九龍組 ~三池屋編~
前慶が三池屋に行った場合。
極龍組本部にて新龍組組長・赤坂の手紙を読んだ前慶はある組員を捜していた。
「おぅ、ここにいたか。ちょっくら顔を貸してくれぇ」
組員は気付いていない。まさか自分の事だと思っていないからだ。
「おめぇだよ、おめぇ」
指をさされた組員は自分のことを指さした。
「そうだよ、おめぇだよ。野水ぅ」
指名された野水(二十歳)は驚いた。
「これから三池屋に行くからよぉ、付いてきてくれぇ。行くぞぉ」
前慶は先に行ってしまう。野水は慌てて後を追いかけた。
夜には帯壺州の三池屋に着いた。野水は馬を繋いでいると前慶はさっさと店内に入った。着物を着た店主が出迎えた。
「これはこれは前慶殿、もう赤坂さんは上にいますよ」
二階を指さした。奥の階段を上がると二階に行ける。一階の席には誰もいないため貸し切りのようだ。
「おぅ、そうかぁ。…なんで俺のこと知ってんだぁ?」
「一度だけここに来た事があるでしょう? それにその帽子、覚えてますよ!」
「そうかぁ、じゃ俺もあんたを覚えとくぜぇ」
シルクハットを取って軽く挨拶すると奥の階段を上った。二階には部屋が三つある。一番奥の部屋のふすまが開いている。その部屋から赤坂が手招きしている。
「おぉ、やっと来たかこっちだ、こっち!」
「久しぶりだなぁ」
部屋に入ると新龍組の男が赤坂の後ろに立っていた。前慶はその男を知っている。男は深々と礼をしたので前慶もシルクハットを押さえながら会釈した。
「酒を入れる前に聞きたいんだけど、用事ってなにさ?」
「あぁ? 用事のことぁこっちが聞きてぇぜ」
「何言ってんのさ。そっちが呼んだろ?」
「いや、おめぇだろ?」
「ちょっと待て。この手紙見るさ」
前慶に手紙を渡した。
「用事があるから三池屋で会おう。前慶。俺からの手紙じゃねぇか」
「な? 寝ぼけてんじゃないの?」
「俺ぁ手紙なんて出してねぇぞ。これぇ見てみろぉ」
赤坂に自分の手紙を渡した。
「これからの事を話したい。三池屋で待っている。赤坂。…なにさ、これ?」
「それぁこっちが聞きてぇ。どうなってんだ?」
「あのぉ、もしかして…騙されているんじゃないですか?」
つい野水が口を出した。
「あるかもなぁ。しょうがねぇ一杯やるかぁ」
前慶は手酌で酒を注いだ。
「おいおい、騙されてるかもしれないさ。逃げるぜ」
「もう極龍組も作ったし、俺ぁ必要ねぇ。誰が騙したか気にならねぇか?」
「必要ないなんて! そんなこと――」
「確かにな、気にあるさ」
野水の言葉を遮って赤坂も手酌で注いだ。
「あ、赤坂殿まで…」
前慶はまぁまぁと野水に酒を渡した。そして乾杯となった。
極龍組と新龍組の話に花を咲かせて、しばらくすると深夜になっていた。前慶は肘を枕に横になって話しをしていた。
「酒を取ってきますね」
野水は酒を探しに下に下りると店主はいなかったが書置きがあった。
「…好きなように飲んでください。店は閉めて行きます、か…。いつからいなくなったんだ?」
適当な酒樽を探して、階段へ向うと店に覆面をした二人が入ってきた。
「おい、もう店は閉めてるぞ?」
返事は無い。
「何者だ!」
その瞬間、一人の覆面が太刀を振りかぶって斬りかかってくる。野水は酒樽で太刀を防いだ。
「敵だ! 敵が来たぞ!」
男は押し倒そうと力を込めた。野水は倒れまいと踏ん張る。そこにもう一人の打刀が腹を狙っている。
(くっ、これまでか…)
そう思った時、打刀は刺さらなかった。階段から飛んできた新龍組組員が、打刀の男に飛び蹴りをしたからだ。
「古川殿! 助かった!」
野水は一気に押し返し、男は野水から離れた。
「何者だ! こいつらは!」
「わからん! だが明らかに殺意がある!」
「おうおう、酒の席にこんな剣舞はいらねぇさ~」
酔っ払った赤坂が降りてきた。前慶も降りてくる。
「ったく~、なっちゃいねぇなぁ~。誰だぁおめぇらぁ?」
完全に酔っている。覆面二人は隙を狙っている。野水は前慶の前に移動して身を挺して守りに入った。
「組長! 危険です!」
その時、前慶は野水の頭をはたく。
「馬鹿やろぉ、太刀も持たねぇ奴がな~に言ってやがるぅ。ほらぁよ」
前慶の太刀を渡した。
「これは組長の…。すいません、借ります」
「傷つけんなよぉ~」
「え?」
「冗談だ。それを使うまでもねぇ。そろそろだぁ」
「そろそろ?」
野水が聞くと同時に店の扉が開く。
「こんばんはー、みんな来たよー。…あ、あれ?」
店内に入ってきた程子はこの状況に戸惑った。程子を押しのけて無理矢理入ってきた天嵬もこの状況に戸惑った。
「な、ちょうど来たぁ~」
ぞろぞろと九龍が集まり、さらに太和の天王である滝本も入ってきた。辺りを見回した滝本。
「これは一体、何をしている?」
ヘラヘラして答えない前慶に代わって赤坂が答える。
「何って見ればわかるじゃない。殺されかけてんのさ」
「笑い事か! かかれ!」
滝本の指示に織田島、丹野、南海、武古屋が覆面二人に飛びかかった。
「おぉ、見事だなぁ。武器が無くてもこれぐれぇできなぇとなぁ」
まじまじと見ていた。
「覆面を取れ!」
滝本の指示どおり覆面を取ると一同驚いた。それは園巻と寒田であった。
「最近、有権党内で見ないと思ったら、こんな事を企んでいたとはな。すまん、前慶。気がつかなかった」
堂紅奉が頭を下げた。
「気にすんなぁ。なかなか楽しかったぜぇ」
前慶の言葉に呆れる者も驚く者もすごいと尊敬する者とそれぞれいた
「その二人を捕らえておけ。明日、私がじきじきに問いただす」
園巻と寒田は腕を取られたまま店の外に出されると外には兵士が待機していた。天王の滝本が深夜に出歩かせるわけにはいかないためだ。
「よぉ~し、皆来たとこでぇ乾杯だぁ~!」
「それでは久しぶりに九品有権党の党首であるこの徐江が、この徐江が音頭をとりましょう!」
「じゃ正弦、頼むわぁ」
「ちょっと! 組長そりゃないっスよぉ~」
そんな徐江を無視して正弦が前に出た。
「皆様、お酒は持ちましたか? それでは僭越ながら私が音頭を取らせていただきます。…それではこの大陸の繁栄、そして組長と赤坂殿の安全を願って! 乾杯!」
「乾杯!」
乾杯が終わると野水が前慶に近付いた。
「どうして俺を連れてきたんですか?」
「おめぇぁ組の中でも酒に強ぇ。だから酒ぇ飲んだ時に襲われてもいいように連れてきたぁ」
「襲われる事を知っていたんですか?」
「俺ぁ極龍組の前慶だぁ。知らねぇことぁねぇ」
そう言って笑って見せた。
襲われた時に皆が集まったのは偶然ではなく前慶が呼んだためであり、三池屋に馬を使ったのに夜に到着したのはそのためだった。武士にも声をかけていたが滝本まで来るとは思わなかった。
後日、園巻と寒田の取調べがあり、二人は百年前の真国国民の子孫であるという共通点から、クーデターを起こして真国を作り出そうと考えていた。そのためには大陸の裏にいる極龍組と新龍組を倒せば国が崩壊すると思ったらしい。だが前慶はクーデターが起こる事を知っていた。しかし園巻と寒田がどこにいるのか分からなかったため、わざと罠にかかった。
クーデターの実行者・園巻と寒田は死刑を宣告された。この二人と手を組もうとしていた国があり、それは龍下国である。龍下国の不穏な動きは赤坂は知っていたが証拠も確証もなかったため、泳がしていたがまさか自分が狙われていたとは思っていなかった。
滝本の命令で調査が始まると、龍下国国主とその側近らがクーデターを企んでいたため、死刑となった。龍下国設立に携わっていた武古屋にも容疑はかけられたが、取り調べの末、無実が証明された。
こうして未然に事件を防ぐことができたため、大陸が再び戦乱に包まれずにすんだ。しかし、裏ではどんなことが行われているかわからない。極龍組と新龍組があるかぎり、大陸は平和かもしれない。




