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No.04 練習試合後

「ふぅっ」


 勝利を収め、身体の熱を逃がすように息をつく。


 場所はアリーナ控え室。シャワーを浴び終えた直後なので、私の今の服装は下着のみ、となっている。


 私は扇風機の前に座り、冷房のスイッチを入れようと手を伸ばす。


 が、この後すぐに学長室に向かわなくてはいけないことを思い出し、その手を止めた。


 しばらく涼むくらいの時間はあるだろう。


 そう考えて、高速回転している扇風機の羽根をぼぅっと見つめながら、練習試合に至るまでの経緯を思い返した。





 西暦二〇七六年九月一日午前一一時三十三分、まだ夏の暑さが抜けないことを痛感させてくれるお昼前、日本騎士育成学園の第二回入学式が終わった。


 新入生にはこれから授業選択に関する説明があるらしい。


 一年生が教室棟に移動している中、私はその流れに逆らう形で一人突っ立っていた。


 本当は人を探しているのだけど。


 見渡すようにして相手を探す。

 

 すると当然、いろんな新入生の顔が目にはいる。


 入学式を無事に終え、安堵の表情を浮かべている者。


 これからの日々に胸を膨らませ、興奮している様子の者。


 登校義務もないのに(この学園では入学式は一年生だけのイベントとなっている)登校している上級生――私のことだ――を物珍しげに眺め、通り過ぎていく者も見受けられた。


 私も含めて皆一様に、赤を基調とした騎士服に身を包んでいる。


 私も一年前は緊張していたなあ……と頭の片隅で思い出しながら、私は妹の姿を探し続ける。


 しばらくすると、彼女がひとり歩いているのを見つけた。


 かすかに嬉しそうにしているようにも見えるが、遠目に見ただけなので確信はできない。


 私は彼女に近づいて、声をかけた。


「ほのか」


「あ、お姉ちゃん」


 ほのかはこちらに気が付いたようだ。


 私のそばに彼女が来る。


 このとき私は、彼女が嬉しそうにしているのを確信した。


 ちょっぴり、眉が下がっている。


「ほのか、入学おめでとう」


 まず、会ったら最初に言ってあげようと思っていた言葉を口にする。


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」


 にこにこするほのか。


 こんなに感情を表に出すのは珍しいな、と思った。


「何かいいことでもあった?」


「うん。懐かしい友達に会った。しかも二人」


「あら、よかったじゃない。その子たちはどこに?」


 ほのかと一緒に歩いている子は見かけなかったけど……。


「お姉ちゃんに会うつもりだったから、先に教室に行ってもらった」


「そっか。……ふふっ」


 思わず微笑んでしまう。


 私に会いに来てくれたこともそうだけど、ほのかが友人に困るような事態がなくなったことがなにより嬉しかった。


「じゃあ早く行って、その子たちと合流しなさい。HRも始まるし、ね」


 私はそう言って、ほのかの頭を撫でる。


 正直、一緒について行ってその二人を見てみたい気持ちも多少ある。


 でも相手が固まってしまうかもしれないし、なにより上級生の私が新入生の教室に行くのは悪目立ちする。


 ほのかに迷惑をかけてしまうのは明白だ。ここはじっとしているのがいいだろう。


 それに同じ学園に通う身なのだ、明日にでも会えばいい。


 私は妹を促しながらそう自分に言い聞かせて、はやる気持ちを抑えこんだ。


「うん、わかった。またあとでね、お姉ちゃん」


「ええ、またあとで」


 ほのかはそう言って、他の一年生の中に混ざっていった。




 ……さて、私も行きますか。


 新入生には今日一日一杯使って、今後の武器選択などについての講義が行われる。


 そのときに、竜騎士を目指すモチベーションを上げるために、学園で唯一イレイザーを個人所有している私に、現役竜騎士との試合を新入生に見せてあげて欲しい、と学長に頼まれたのだ。


 その後、話したいことがあるから試合後に学長室に来るように、とも。


 私がイレイザーで戦っているのを見たら、ほのかはきっと驚くだろうな、と少し意地悪な気分になる。


 あ、でもその例の友人二人は私の戦う姿を見て、どんな印象を抱くんだろ?


 そんなことを考えながら、私は学園の隣にあるアリーナへと向かった。





 

 ――――コンコンコン。


 ドアを叩く音に、ハッと意識を戻される。 


「お姉ちゃん、いる?」


 続いてほのかの声が聞こえてきた。


「いるよー」


 私はそう言いながらドアのそばに寄り、ロックを外して開ける。


「もう終わったの? 意外と早――」


かったね、とは続けられなかった。


 ドアを開けて目にはいったのはほのかのほかに二人。


 きっと、午前中の話に出ていた二人の友達だろう。二人とも、真新しい騎士服に身を包んでいる。


 一人は女子。身長はほのかよりも一回り小さい。肩まで届くストレートの黒い髪に整った顔立ちで、黒っぽい瞳をしている。今は目を見開いて固まっているため、瞳がよく見える。


 そしてもう一人は男子。身長は私より高く、妙にくせのある茶色っぽい髪に、鳶色の瞳をしている。こちらも突然の状況変化について行けずに固まっているようだ。頬が赤みがかっている。


 そして、その二人の前にいる私は。






 相手をほのか一人だと思っていたため(ついさっきまで物思いにふけっていたこともある)に、下着の上にシャツ1枚だけ身に着けている状態だった。






 ――――――――――ッ!?


 ガッ ピシャ ガチャッ


 瞬間、控え室に引き返して自動ドアを荒々しく手で閉め、自動で鍵がかかる。


「ごっごめん、すぐ着替えてくるから!」


 半ばやけくそ気味に、後ろのドアに向かって叫ぶ。


 くぅうっ……不覚だった……っ。





「……優姫さん、相変わらずですね……」


「……久々でびっくりしたな……」


「お姉ちゃん、二人の前でもああだったの?」


「ええ、最初は驚いたけどね」


「俺もいつの間にか慣れてたな、あれ。……逆に懐かしい気持ちにさえなってきた」






 とりあえず騎士服を急いで収納石から展開・装着させる。


 収納石というのは、名前の通り物体を収納できる石のことだ。


 収納できる量はそれぞれで異なるが、そんなに珍しいものではなく、多くの人が持っている。


 ブラックホールで確認された原理を応用しているらしい。


 私が首にかけているルビーのような石がそれで、私のイレイザーはこれに収納している。


 余談だが、収納石の操作は、心感鉱を用いているため、念じるだけだ。


 黒騎士事件を背景に見つかった心感鉱は、今日いたるところで使用されていて、イレイザーにもかなりの量が搭載されている。


 より具体的には、クウォークの生成量の調節部分とか、技を発動させるときの情報伝達媒体部分とか。


 閑話休題。


 そして今度は刃をつぶしてある細身の剣、通称「誓いの剣」と呼ばれる騎士の証を示す剣を召還し、腰に装着。


 最後に純白の手袋を召還し、手にはめる。


 そして騎士服に乱れがないか確認し、未だに高鳴る鼓動をどうにか落ち着かせるために深呼吸を数回行う。


 すう、はあ。すう、はあ。


 ……よし、大丈夫。

 

 私は頬を上気させながら、意を決して、控え室を出た。





「あ、お姉ちゃん」


「優姫さん、どうもお久しぶりです」


「優姫、久しぶり。相変わらずのようで安心したよ」


 三人は私の姿を確認すると、すぐに声をかけてきた。


「あ、えっと……」


 先ほどの失態について謝るべく、私は声を漏らす。


 が……なんと言うべきか迷ってしまう。


 いきなり「さっき、下着姿で出ちゃってごめんね」と言ったら、相手が完全に固まってしまうこと請け合いだ。


 言うべき言葉を探しながら、顔がだんだん熱くなっていくのを感じる。


「ん? どうしたの?」


 と、ほのかのそんな声が聞こえた。他の二人も、ん? というような顔をしている。


 ……どうやら、さっきのことは無かったことにしてくれたようだ。ありがたい。


「……ありがとね」


 一応、気配りしてくれた三人にお礼を言う。


「どうしたの? お姉ちゃん」


「ふふっ、いえいえ」


「……?」


 ほのかと男子の二人はよくわかっていないような、女子一人はわかったような感じだ。


 ……自然に流されたってことかな、男子に……?


 ちょっぴり、自信がなくなる。


 そのおかげか、そこで冷静になって、ほのかの連れてきた二人の顔を見ることができた。


 さっきの口調からして知人のようだったけど、二人は初めて見る顔……だと思う。


「お姉ちゃん、この二人はね、お姉ちゃんが忘れちゃった頃に仲良くなった人たちだよ」


 私の様子を察してか、ほのかが教えてくれた。そうか、なるほど。


「自己紹介した方がいいですね。私は坂上さかがみ れいっていいます。呼び捨てで構いませんよ」


「あ、うん。ありがとうね」


 この女の子、玲はどうやら気がよく回るタイプのようだ。


 男子の方に目を向けると、


「あぁ、俺か。俺は坂上 かさね。優姫との仲だ、俺のことも重と呼び捨ててくれて構わない。……あれ、どうした?」


「……お姉ちゃん、顔が紅いよ?」


 男子、重が私の異変(?)に気付き、ほのかが覗き込んでくる。


 私はそのとき、顔をうつむけていた。


 原因は男子、重に名前を呼び捨てられたこと。


 彼は私のことを知っているのかもしれないが、私から見れば見ず知らずの男子なのだ。しかも、年下の。


 知って間もない年下の男子に名前を呼び捨てされるって。


 失礼だ! ‥‥という感想よりも先に、私はなんとも言い得ない気恥ずかしさを感じていた。


 この気恥ずかしさは耐えるしかないのかなぁ……?


 唯一察してくれそうな玲に、ちらっと目を向ける。


 彼女は一瞬で察してくれたようで……私に首を振って答えてくれた。


「とっところで!」


 私は話題をそらすために――落胆を悟られないようにするためでもあったが――三人に対して提案した。


「えっと、話の続きは学長室に向かいながらでいいかな? 私、学長に来るように言われてるんだ」


「あ、そうでした」


 ぽん、と手のひらを合わせながら玲が言う。


「私たちも呼ばれたんです。ついさっき、学長に言われまして。


 そこで折角ですから、優姫さんと一緒に行こうと思って、私たちここに来たんです」


「あ、そうだったの。じゃあ、行こうか」

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