No.22 告白
「……優姫? どうした?」
俺が「想いを口にすれば、心に形が与えられる」と言った後からずっと、優姫は黙りこくっていた。
その何か考えている姿は、鎧をまとっている今の状態では、うつむいているようにも見える。
『……ねえ、重』
優姫が突然、話しかけてくる。
「なんだ?」
『重は、さ。さっき、みんなを護りたいって……言ってたよね』
「……ああ」
さっきの誓いのことだ。
『そのみんなにはさ――――私も、入っているの?』
優姫は不安そうに、そう訊いてくる。
優姫は、なぜかはわからないが怖がっているようだ。
「……そりゃ、当たり前だろ」
だから俺は、恥ずかしくなりながらもちゃんと答える。
『……そっか』
優姫はうれしそうに、そう言った。
私は目をつむる。
そして、身体の感覚を鋭敏にする。
……身体が、熱い。
心はもっと、熱い。
当たり前だ――心は、身体の中にあるのだから。
私がいま熱く感じているのは、身体を動かしたとかそういう外的な作用のせいじゃなくって――――身体の中にある心が、身体よりずっと熱くて、私の身体を温めすぎてしまっているから。
その証拠に、ほら。
とくん、とくん、とくん、とくん。
心臓も、自分で聞こえてしまうくらいに、いつもよりずっと力強く脈打っている。
「……ふふっ」
笑ってしまう。
想いを口にしないと心の炎が出ないとか、そういうことを別にしても。
私はこんなにも――――重に想いを、伝えたがっている。
彼に大好きって、言いたくてたまらなくなっている。
ああ。ああ、ああ。
うれしくてたまらない。
こんなにも人を、好きになれたことに。
今にも心が――溢れてしまいそう。
……言ってしまおう。
恥ずかしいけれど。
断られたらどうしようって考えてしまうけれど。
でも、それ以上に私は――――この想いを抑えることなんて、できそうにない。
「重ーー」
そして、私は。
「大好き。大好きだよ」
その言葉を、口にした。
ゴォウッ
私が言葉を口にした瞬間、視界は紅に染め上がる。
身体を見下ろしてみると、私の身体は――鎧に比べてちょっぴり薄い、薄紅の炎に包まれていた。
いや、炎というと誤解があるかもしれない。
その先端は蛍の光のように、淡く大気を漂って、しばらくすると消えていく。
綺麗だ。
そこで私は、呆然と立ち尽くす白の騎士に気が付いた。
「……決着をつけよっか、重」
私は告白の恥ずかしさを胸の奥に無理やり押し込みながら、そう言う。
『…………』
「……重?」
『……あっ、え、な、なんだ、優姫』
「………………」
……重はものすごく、動揺しているようだ。
「重。君の誓いの力、存分に見せて。
私も、全力でいくから」
重を落ち着かせるために、言葉をかける。
『――――! ……わかった』
どうやら、効果はあったようだ。
それを確認しながら、私も神経を冷たく研ぎ澄ます。
「……『守転攻化』」
私は槍を形態変化させる。
全力をもってして、彼に私の強さを伝えるために。
私の想いの強さを、よく知ってもらうために。
『……いくぞ』
見ると、重は腰を落として、大剣を身体の横に添えていた。あの技の構えだ。
私も槍を構える。
再び、緊張をはらんだ空気。
沈黙が、空間を支配する。
でもそれも、しばらくのことだった。
『――――『黒刃一閃』ッ!』
「――――『螺旋凱槍』ッ!」
ガッキイイイイイイイン!
次の瞬間、私の槍と重の大剣がぶつかりあった。
ゴオッ!
衝突時に増大した、空気の消滅反応が起こした強い風で、私と重の兜は互いの後方へと吹っ飛んでいってしまう。
それを受け入れてしまえるほどに、その衝突は激しかった。
私の『螺旋凱槍』は、今までとは段違いにパワーアップしていた。
槍やシールドのおびている紅色が明らかに濃ゆく、その回転する速さも速い。
そして、重の高速で振られた剣の威力も、黒化時のそれに比べてさらに高くなっている。
「らああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああああああああ!」
「やあああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」
力での押しあい。
あまりの力の強さに、接合点では花火と見まがうほどの火花が散っている。
「ぐ……あぁぁぁああああああああああああああ!」
「くっ……やあああああぁぁぁぁああああああ!」
押しあいは加速的に激しくなっていく。
ピシッ
でも決着は、唐突に訪れる。
ーーーーいつかのような、音が聞こえた。
バッキイイィィィン!
「「…………っ…………!?」」
互いの想いの強さに耐えきれなくて。
――重の大剣は、真中でへし折れ。
――私の槍は、縦に真っ二つに割れた。
最初の方なんですが、あえて優姫の心情シーンをカットしました。
ここは書いちゃダメかな、やっぱり……と思いましたので。
べ、別に上手く書けなかったとかじゃないデスヨー




