大好きな人 -side サルビア-
サルビアの前世の誕生日話
ーー普通の家庭
嬉しそうに祝福する家族と
幸せな顔で笑う私
その隣で優しくて大好きだった彼が隣に居て
バースデーケーキのロウソクの火が灯る
そうだ、今日は私の誕生日だった
いや、正確には以前の私の誕生日なのだが‥
転生する前の私の最期の誕生日だった頃の夢
彼のことを親友として両親に紹介する為に呼んで
けれど両親は彼が元"女性"とは知らず
恋人と勘違いしたから私は両親に彼の事を伝えて‥
それでヒステリックになった二人に耐えれなくて
飛び出すように家に出て
私は、丁度、変わった信号を渡ろうとして
そして車に轢かれて死んだ
転生してから以前の夢なんて見なかったのに…
これは夢で、もしも、あの日
あの時
両親が、彼のことを受け入れてたら?
けれど私は彼を女性としか思えなかったけれど
[あんなのと関わるな!]なんて
父が言わなければ私は、どうなってたんだろう?
ーーーーーそう望んでいると私は再び夢を見た
実家のリビング
テーブルには誕生日ケーキが置いていて
両親が私に
「若菜!若菜!
どうしたのよーもう、今日は
貴女の誕生日なのよ?」
「そうだぞ、若菜
ボーッとして変だぞ
お前の友達も心配してるぞ」
そう私に言う
ーーこれは私の死ぬ前の誕生日会だ
ならば彼も居るはずだと
夢の中と理解して私は彼を探すと
「藤堂、大丈夫か?」
そう尋ねる大好きな人の声が聞こえ安心して
「あ、ごめん、父さんも母さん…」
そう答えて、彼の名を呼ぼうとしたけれど
何故か思い出せなくて
だから私は、彼の顔を見ようとして、気付いた
ーーこれは私が望んだ夢なのに
彼の名前も顔すらも思い出せない事を
「‥ごめんなさい」
「?何で謝るんだ、らしくないな…」
「ごめんなさい、ごめん、なさい…
私、‥私っ、貴方の名前も思い出せなくて
けれど貴方の事を本当に大好きだった
性別とか関係なくて‥貴方の事、大好きだったのに
もう名前も顔も思い出せなくなってるなんて
こんなの、こんなの私は嫌だ!!」
そう泣き叫ぶように告げると
私の見ている景色の中から両親は消え
もう顔すらも思い出せない彼の影と二人きりになる
「藤堂、ありがとう
でも大丈夫だよ、俺も藤堂が好きだ
だから、お前が忘れても俺が絶対に覚えてるから
藤堂は幸せになれ、そっちで
俺を忘れて幸せになってくれたら
それだけで俺は幸せだから」
「嫌なの‥いや‥いや‥よ
貴方を、忘れたくなかったのに
どうして思い出せないの?好きだったのに
私は……貴方と幸せになりたかったの
なのに、なのに…どう、して…?」
「俺の事は思い出さなくていいさ
俺は藤堂と出会えて幸せだったんだ
性別関係なく、俺も藤堂が好きだった
もう…忘れてもいい、そっちで幸せになれ
それが俺の望みだからな」
「……貴方は一度、言った事は
私が何を言っても意見を
聞いてくれなかったもんね
分かった、けれど私、貴方の顔も名前も
思い出せないけれど、それでも
貴方を好きだった事は忘れないから!」
「そうか…ありがとう…
誕生日、おめでとう藤堂
あと、俺を好きになってくれて
俺を …」
ーーーー私は夢から目を覚ました
最後に彼は[見つけてくれて]と
小さく呟いた気がした
見つけてくれて、か
私こそ、なんだけれど…
優しくて大好きだった彼の名前も顔も
もう思い出せないけれど
私は前を向き今を生きる
前世で大好きだった彼に良く似た優しい人を
私が好きになったから




