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No.18 重、帰国

重が帰国した後のお話です。


短いです。すいません。


「ふぅ……」


 俺は学園に帰りつくなりベッドに腰掛け、息をついた。


 時間はこっちの時間で午後十一時少し前。あと一時間もすれば、『今日』が終わる。


 荷物は全部あっちで郵送したので、荷ほどきをする荷物はいま手元にない。


「…………」


 ぼうっと虚空を見つめながら、俺はフランスでの出来事を思い出していた。



 フランスに着くと、俺はまず最初に騎士統合情報管理所に向かった。ベル以下、原子力発電所のジャックに加担した人たちの釈放手続きを行うためだ。


 俺は飛行機に乗っているあいだに、彼女らが捕まったというニュースを耳にした。


 世間的には、彼女たちは犯罪者なのだ。まず、自由にしなくてはならない。


 そのへんの上の人とのお話は、意外と簡単に終わった。研究機関クウォークの名前を出し、「これは我々の過ちだった」と述べた後、イレイザー数機をフランス政府に寄贈する約束をしたところ、すぐに了解が取れた。


 しかし、彼女たちを釈放するときが大変だった。


「誰だ、お前は! 私はお前なぞ知らん!」


 腰くらいまであるきれいな銀色の髪を振り乱し、なかなかに整った顔に憤怒の色を表しながら、今にも掴みかかりそうな勢いのベル。


 出会い頭から、これである。


 戦闘中はお互い兜のおかげで顔を見れず仕舞いだったから、彼女が俺の顔を知らないのも仕方のないことなのだが。


 俺だって、ベルがあんなに若いとは思っていなかったし。


「……俺は坂上 重。黒騎士だよ」


 俺はベルにだけ聞こえるように、彼女の耳元で小さく言った。


「なっ……お前みたいな子どもが!? あり得ん! 見え透いた嘘をつくな!」


「…………」


 ……証明して見せた方が早そうだ。


 幸い、付添の騎士には入り口で見張りをしてもらっている。あれなら、こっちの様子はわからないだろう。


「……さて、と」


 早速、イレイザーを身にまとう。


 装着直後、俺はなにか特別なことをすることもなく――黒化した。


 いつもは昔のことを思い出したりしないと、黒化は発動しないのだが。


 ……おそらく、すでに負い目を感じているからだろう。ベルが目の前に居る、ということだけで。


「…………なっ…………!?」


 俺が冷静に自己分析をしている一方で、ベルはひどく驚いていた。


「……これで信じてくれるか、ベルティーユ・アゼマ」


 彼女が驚いているのに気付くと、俺は彼女にわかりきったことを訊ねた。







 全員の釈放を終えると、俺はベルに頼んであの事件での被害者や家族のもとを訪ねた。


 俺はここで、少し肩すかしをくらう。


 泣き出す人や悔しがる人は多かったが、俺を責める人はただの一人もいなかったのだ。むしろ「あんたは立派だ」と励ましてくれる人がいるくらい。


 ……ベルは、苦虫を噛み潰したような顔をしていたけれど。


 そして最後、俺が日本に帰るとき――俺は初めて、ベルと『話をした』。




「いろいろ世話になった。あんたのおかげで、ちゃんと俺なりにけじめをつけれた気がするよ。


 本当にありがとうな、ベルティーユ」


「…………ベルだ」


「え?」


「 ベ ル だ 。


 毎度毎度ベルティーユというのは面倒だろう。……私のことは、これからベルと呼ぶといい」


「え、で、でも、突然なんで――」


 彼女が提案してきたのは愛称で呼ぶこと。


 しかも、この口調だと――またいつか、会おうと言っているようにも取れる。


「勘違いするなよ」


 混乱している俺に、ベルはピシャリと言った。


「私はお前のことを許さない。騎士として、お前は絶対的に間違っている」


 俺の目をしっかりと彼女の目でとらえながら、ベルは宣言する。


「……だが、その、なんだ」


 が、突如目をそらしてなにかもごもご言うと、目をそらしたまま顔を真っ赤にして言った。


「今言った通り、私はお前のことを騎士としては認めない。


 でも、まあ……人間としては、その……尊敬して、いなくもない……」


 彼女はそう言って、俺に背を向ける。


「じゃ、じゃあな、カサネ。こっちに来た時にはまた、顔を見せてもいい、ぞ」


 はじめて、俺の名前が彼女の口から呼ばれる。――ずっと、『黒騎士』と憎々しげに呼んでいたのに。


 こっちを見ずにぎくしゃくと手を振って、そのままベルは歩いていった。


 去り際の真っ赤な耳が、とても印象的だった。


 ……認めてもらえた、のかな……?


 こう、言葉にはしにくいけれど、こみ上げてくるものがある。


 俺はその感情を噛みしめながら、飛行機に乗り込んだ。そのときの顔は間違いなく、にやけていたと思う。




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