No.03 注釈
説明回です。
〈イレイザー〉。
二〇七三年に研究チーム〈クウォーク〉が発表した、原子爆弾以上の危険度を誇る兵器。
これが発表された瞬間、いや完成した瞬間、人の戦い方は変わった。
この話は、人類が核を土台として、反物質を安定して作り出せるようになったところから始まる。
反物質というのは、粒子加速器を用いて原子同士を衝突させて得られる物質だ。
その性質は反応する前の物質・反物質そのものが完全に失われ、消滅したそれらの質量に相当するエネルギーがそこに残る――
――つまり、この世に存在するものに触れると原子レベルで消し去ってしまい、同時に相応のエネルギーがその場に発生するというもの。
二十一世紀初頭の段階ではその得られる個数というのはごくごくわずかで、かつ得られるエネルギーの量が与えたエネルギーよりも下回るという(つまり割に合わない)状態であった。
しかし、科学者たちは反物質にとある物質を加えると、一時的に安定した存在になることを発見。
その途中経過を踏まえることで、反物質の得られる数の増加・安定させ、エネルギー獲得量を与えたエネルギー量とほぼ等しい程度にまで効率よくすることに成功した。
その科学者たちの中でも粒子加速器の縮小・簡略化、つまり反物質を従来に比べて簡単に生成できる装置を創るという偉業を成し遂げた科学者チームから名をとり、反物質生成装置は〈クウォーク〉と名付けられた。
反物質の存在が身近になったことで、人類の生活や戦争のやり方は変わった。
特に戦争面では、この物質の存在は驚異的なものとなった。
もし反物質をばらまいたらその国は文字通り消失し、逆に兵器と衝突したら(たとえそれが核であったとしても)すべて消し去ることができる――つまり現行人類の持っている兵器が全く効かない。
反物質は最強の矛であると同時に最強の盾でもある、矛盾しているようでしっかり筋が通った奇妙な存在として戦争ではとらえられた。
ここで、戦い方は原初に戻る。
もし仮に反物質をミサイルに搭載して発射した場合について考えてみよう。
反物質はミサイルの材料とも反応するから、標的に当てる寸前(とはいえ二十分程度はその状態を維持できるので実際は二十分前から)に生成されなくてはならない。
となるとほぼ必然的にミサイルにクウォークを搭載しなくてはならない。
クウォークは最新技術の固まりだ。おいそれと使いに捨てにできるものではないし、なにより反物質生成のために使っているエネルギー源は限界まで反応性を高めている核。
二十一世紀初めのころに比べればその核の安全装置の質はかなり向上して、ほぼ百パーセント安全になっている。
しかし、もしその安全装置が破壊されたら、反物質の反応を逃れて核が散布される可能性がある。
そんなリスクを背負うよりも、人が目的地まで運び確実に反応させた方が利口だ。
しかもこのとき、反物質で使用者の身体を包んでいれば、人とクウォークを対消滅から逃れさせることもできる。
要するに、反物質を人の身にまとわせ戦うのが一番効率が良い、ということだ。
このクウォークを搭載した兵器の開発はクウォークを発表した科学者チームが引き続き行い、クウォークの発表からわずか二年で完成した。
その結果、戦争は昔のように鎧を身にまとい、武器を手に取り戦うものへとかわった。
ただし、昔とは決定的に違う点が二つある。
一つは戦いの場が地上ではなく空中となったこと。
これは武器や鎧が地面についた時点で対消滅を起こしてしまうから。
もうひとつは戦いにかかる時間がかなり短くなったこと。
これは反物質の生成できる量に限界があるからだ。
このクウォークを搭載した武器・鎧は物質を消失させる能力からイレイザー、イレイザーをまとい戦う者はその圧倒的な攻撃力から竜騎士とよばれた。