化ける、化かす
プイと共に眠り、朝。
プイがハクに抱き着いて眠ったので、ハクは若干眠りにくそうにしていたが、プイはそれに気づくことがなかったので、ハクは睡眠の質が悪い。プイに無理やり抱き起されるまで、体を起こさなかったほどだ。
「おはよー、ハク。寝すぎは健康に悪いよ」
「キューン」
誰のせいだと、ハクは抗議する。しかし、その狐の言葉はプイには届かない。
朝もお粥だった。美味しいし、満足なのだけど、この子はお粥しか作れないのだろうかとハクは思う。昨日の夜ご飯もお粥だったので、もしかしたら料理という概念が希薄な世界なのかもしれない。
そうでもないと、プイの料理のセンスがとても悪いということになる。美味しいんだけど……美味しいんだけども……
「ご馳走様。食べ終わったら、お皿はそこに置いてていいからね。チベ姉を呼んでくる!」
こんな朝早くに行ったら迷惑なのではないかと思いつつ、今のハクにプイを止める力はないので、黙って見送る。
そうして朝ごはんを食べ終わる頃には、プイが戻ってきた。その後ろにはパンをモグモグしているチベがいる。どうやら、朝ごはんの途中で連れ出されたようだった。
「チベ姉、何か分かった?」
「んぐんっぐ…そうねぇ、試したいことは見つかったわぁ」
片手にパンを持ちながら、おっとりとそんなことを言うチベ。何やらハクは今からチベに実験台にされるらしい。何もなかったよりはマシだけども、自分が実験台になると思うと少し腰が引けてしまうハク。
プイはそこまで深刻に考えていないようで、チベの返答にニコニコしている。
「じゃあ私はお片付けするから、チベ姉ハクをお願い!」
「分かったわぁ」
先ほどまでハクが使っていた皿と大鍋をもって奥へと走っていったプイを横目に、ハクはチベに向き直った。
チベは片手を振りながら、持っていたパンを食べている。
「モグモグ……食べ終わるまで、待ってもらえるぅ?」
さもありなん。
……
チベの朝食を待ってから、外に出た。動きがゆっくりで、食べ終わるまでに十分ほどが経過していた。
「さてぇ、じゃあまずは化ける練習をしましょう」
「キュン?」
それは最終目標なのでは?とハクは疑問を呈するが、その言葉はチベには届かず、勝手に話が進んでいく。
「もしかしたら気が付いてないだけでできるかもしれないじゃない?だからやってみましょぉ」
そこまで言って、チベはハクを見つめるだけとなった。どうやら、本当にハクのポテンシャルに期待しているだけのようだ。
もしかして、チベの見つけてきたものってこういうのばかりなのでは……と、ハクは心配になるが、もしかしたらチベの方が正しい可能性もあるので、取り敢えず試してみることにした。
とはいえ、どうすればいいのかハクには検討がつかない。氷柱を打ち出すのと同じようなイメージでいいのだろうか。
この世界の魔法はイメージと相性が重要となる。ハクの親は、氷柱や火の玉のイメージのことを伝えたことはなく、ひたすらにただ「撃つもの」をイメージするように覚えていた。概念的だと、威力は落ちるが何かしら発動することが多いからだ。
他の兄弟はそれで火の玉が出たが、ハクは氷柱が出たので、そのあとはずっと氷柱をイメージして使ってきた。そのため、魔法にイメージが重要であることはなんとなくハクも理解していた。
体の中の魔力を昂らせる。イメージは、人間の姿。
自分の体が変化するなんて、人間だった頃も体験したことがないので、具体的なイメージができない。なんとなく、蛹が蝶になるようなイメージをする。
「わぁ、その調子よぉ」
チベが呑気に応援してくれるが、正直全然掴めていない。ハクにとって、初めてのことなのだ。
とはいえ、うまくいっていないということは分かる。魔力が垂れ流れるばかりで、形にならないのである。氷柱を作り出すときは、最終的に魔力は氷柱に集約されるのだけど、今回はどこにも集約せずに体から放出されている。
我慢と思考を繰り返して、四半刻。ハクはついに諦めた。
「あらぁ、いい感じだったわよぉ」
「キュン」
そんなことはないと抗議をする。もしかしたら、チベ自身あまり魔法を使っていないのかもしれない。
ともかく、最初の段階は失敗だ。ハクのポテンシャルというのは、そこまで天才的ではないということが分かっただけである。
「さて、じゃあ軽いことから始めましょうか」
まるで何事もなかったかのように、初級から始めようとするチベ。
ハクは、この人に任せていいのかと不安になりつつ、練習を開始した。