
そして釣れたのがあの大きい魚ってわけ




