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狐、生きる  作者: nite
狐、目覚める

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人の姿になるということ、その意味

 ハクが村にやってきて、一週間が経過した。

 その間ハクはプイの家で生活し、獣の姿でありながらもできることを色々とした。流石に料理などは手伝うことができなかったが、村の農作業や魔法によるサポートなど、世話になっているだけの恩返しをハクは毎日やっていた。


 そして、今日。ついに【化け】が完成する。


「頑張ってー」


 プイが見守る中、ハクは自分自身の中の魔力を感じる。


 転機は数日前。村にやってきた商人が変身魔法を使える人だったのである。獣から人間になるようなものではなく、獣人が耳と尻尾を隠すための魔法ではあったが、その魔法はハクの技術を進歩させた。

 商人からの知識と、プイの持つ魔法理論を使って、ハクのための変身魔法をプイは生み出してくれたのである。この世界において魔法を生み出すなんてのは相当なものであり、それだけで教科書に載るレベルなのだが、悲しいかなプイもハクもそのことに気が付いていない。


「そうそう!魔力を練り上げてー」


 変身というが、実のところ新しい体を作り上げるに等しい。ハクが持つ特異な量の魔力を使わなければ、この魔法は発動することすら難しいだろう。

 一度発動してしまえば、もう一度魔法を使うまでは人の体をノーコストで維持できるので、それだけが救いだろうか。


「キュン!」


 練り上げた大量の魔力を消費し、ハクの体が白く淡くなる。

 そして、一瞬光ったと思うと、そこにはハクの人の姿……前世の姿に近いが、妙に容姿が端麗な青年が立っていた。

 獣人たちにもある獣耳と獣尻尾は健在。しかし、見た目は完全に元から人間であったかのような安定感を見せている。普通であれば、人の姿になった瞬間にバランスが取れずに転倒するのだが、やはりそこは元人間の意地ということか。


「……ハク?」

「ああ、そうだよ」


 心地よいバリトンの声。

 外見を少しだけよくした以外は、前世の姿をイメージしているので、声域は変わっていない。見た目も、顔をちょっと整形したような感じなので、ほとんど前世と同じ見た目をしている。


「なんか、ハクちょっとかっこいいね」

「それはどうも」

「でもなんか変かも」


 本来の顔ではない顔をイメージするのは、思っているよりも難しい。特に、鏡のないこの村では身体のパーツを正確にイメージして構築することができなかったのだ。

 そのため、まるで合成写真かのように、顔のパーツが微妙にずれていたりする。いわゆる、AI生成のような顔だ。


「ちゃんとイメージしなきゃだめだよ!」

「……わかったよ」


 ハクは諦めて、前世の自分を思い描くことにした。既に人になっているので、必要な魔力はそう多くはない。

 まるで変面師のように、顔の前に腕を持ってきて、一振り。顔のパーツは前世と同じ状態になった。人間工学に基づいたパーツレイアウトなので、これにはプイも満足げ。


 そも、元の顔も嫌悪感を齎すほどの醜悪なものではないのだ。一般的……いや、少し顔立ちがいい部類にも入るだろう。だというのにハクがわざわざ顔を変えたのは……もっと上の存在に少しだけ憧れたからである。


「ハクー!」


 プイがハクに抱き着いた。

 ハクの身長は百八十センチほど。対するプイは百三十センチほどしかない。傍から見れば、親子のようにも見えるだろう。


「白い尻尾だねぇ」

「どうにも、尻尾は残したほうが化けやすかったんだ。一応、もう少し魔力を使えば耳と尻尾も消せるけど……」

「そのままでいいよ!ふわふわだから!」


 プイはハクの尻尾をモフモフしている。プイによって毎日手入れされていた尻尾は、まるで高級クッションのように滑らかでフワフワになっている。

 寝る前に、ハクの尻尾に抱き着くのが、最近のプイのルーティーンと化していた。


「そういえば、何も違和感はない?」

「ないよ。特に欠損してるところもなさそうだ」

「そうじゃなくて、人型になって動きにくくない?」


 プイの疑問は最もだ。本来であれば四つ足で歩いている獣が、突然二本足で歩くことを強制されるのだ。普通であれば、バランスを崩し転倒してしまう。

 しかし、ハクは元人間。その場で足踏みをしたり、ジャンプをしたりして、何も問題がないことをプイにアピールする。


「ほえぇ、ハクって体幹強いんだねぇ」

「まあ、そういうことにしておくよ」


 流石の異世界でも、元々別世界で人間やっていたなんて話を易々と信じてもらえるとは思えないハクは、ひとまず偶々っていうことにしておいた。

 どうせ元人間であることのアドバンテージなんて、人間の姿でも支障なく活動できるくらいしかない。


「あ!じゃあハクも料理手伝えるね!」

「そうだね。私もやらせてもらおうかな」

「ちょうどお昼だし、一緒に作ろー!」


 どこまでも天真爛漫な少女は、大人となったハクを連れて炊事場へと向かう。

 プイにとってハクはペットのような感覚であるということは、ハクには伝わっていない。

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