表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

No.21 誓い

『優姫』


 私がHPを確認していると、重から無線が入った。


「どうしたの? 重」


『そろそろ、決着をつけよう』


「え?」


 私のHPは今見て確認したとおり、あと四割しかない。重も似たようなものだろう。


 でも、あと一撃二撃で終わるようなものではない。十分打ち合いできるくらいだ。


『いくぞ――――』


 その時、無線からまた重の声が聞こえた。途方もなく、集中しているような声が。


 見ると、重は大剣を胸の前に掲げ、天にその剣先を向けている。


 まるで、騎士が何かを誓うときのように。


 そのぴりっと身の引き締まるような空気に私は思わず、彼の名前を呼ぶ。


「……重……?」







 これは、俺のただの自己満足なのかもしれない。


 俺のせいで泣いている人たちから、目をそむけてしまう行為なのかもしれない。


 でも。


 でも、俺は。


 自分の意思で、剣を握りたい。


 義務や罪悪感じゃなくて、俺がそう願って――騎士でありたい。


 ――――『謝ったりしちゃ、だめだよ』――――


 ――――『ありがとうって伝えなきゃ』――――


 優姫がそう、言ってくれたように。


「ごめんなさい」じゃなくて、「ありがとう」を言えるように。


 俺は目を瞑る。


 思い出せ、『はじまりの心』を。


 俺が最初に、願ったことを。




 泣き虫で弱虫の俺は、痛いことが大嫌いだった。


 傷付けられるのが、怖かった。


 でもそれ以上に――――誰かが傷付くのが嫌だった。


 だって俺は、傷付く痛みを誰よりもよく知っているから。


 例えるなら、玲が傷付くくらいだったら、俺が代わりになってやる、といった風に。


 だから、弱虫な俺でも傷付かないで他人を護れるような――『ものを消す能力のある鎧』を思いついたのだ。


 今考えれば、おかしなことだ。その理論で言うなら、護りたい人全員にそれを着てもらえばいい。


 子供らしい俺の短絡的な考えに、少し笑ってしまう。


 でも、その想いが――――紛れもない『はじまりの心』だ。





 さあ、はじめよう。





 俺は顔を思い浮かべる。


 クウォークの研究者のみんな。


 父さん。母さん。玲。


 優姫の親父さん。優姫のおふくろさん。ほのか。


 そして――――


 俺は目を開いて、紅の騎士を見る。


 その兜の下にあるであろう顔――――優姫。


「俺は――」


 想い描くは純白――絶対の『白』。


 俺は『覚悟』を口にする。


「――みんなを護る、騎士になる!」









 重が『誓い』を口にした直後、私はただただ目を見開いていた。





 その光景は、凄絶せいぜつの一言に尽きた。





 鎧の所々で白の濃さが増していき、それはまわりにも広がっていく。


 まるで、波紋が広がっていくようだ。白はどんどん機体のくすんだ銀色を飲み込んでいき、ついには彼の甲冑すべてを純白に塗りつぶした。


 そこからさらに、彼が右手に掴んでいた少し大きめの片手剣にも、白は浸透していく。


 取っ手をすべて染め上げて、剣身に白が届くと、剣身はパカッと縦に割れた。


 その一方で、気付くと彼の身体は白い光に包まれていた。ふわふわと、それは大気中にしばらく漂っている。


 その光は彼の身体全体を包むと、剣の方にも移っていき、純白に染まった剣身に届く。


 すると、剣全体を包んでいた白い光は消え、代わりに元々の剣身に挟まれるように新たな刃が生えてきて、真っ白な大剣ができた。






「………………」


 突然の出来事に、私は変化あとも言葉を失っていた。


『――――――優姫』


 私の意識を戻したのは、再びかけられた重の声だった。


 私はハッと目を覚ます。


「かっ重!? 大丈夫っ!? 何があったの!?」


 そしてすぐ、変化が起こった身である重のことが心配になった。


『ああ、大丈夫だ』


 重からの短い返答。


 私はその言葉に安堵して、もう一度じっくりと重の姿を見る。


 ……どこからどう見ても、真っ白だ。黒化時の見た目を色反転したみたい。


 私が確認していると、重は続けて、今起こったことの説明をはじめた。


『優姫。黒化時の炎が搭乗者の心の色を体現していることは、知っているよな』


「う、うん」


『俺の今のこれ――白化とでも言おうか――も、それの類なんだよ』


「……え!? ということは……」


 そこで重は、恥ずかしそうにちょっと声を小さくする。


『……ああ。今まで、心配掛けさせてすまなかった。……もう、大丈夫だよ』


 私は数秒瞬いて――その末やっと言葉の意味をちゃんと認識できた。


「そっか! やったね、重!」


 彼の心の炎は、『罪』の意識の黒ではなくなった。


 私はそのことに、うれしくてたまらなくなる。


 あれ、でも、そうなると。


 今の重の白は、何を表しているんだろう。


「ねえ、重」


『なんだ、優姫』


「その白は、何を表してるの?」


『ああ、これは……』


 言いかけて、重は少しの間口をつむぐ。


『……覚悟、だよ』


「覚悟?」


『ああ、そうだ。


 優姫。俺が白化する前、なにか言っていたの聞いていたよな』


「あ、うん。誓いみたいな、あれでしょ」


『誓い、か……。うん、そうだな。あれは誓いでもあるな』


「え?」


『俺は、心の中にあった『覚悟』を口にすることで――『覚悟』を『誓い』にしたんだ』


「???」


『えっと、つまりだな――言葉にすることで、心の中の形になっていなかった『覚悟』を、形のある『誓い』にした……って感じかな』


 ……なんとなく、わかったような気がする。


 心にあるあやふやな感情を、言葉にすることで改めて明確に胸に刻めるものにした……そんなところだろうか。


『優姫』


 重の言ったことを自分なりに解釈していると、重が私に話しかけてきた。


『おまえは今、盾の分離ができるんだよな』


「あ、うん。一応は」


 重との戦闘中は、使う暇がなかったけれど。


『……なら、大丈夫だな。


 優姫、お前のその盾の分離はな、反物質が一定量以上流れないとできないんだ』


「うん、玲が言ってた」


『その一定量って言うのはな、普通の状態じゃ不可能なんだ』


「へ? どういうこと?」


『簡単に言うとな――優姫、今のお前は俺の黒化や白化と同じように、心のオーバーフロー状態にある

んだよ』


「え?」


『思い出してくれ、優姫。盾が分離できるようになる直前、自分の中にある強い感情の存在に気が付いたんじゃないか?』


 自分の中にある、強い感情?


 重が言った言葉を、頭の中で繰り返す。


 ……今の自分と昔の自分が一緒だったということだろうか。


『俺たちは優姫のそれを、紅化と呼んでいるけどな』


 あれ、そうだ。


 今の私の鎧は――紅い。


 紅色の感情――――――?


「……あぁっ!?」


『思い当たったか?』


「え、あ、う……うん、一応は」


 もしかして。いや、もしかしなくても。




 重が好きという感情、だ。




 …………私はどれだけ、重のことが好きなんだろう…………。


 あ、あれ? でも……。


「ちょ、ちょっと待って、重。私、鎧の周りに何もでてないよ?」


 そう。どこをどう見ても、私のイレイザーのまわりには重のような炎が見られなかった。


『ああ、それは単に想いの強さが足りないから……だろうな』


「え」


 ……なんだか地味に傷付く。


『いや、それが当然なんだ。優姫』


 重はそう付け足す。


『さっき言っただろ?


 感情は心の中では形になってない、って』


 不意に、嫌な予感がした。


「えっと、じゃあ、炎をまとうためには――――」


『ああ、そうだ』


 重が私の言葉を引き継ぐ。


『その想いを、口にすればいい。


 そうして初めて、心に形が与えられて――『誓い』になる』


「…………………………」


 つまり。


 私が炎を身にまとうためには。


 重に、告白しないといけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ